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命を継ぐ者。 〜 Inherit the Life. 〜  作者: すにた
第八章 それぞれのフロンティア。
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墜ちる㕶星、拾う百萬星。 〜7

 三菱・F-3Eと三菱・QF-3Eで構成された飛行隊によるラオス北部空域の通過が確認された。


 反時計回りで東側から交戦空域に入り、ラオス(人民解放軍が)最北部の(実効支配中の)ルアン・ナムター県のボーテンに近付き、その後に西側から抜け去った。


 レーダー用のエンハンス・カバーを装着していたので、ボーテンにかなり近付いた頃に捕捉された。だが、高度2万0,000mを超える空気を高速で飛行していた為に、対空ミサイルが発射されながらも被害は受けなかった。


 目標に追い付く前にミサイルが搭載する燃料切れてしまい、全ての推力を使い果たしたせいだ。


 偉大なる党の極上澄みの指導者達は、朝間ナヲミが自らの手の届く空域に入った事を心から喜んだ。


 心底から喜んだ。久しぶりに不愉快を忘れて、愉快と言う感覚がある事実を久しぶりに思い出し、心理的に若返った自分達の心持ちに戸惑いながらも、心ゆくまで若々しく蘇った想像力を弄んだ。


 5つの戦区、予め五分割してある戦域統合作戦指揮組織構造を完全に無視する航空戦力の集中をもって応える事にした。


 本来ならば、南部戦区の指揮下に入る筈の航空戦力は、中部戦区の指揮官に隷属する事を要求された。


 ロケット軍は、指揮下にあるミサイル発射基地に一つの命令を受けた。命令はたった一つだったが、その単純な指示を実現する為には膨大な労力と、前代未聞の挑戦が要求された。何故なら、それは瀋陽基地に配備されるミサイルの標的を従来のそれらから、雲南基地のそれらと重ね合わせると言うものだったからだ。


 瀋陽基地に配備されている大陸間弾道(ICBM)ミサイルや準中距離弾道(MRBM)ミサイルの旅行先が日本国や台湾民国から東南アジアへ変更されたのである。


 もちろん、地上発射型の長距離巡航ミサイルの取り扱いについても同様だ。


 流石に、第五次台湾海峡危機に備えた皖南基地の戦力に付いては移動や目標の変更は免れた。


 いや、現状維持を敢えて貫いたのは、台湾民国及び民主主義国家群によって、不本意にも大陸側に築かれてしまった実効支配地域に対する牽制を怠れないと言う、苦しい社会事情によるものだろう。


 それと、配備されたミサイルの射程距離が比較的に短く、発射台を動かす事なくラオス領土を攻撃するのが困難と言う事情もあったかも知れない。つまり、ミサイルを自由に移動させる=発射位置を好き勝手に変更出来る、大型ミサイル対応のオフロード・坂道移動対応の新型輸送起立発射機(TEL)を量産出来ていないせいだろう。


"手を付けてはいけない金に手を付けてからが本当の勝負だ"的な熱烈歓迎で、朝間ナヲミを迎えたかった。


 まるで・・・、


"手を付けてはいけない金に手を付けてから興じるギャンブルこそが人生の醍醐味だ"と言う、デカダンス(エピクロス)的な大はしゃぎをしている様にしか見えなかった。


 でありながら、現実の方は、人民共和国を支配する偉大なる党の極上澄みの指導者達の"お気持ち"に寄り添ってはくれなかった。


 雲南省とその周辺の空軍基地には、多種多様なAVIC・J-20「威龍」が、北部戦区や西部戦区からかき集められていた。


 だが、それらを同時に出撃させて、出撃を繰り返させるに十分な航空燃料、定期的に交換する消耗品、敵に対して使用される武器の方はまったく到着していなかった。


 それから、整備員も。


 空輸出来るAVIC・J-20「威龍」と違って、それ以外はほとんど全てを陸上輸送するしかない。鉄道やトラックで一つ一つ運ぶしかない。


 最も用途が離れたJ-20同士を並べれば、それらは似て非なるモノと見えた。とても同一機種には見えなかった。流石に垂直尾翼が1枚になったり、3枚になったりはしなかった。だが、機体下部から生えているベントラル・フィンに関しては百花繚乱な具合になっていた。


 それはつまり、一括りにJ-20「威龍」ではあっても同一構造に統一されていない事を意味する。それらをまともに運用する事はどう考えても容易ではない。ジオン公国(ナチス・ドイツ)でさえも、"統合整備計画(シュペーア・プラン)"を戦争末期に立ち上げる程に重要な問題が生じていた。


 兵器の気ままな開発と改修してしまうと、後から大変なことになる。そう言うのはしっかりと計画的に行わないと、十分にご利用出来なくなってしまう。


 机上の空論で勝てるのは、想像上の世界でだけである(※)。


 それでも見た目上の数は揃っていた。AVIC・J-20「威龍」だけは、目に栄える勇ましいモノだけはラオス国境の北側に集結を終えていた。


 ただ、目に見えないけれど最も必要なモノ、色々と不可欠な沢山を遙か後方に置き去りにしたままであった。兵站部隊も不眠不休で、それらが追い付かせるべく必死に働いていた。しかし、戦区を跨いだ物資の輸送などほとんど演習のメニューに入っていなかった。だから、輸送力が貧弱なだけでなく、兵隊部隊同士の連携も上手く取れていなかった。


 残念な事に、見た目は完璧、実情は残念だった。


 支配者達の"一挙手一投足"に気を配る者達は、一分一秒でも長く掻き集めた大戦力が偶像、張り子の虎であると言う事実を隠し通したかった。支配者達が現実を積極的に把握すると言う本の僅かな労力を払おうとせず、虚構をもって架空の"清波(心の平穏)"へと誘われてる事に気付かない事を祈り続けていた。


 ーーー破綻はいつか必ずやって来る事を承知しながら。


 清波(心の平穏)の本質とは、心の奥底から満ちて来る根拠のない幸福感に過ぎないのだから。


 実際、AVIC・J-20「威龍」による一斉出撃の繰り返しを支えられる航空燃料、定期的に交換する消耗品、敵に対して使用される武器は既にかき集められていた。持ち合わせていない訳ではないのだ。


 だが、それらは全て使用すべき場所から遙か彼方に集積されたままだった。それらをラオス国境の北側まで短期間で輸送し終える手段を、人民解放軍が持ち合わせていなかったせいである。


 ーーー無い袖は振れないのだから。


 上半身はムキムキの筋肉質であっても、下半身はひょろいとは言えなくてもまだまだ発展途上。合衆国人のマッチョさんにありがちなアンバランス感。無理をして近代化を達成した国家や組織にこの傾向が著しい。つまり、それらの国家や組織の真実は、外観としては近代化を見事に達成していたが、内観としてはまだまだ発展途上と現実が、竹や笹の葉の陰からチラチラと見え隠れする。


 ただ、その手の不適切で不適当で不愉快な現実に気付けて真正面から向き合えるのは、それなりの胆力を持ち合わせた者達だけだ。


 人民共和国を支配する偉大なる党の極上澄みの指導者達は、現実を受け入れるのを止めて、このままはしゃぎ続けたいと言う人間らしい業に素直に従いたい。どうしようもない程に強い誘惑にはどうやっても勝てなかった。

※= そもそも、この話を支える世界も筆者の想像上の世界。だから、机上の空論でも十分に勝算が生じるのは当然な気もする。

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