最終話:ついに見つけた
長らくお待たせしました。ついに完結です。
「・・・・・むっ」
牛車に揺られながら母上と飛天を乗せた牛車の後を追っていると不振な気配がした。
「どうかしたんですか?月黄泉様?」
水藻とお葛が妾の様子を感じ取り不安げに覗き込んできた。
「飛天と母上の気配が牛車から離れた」
「夜叉王丸様と大御所様が?」
「うむ。どうやら何処かに隠れる気じゃな」瞬時に考えを巡らせる妾。
あの二人の事、何か良からぬ事を考えて要る筈。
ここは油断せずに行かねばならんな。
「あの、どうしますか?」
「決まっておる。二人の気配の後を追う」
間を入れずに答える。
「妾らも牛車から降りる」
草履を履いて牛車から降りる。
「あ、待って下さい!?」
二人も慌てて草履を履き降りてきた。
「行くぞ。油断するでないぞ」
十二単の裾が土で汚れたが知った事か。
今は飛天を母上から取り戻すのが先決じゃ。
気配のする方向へと足を進める妾は不安と期待で押し潰されそうだった。
飛天と母上は本当にこっちにいるのだろうか?
無事に飛天を母上の手から取り戻せるだろか?
・・・・・嗚呼、飛天。どうか妾に力を与えてくれたもれ。
瞳を閉じ飛天に願う。
「月黄泉様?」二人が不安そうに見てきた。
「・・・何でもない。行くぞ」
二人に気付かれないように言うと茂みの中を押し進んで行く。
待っておれよ。飛天。
「・・・・・はぁー。良い湯ー」
玉藻は白く濁った湯船に全身を浸かりながら腕を伸ばした。
「こんな気持ち良い湯は始めてよ!飛天」
玉藻は端っこで湯船に浸かりながら酒を呑む夜叉王丸を見た。
「・・・・・そいつは良かった」
酒に酔ったのか湯船にのぼせたのか夜叉王丸は気の抜けた声だった。
「もう!こんなに良い女が傍に一人でお酒?」
「貸して。私が酌をして上げるから」
夜叉王丸に近づき酒が入った瓢箪を取り上げる。
「さぁ、どうぞ。飛天」空のお猪口に酒を注ぐ玉藻。
「・・・・・・・・・」酒の入ったお猪口を一気に呑む夜叉王丸。
「良い呑みっぷりね。どうぞ」ご機嫌上々の様子で笑う玉藻。
夜叉王丸と二人だけの秘密の温泉がよほど嬉しいようだ。
「そんなに嬉しいのか?姫君」
「えぇ。ここは私と貴方だけの秘密の場所。月黄泉達は知らないからね」
うふふふふと笑いながら夜叉王丸に寄り掛かりお猪口を取り上げる玉藻。
「飛天っ。だーいすき!」
すりすりと夜叉王丸の胸板に顔を埋める玉藻。
「おいおい。さっきは大嫌いじゃなかったのか?」
「んっ、それはさっき。今は大好きなのっ」ぷぅと頬を膨らませる玉藻。
「やれやれ。気紛れな姫君だな」
苦笑しながらも玉藻の顎を持ち上げ軽く口付けする。
「んふふふふ」軽い口付けをされただけで嬉しそうに笑う玉藻。
「・・・・愛してるわ。飛天」
玉藻から夜叉王丸に口付けをしようとした所で
「・・・・・やっと見つけたぞ。母上」
地を這うような声の方向に視線を向けると腕を組み全身を土で汚した月黄泉が凄まじい形相で玉藻を睨んでいた。
「・・・・あら?何か用かしら?月黄泉」玉藻も負けじと月黄泉を睨んだ。
「何か用とはご冗談を・・・・・我が夫、飛天を取り戻し参ったのです」
「くすっ。この私から飛天を取り上げるとはいい度胸ね」
湯船から腕を出し狐火を作る玉藻。
「はっ、人の夫を誑かしたのに随分な言い訳ですね」
月黄泉も狐火を作り威嚇する。
「忠告です。飛天を妾に返し那須にお帰り下され。さすれば命はお助けしましょう」
「飛天を返して那須に帰れ?・・・・・・・・舐められたものね」冷笑を浮かべる玉藻。
「どうしても飛天は返さない気ですか?」冷静な声で尋ねる月黄泉。
「当たり前よ。二千年も願い続けた恋を邪魔はさせないわ」
こちらも冷静に返答する玉藻。
「・・・・・ならば仕方ありませんね」
「えぇ。そうね」
二人の間に冷風が漂い草木が騒ぎ出した。
「「ひぃっ」」
水藻とお葛は抱き合って悲鳴を上げた。
「力づくでも飛天は取り返させてもらいます!?」狐火を放つ月黄泉。
「やってみなさいよ!小娘!?」
玉藻も向かってきた狐火に自分の狐火を放つ。
二つの炎がぶつかり大きな音と同時に辺りが輝いた。
「「きゃっ!?」」
光が治まり瞳を開けると月黄泉と温泉から上がり着物を着た玉藻が激しく狐火をぶつけ合っていた。
「飛天は渡さないわよ!」
「飛天は妾の夫です!!」
凄まじい親子喧嘩に二人は背筋を凍らせながら逃げ腰になっていた。
「・・・・やれやれ。見っとも無いとはこの事だ」
「「や、夜叉王丸様っ」」
背後を振り向くと着物を着て瓢箪を口にしながら苦笑する自分達の夫に当たる夜叉王丸がいた。
「大丈夫か?あの猪突猛進女に付き合わされて大変だっただろ?」
「「え?は、はっい」」
つい本音を言ってしまう二人。
「正直な娘さん達だ」
笑いながら激しい親子喧嘩を繰り広げる月黄泉に玉藻をちらりと見て二人に振り返った。
「あの様子だとまだ掛かりそうだから俺達は城に帰るか?」
「「えっ?」」
「お前さん達、朝から何も食べてないだろ?それにもう直ぐ夜になるから帰ろうぜ」
「で、でもお二方は・・・・・・・・・」
水藻の質問に
「あの二人なら仲良く帰ってくるさ」
二人を見て小さく笑い夜叉王丸は水藻とお葛を両腕に抱えた。
「城まで飛ぶから掴まってろよ」
背中から漆黒の翼を出し飛び上がる夜叉王丸。
「「ひゃっ」」
「大丈夫だ。ゆっくり飛ぶから」
優しく言って夜叉王丸は城に向かって飛んで行った。
「「あっ、飛天!?何処に行く!!」」
激しい攻防をしていた親子は飛んで行く夜叉王丸を見て叫んだ。
「夜叉王丸様、お二方が何やら叫んでいますが・・・・・・」
水藻が下を見て小さく言ったが
「気にするな。少しは親子仲良く反省するべきだ」
気にも留めずに夜叉王丸は城に向かって飛んだ。
「「飛天!待て!!」」
下からは二人が叫んで夜叉王丸の後を追いかけた。
『このまま城に帰れば後が怖いが、そしたら二人を連れて魔界に逃げれば良いよな?』
くすりと小さく笑って夜叉王丸は次なる逃亡計画を立てながら城へと急いだ。
これで月黄泉の物語は完結です。いつか番外編を書くかも知れませんが、まだ未定です。
これまで付き合って下さった読者の皆様には感謝の極みです!
ありがとうございました!?
これからも夜叉王丸の物語は続きますが、他の物語も書くので飽きずにお付き合い下さい。
それでは良いお年と良いクリスマスをお送り下さい。