魔法と私
お久しぶりです。
2012年にさくら様に頂いていたリクエスト、
『クリスが師匠の魔法をこっそり使おうとして
暴走させて魔王様が巻き込まれた話』です。
もう誰も待ってないかもしれませんが、ひっそりと更新。
「なんで、三大美女の名前なんだ?」
「何が?」
「お前の名前の話だ」
「ああ、クリスティーヌ・デ・マルゲリータね。
私が生まれたときは、それはそれは可愛いお子様で、このまま成長したらそれはそれは美しい乙女になるに違いない。まあでも、生存されてるエリザベート様の名前を付けるのはケンカ売ってるみたいだから、伝説の美女と言われるお二人の名前を頂こう。そうしたら、お二人の美しさを兼ね備えた美女になるに違いない!!
…ってことらしいよ」
「……なるほど。お前の両親もなかなかに偉大なヒトのようだ…」
「うん。おとーさんとおかーさん、大好きなんだ。
この名前も、とっても気に入ってるの。
----だから、この名前を馬鹿にする奴は、絶対に、ゆるさない」
「…ああ、うん、わかった。ダンがお前の名前を呼ばない理由が、よくわかった」
「クリスティーヌって呼んでもいいよ♪」
「…いや、"お前"で、いい」
獣様と二人、仲良くそんな話をしてたのはいつだっただろうか?
最近、獣様に元気がない。
話しかけても返事が返ってこないことがあるし、食事もなんだか上の空。
いつもは私に出来ない家事も手伝ってくれてたのに、最近はいつの間にかどこかに出掛けていなくなってる。
…反抗期だろうか……?
なんにせよ、いつもお世話になっている獣様だ。
獣様がいないと、薬草採取なんか大変なんだ。元気になって、また背中に乗せてもわらなくては。
そんなわけで、師匠の研究室に忍び込んでマス。
何か、いい魔法はないものか…。
あちこちで精霊さんがチカチカ光ながら飛んでるけど、何が言いたいのかさっぱりだ。
そういえば、師匠に腹話術な魔法をかけてもらってから、なんだかあちこちで声がしてうるさかったなぁ。けど、おとーさんとおかーさんに手紙を書いて出したらまた聞こえなくなった。
霊能力的なものが目覚めたかと思ってウキウキしたのに、残念だ。
まぁ今はそんなことより、獣様のための魔法探しだ。
師匠が戻って来る前に探さないと。
あ、これがいいかも。
乱雑に積み重ねられた本の中で、上を飛ぶ精霊さんが一番ピカピカしてたこれ!
これでいこう♪
さっそく、獣様を誘うことにする。
タイミングよく、朝食の後でどこかに出掛けようとしているところを捕獲することに成功。
薬草狩りに誘ったら、すごく嫌そうな顔をされた。少し前は快く引き受けてくれたのに…。
頼み込み、泣き落とし、駄々を捏ねてみたりした結果、お弁当に好物のから揚げを入れるのと、デザートにイチゴのタルトを持っていくことでようやく釣れた。なかなか骨がおれる獣様だ。
ホント、最近の獣様は付き合いが悪すぎる。
でも、例の魔法は、陣を紙に写し取ってきて、あとは呪文を唱えるだけの状態。
これで、獣様だって元気になってくれるはず!
私だって、やれば出来るってとこをみせてやる!!
そんなこんなで、無事に目的地へ。今回はなんと、5回しか穴に落ちなかった! うち1回は獣様ごと落ちたけど、二人とも怪我もなかったし、まぁいいだろう。
それから薬草も採り終わり、休憩を兼ねてお昼ご飯。
天気もいいし、景色もよくて、最高のロケーション。
なのに、獣様はまた浮かない表情。まったく、なんだっていうんだろう?
薬草狩りの途中で、つまずいた私を受け止めきれずに、水たまりに落ちたことを気にしてるんだろうか?
おかげで私は濡れずに済んだし、獣様の服も魔法でささっと乾かしてたから、何の問題もないと思うんだけど。もちろん、ちゃんとお礼は言ったよ!
約束のから揚げとイチゴのタルトも多い目に持ってきたし、サンドイッチもタコさんウインナーも卵焼きも、美味しくきれいにできたのに。
盛り上がらないお昼ご飯を終えて、未だ暗い表情の獣様。
もう、今しかないよね、と懐から陣を写した紙を出し、呪文を詠んでみた。
「ルスイ・コ二・シタワロー・レホナ・ンミ」
「な、なにを……」
詠み終えたとたん、精霊さんたちが、今までになくピカピカと輝く。
そして、そんな光をかき消すくらいに溢れた、たくさんの光。
私も、獣様も、森全体をも包んでいく。
そして、ようやく光が収まり、見たものは、呆れ顔の獣様だった。
「あれ? 失敗?」
そう思った直後、響いてきたのは、ものすごい地響き。
何事かとビクビクしてたら、森のいたるところから動物たちが走ってきた。それはもう、すごい勢いで。
「な、な、な、なに??」
生存本能が起動して、獣様にヒシッとしがみつく。きっと、ここなら安全。
動物達は、勢いを増しながら近づいてくる。しかも、中には魔物までいる模様。
何事だというんだろう??
でもきっと、獣様の側なら安全。だって、元魔王様らしいし。
そんなことを思いながら、がっしりしがみついていたら、いよいよ動物の群れがせまってきた。
ギュッと目を閉じ、獣様にしがみつく手に力を込める。
そして、感じる浮遊感。
目を開ければ、眼下に群がる動物たち。
上空にいる私たちを必死の形相で見上げている。
「えっと、何事?」
訳が分からず、背中に羽を生やした獣様に尋ねてみたら、ものすごく呆れられた。
飛び込んできた鳥を叩き落としながら(下にいた大きな動物の上に着地してたから、なんとか無事っぽい)、深い深いため息をつく。
「自分で使っておいて、何の魔法かわかってないのか?」
「だって、魔法書ってやたら小難しく回りくどいこと書いてあるから、全部は読んでない。けど、《気分を桃色に高揚させる》ってあったから、獣様も元気出るかと思って」
「俺を、元気付けたかったのか…?」
「そうだよ!」
「そうか……」
こんな会話の合間にも、空を飛べる鳥や魔物が襲来してきたは撃退されていく。
やっぱ獣様は魔王様だなぁなんて思いつつ、安全な腕の中。
けど、久しぶりに魔法使ったせいか、この人肌なぬくもりのせいか、ちょっと眠くなってきた。
話の途中だけど、ちょっと寝てもいいだろうか?
お休み3秒で寝れる私の耳に最後に聞こえたのは、深い深い、獣様のため息。
「はぁ……、もしかして、こいつがホントの魔王なんじゃないのか?」
何やら聞き捨てならないことが聞こえた気がするけれど、私はどうやら限界の模様。
おやすみなさーい。
次に目を覚ましたのは、師匠の家にある、私の部屋のベッドの上。
ああよく寝たぁ、と思って起き上ったら、ベッド脇には怖い顔の師匠と獣様の姿が。
……もう一度、寝なおそうかなぁ。
………なんて、もちろん許されなくて、師匠に襟首つかまれて無理やり起こされ、そのまま土下座のお説教姿勢に。
私が何をしたっていうのだろう?
怒られるようなこと、何もしてない、はず……なんだけどなぁ。
「これ、何?」
私の思考を読んだかのように、師匠がズイッと何かの紙を私の前に差し出した。
何やら陣の書かれた魔法書の写しのようだ。
……あぁ、うん、思い出した。
「獣様を元気にする魔法の陣!」
結果はどうあれ、そのための魔法に違いはない。
あれはきっと、呪文を読み間違えたか、陣を写し間違えたに違いない。
そう思って言い切ったのに、師匠にこれでもかってくらいの嫌な顔をされた。
「元魔王を惚れさせて、元気にするってのか?」
「ほ、惚れ…????」
「そう、お前が使ったのは相手を自分に惚れさせる魔法だよ」
「うそ。だって、気分を桃色に高揚させるって……」
「だから、魅了させて欲情させる、そういう魔法。魔法書にもちゃんと書いてあったはずだぞ。まあどうせ、その部分しか読んでないんだろうけどな。いつも注意してるはずだけど? 何回言ったら実行できるわけ? お前の脳みそは飾りか?」
「だって、難しいことしか書いて無いもん」
「だったら使うな。ただでさえお前は、魔力量が多いんだ。魔力のコントロールもできないくせに、魔法を使うんじゃない。そうやっていつもいつも言ってるだろう? 結局、今回みたいに暴走させて迷惑をかけるんだから。わかってるのか?」
「暴走って?」
「それもわかってないのかよ…。今回は、魅了魔法が暴走して、森全体にかかった。結果、森中の動物・魔族がお前に殺到、求愛行動に至った。精霊たちが抑えてなけば、被害はもっと広がってただろうな。ついでに、元魔王がいなけりゃ、お前は今頃、何かの動物の子を身ごもるか、奪い合いの果てに食い殺されてただろうよ。」
「身ごも……」
「それとも、ホントは元魔王を惚れさせたかったのか?」
「ほ……」
なんかもう、私がちょっと言うだけで師匠からの弾丸のようなダメ出し。
私のガラスのハートが粉々に砕けそう……。
でもでも、これだけは言っておかなければ!!
さっきからずっと無言で師匠の隣に立っている獣様を見て、笑顔で言い切る。
「私に惚れたら、火傷するゼ☆」
何とも言えない、白けた空気が部屋いっぱいに広がって、お説教タイムは終了と相成りました。
よかったよかった……?
結局、その日は一日ベッドから起きれなかった。
どうやら、ありったけの魔力を使い切ったことによる魔力疲れだそうで、寝てればそのうち治るらしいので、今日のところは夕飯の支度もお休みして寝てました。
で、翌日。
元気いっぱいフル充電完了な私は、さっそく獣様を裏庭に呼び出した。
今回は木苺いっぱいのジャムサンドで釣れました。ちょろいもんだ。
「何か用か」
どことなく不機嫌な様子の獣様だけど、ほっぺについたジャムのおかげで、むしろかわいらしく見えてます。残念!
「えっと、あの、その、昨日はいろいろとご迷惑をこうむりまして、失礼でした。」
「ケンカを売っているのか?」
「え、なんで?」
せっかく人がしおらしく謝ったというのに、ケンカを売るとか意味がわからん。
本気でわからなくて首を傾げたまま返答を待ってみたのに、返ってきたのは大きな大きなため息だけだった。なぜだ。
「お前は、もっと常識ってものを勉強した方がいい。というか、人生を一から学び直すべきだ。」
「なんで?」
「お前は、すべてのことを知らなさすぎる」
「そうかな?」
「そうさ。今回のことだって、お前の無知のせいでおこったことだ。今まではダンや精霊たちでフォローいしていたんだろうが、いつまでもそれで収まるとは思えない。いつか、もっとひどいことになる」
「えぇ~、大丈夫だって」
「……その根拠のない自信はなんだ」
「だって、フェル様もいてくれるんでしょ?」
「っ……」
なんか、絶句されたんだけど、なんだろ?
今までだっていろいろやらかした自覚はあるけど、なんとかなったし、これからは元魔王様な獣様もいるんだから、大丈夫以外の何物でもないと思うんだけど。
「……もう、お前のお守りはこりごりだ……。」
「おもり?」
「お前に付いてたら面白いかと思って側にいたのに、最近じゃあすっかりお前の便利な移動手段扱い。
あげく、お前の変な呪いみたいなのに巻き込まれて穴に落ちたり水にはまったり…。
側を離れたらいいだろうと離れても、何もないところでつまづいたり、魔法を掛け損なったり。
ホント、お前はなんだ、疫病神か?」
なんか、散々な言われよう。
けど別に、こうして生きてピンピンしてるんだし、何か問題あるんだろうか?
「私は普通の人間だよ?
それに、フェル様もここにいた方が楽しいよ。
そりゃあ、移動手段としてアテにしてたのは認めるけど、それ抜きにしても、師匠と二人より、フェル様が来てからの方が楽しいもん。フェル様もそう感じてくれてると思ってたんだけど…。
いいじゃん、フェル様、長生きなんでしょ?だったらもうちょっと、ここにいたっていいじゃん。
私、もっとお料理頑張るからさ!」
続きを書いてくださるなら、クリスが師匠の魔法をこっそり使おうとして
暴走させて魔王様が巻き込まれた話とかいいと思います
さくら様、リクエストありがとうございました。