第22話
―王都トゥーラ郊外 地下遺跡ダンジョン 第70階層―
ダンジョンの表層を目指すと決めてからある程度経った頃、俺達は順調に進んでいた。
「やはり、このあたりの敵は一筋縄ではいかないですね…」
「まぁ、深層だし当然じゃないか?」
軽く話しながら歩いていると、ついにボス部屋の前に到着した。
「構造的にこの先はボスがいると思うわ。
一旦準備を整えた方が良いんじゃないかしら?」
イリアさんが勧めてくる。
「わかりました。
…と言っても、ここじゃできることも限られてますが」
「それもそうね」
全員の様子をざっと見る。
特段重い疲労感などを感じている人はいなさそうだ。
とりあえずクレアにはポーションを渡しておこう。
「これ持っておけ」
「わかりました。ありがとうございます」
素直にポーションを受け取って貰えた。
「皆大丈夫そうか?」
「あたしはいつでも準備万端っす!」
「妾は平気じゃ」
「私は大丈夫ですよ」
「問題ないわ。さぁ、行きましょう?」
「よし、じゃあ開けるぞ」
そう言って俺はボス部屋の扉を開けた。
―――――――
同じ大きさに均一に切り出された花崗岩が精密に組まれた、今までと同じ雰囲気の部屋。
今までより天井も室内も広く、開けた空間であるという印象を受ける。
「この構造ってことは中ボスが出てくるはずだが…」
どこを見渡してもどこにもそれらしき影はない。
おかしい…討伐されたと考えられる形跡はどこにもなかったが…。
「何もいないっすね……ちょっと残念っす」
ノエルは少し落胆した様子で文句を溢している。
「ノエル…そんな呑気なこと言ってられる状況じゃないだろ?
それにこれが罠だとも限らない。
きちんと気を引き締めなきゃだめだぞ?」
「わかりましたっす!」
元気良く返事をしてくれた。
切り替えが早くて助かる。
「さて、とりあえず警戒しながら周囲の探索を…」
と、その瞬間突如周囲に霧が立ち込め始めた。
「ッ…!」
咄嗟に口を抑える。
うっすらと魔力を帯びた霧だ。
毒や催眠の類ではなさそうだが…。
「霧で魔力探知が無力化される…只者じゃないわね」
この手法を使ってきた敵はかなり限られたはずだ。
それもかなり知性の高い種族…
「…ん?」
うっすらと霧の向こうになにか影が見えるような…。
気のせいか?
ピシュッ!
突如、真横から霧を突き抜けて、空を切る音がした。
「ッ?!」
咄嗟に剣ではたき落とすものの、魔法で作られたものなのか、視認できないまま消えてしまう。
「攻撃…!
方向からして真横……イリアさん!」
「わかったわ!〈烈風炸裂〉!」
イリアさんが真横に向かって風魔法を放つ。
衝撃で霧が晴れる。
そして見えたのは…男の魔族だった。
青い髪に大きな角。
人間と見た目は大差ないな。
「外したか…。
〈闇槍・百連〉」
突如、空中に膨大な量の魔法陣が同時展開する。
「ッ…!?」
クレアが結界を張ろうとしているが、着弾に間に合うか怪しい。
「〈瞬天〉〈電光石火〉ッ!」
〈瞬天〉と〈電光石火〉の同時使用。
相性は良いはずだ。
これで発動前に息の根を立つ…!
「なっ…!?」
繰り出した突きは、息の根自体は止められなかったものの、相手の肩を捉えた。
相手の肩に剣が突き刺さると同時に全ての魔法陣が消失する。
「ぐっ……貴様ァ!」
予想外だったのか、かなり激昂している。
「よし、狙い通り…!」
「やれ、ホーリーナイト。
あやつを八つ裂きにしろ」
ロザリアが指示を出し、ホーリーナイトが魔族に斬りかかる。
「〈神光穿槍〉!」
クレアが光魔法を放ち、無数のレーザー光線が少女に向かって伸びていく。
「ぐっ……なんで聖職者が2人も…!」
光魔法などとは相性が悪いのか、相手は大分少々防戦気味になっている。
「〈影渡り〉〈闇霧〉」
何かしらの魔法を発動したのか、急に敵の姿が消えた。
それとともにまた霧が漂い始める。
「どこに消えた…?」
「〈創生:|ロックワイバーン・十連〉」
魔法が発動すると同時に霧の向こうから数体のワイバーンが襲ってくる。
しかし、いくら魔族と言えど、高位の魔法を何度も使いすぎだ。
そろそろ魔力切れが近いだろう。
「〈烈波斬〉」
隙を見て連続で斬撃を叩き込み、波状となった斬撃を繰り出す。
しかし、ワイバーン達は深い傷が表面に付いただけであり、まだ平気そうだ。
「岩魔法も使えるのかよ…!」
正直、岩魔法と剣術は相性が良くない。
斧ならまだ重さと遠心力でカバーできるが、剣術ではそういうわけにもいかない。
「〈火炎旋風〉!」
イリアさんが魔法を発動し、炎魔法でワイバーン達を一気に焼き払う。
火炎旋風に巻き込まれたワイバーン達は、皆一様にひび割れ、崩れていった。
「そうか…熱膨張!」
岩でできたロックワイバーンは、材質上、岩と同じ性質を持つ。
そして、岩は熱を受けると膨張する性質がある。
これを利用すれば…!
「ノエル!魔族ごと吹き飛ばしてくれ!」
皆それを聞いて俺の近くに集まってくる。
「わかったっす!
防御は任せたっすよ!クレア!」
そう言ってノエルは翼を展開し、天井付近まで飛び上がる。
「〈神意結界〉!」
クレアが俺達の周りに球状に結界を張る。
「ふっ、何を世迷言を、この部屋全てをカバーできるほどの高火力の攻撃なんかそうそう使えるわけが…」
どこからか声が降ってくる。
「行くっすよ……〈神雷滅火〉!」
風が吹き荒れる。
クレアの口に魔力が集中し、光がチラつく。
「なっ…!
この膨大な魔力は……まずい!」
どうやら焦っているようだが、もう遅い。
逃げ道などない。
直後、膨大な熱と光が上から降ってくる。
結界越しでも轟音と熱波、衝撃波が伝わる。
周囲は炎で埋めつくされ、視界が白に染まる。
そして数秒後、黒い霧もロックワイバーンも魔族も跡形なく消え、上からノエルが降りてきた。
「どうっすか?あたしの必殺技!」
「流石だ。助かったよ」
ノエルは満足そうに笑った。




