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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
五章 サディルス魔国
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偽善者

魔族に変装し魔族特有の魔力波長も偽装した。


顔を見られたくないので全身をフード付きマントで覆い顔には白い仮面をつけている。

裏社会の業者というのはだいたい勘で分かる。治安の悪い所へ行き、誰が何の業者か確かめる。


ブローカーはすぐに見つかった。見た目はどこにでもいそうな青年だ。


「証明書が欲しい」


「・・・なんだ?」


「手数料は全額前金。養子を迎え入れるのでその子の戸籍が必要だ」


何を言っているのか分からないかもしれないが平民の身分が欲しいという意味だ。


「じゃあ俺が代行しておくが手数料は三万だ」


「了解」


「・・・確かに三万だな。あとは俺がやっておく」


「助かる」


これで私は平民という偽の身分を手に入れた。ブローカーなら公爵身分も持っているだろうが国全体で一二を争うブローカーに頼まなければならないが今回はその予定はない。


役所というのは書類さえ整っておけば中身なんぞどうでもいいのだ。融資の際もブラックリスト登録されているかどうかなんて役所には分からないし、しっかり管理していると言いながら海の上にどれぐらいの船があるのかすら分からないから騙されて多額の融資の詐欺に騙される。役所なんて杜撰なものだ。

だからブローカーが好き勝手できるのだ。


次は情報屋だな。汚い酒場にいたので酒代と情報料を渡す。聞きたいのは現在の王のこととダルの言っていた商会と取引のある商会、それとまだ取引をしていない同規模の商会のオーナーの弱み。


王は自己顕示欲が強いだけの無能で全国から民を奪っては気分で殺し、重税で民を搾取する。つまり帝国貴族と何ら変わりない。


ここニール領は魔国内で最もマシだがシノギが少ないという裏社会ならではの悩みもあるようだ。


男爵の後ろ盾潰しは王位継承のときと全く同じだったので割愛。ダル侯爵がいろいろといちゃもんをつけて男爵を失脚させたようだ。


そして今は屋敷の応接室にダル侯爵と二人きりだ。また血の入ったカップが二人分用意されたのかは謎だが。


「報酬の話は覚えているな?」


「その恰好だと悪のボスに見えるな」


「私はいろいろと面倒な立場だからな。流浪の身とはいえ裏社会の業者との繋がりはまだ検討中だ」


裏社会ではお得意様にならないと繋がりがあるとはならない。何度も頼って気前よく金を払い、相手から認められてようやく繋がりを持ったということになる。


「それで報酬の話だが私が取り七だ。不渡りの金額は一千万だから七割の七百万を貰う」


七百万分の金貨を受け取り、残りを渡す。


「予想以上の早さだ。これなら裏工作を任せられるかもしれん」


「次はなんだ?こう見えても私は戦うことも得意だ」


「そうだな・・・船を使って五千万の融資を引き出してみろ」


ほう。


「とんでもない詐欺だな」


「できないのか?」


「できるさ。だが五千万の融資を引き出せたとしても報酬でかなり減るぞ。そうだな・・・金には困っていないし、普通ならあり得ないが取り半でいいか?それならお互いに二千五百万の報酬だ」


もう完全に私は犯罪者だな。


前世の新入り時代はいろいろと騙されていたが今世では私が逆の立場になるとは。

なんで私のような犯罪者が政治に関わっているのか不思議だ。


「構わんぞ」


「なら私は早速仕事をしてくるよ。ああそうだ。仕事に使う船は仲間の物か?」


「そうだ。今から連絡するから協力してくれるはずだ。それで船だが北の港町にある。名前はクルセック、種族は魔鳥だ」


「了解」


前世の事件屋を参考にさせてもらおう。


-------------------------


港町に着いた頃には暗くなっていたので宿で一泊してから船を持っているクルセックに会いに行く。

クルセックは今日は漁をしない日だと聞いている。


クルセックの営む漁で獲った魚の直売所へ行きクルセックを探す。見つけた。


クルセックは全身カラフルな羽毛に覆われた人と同じ大きさの鳥だ。


「依頼で来た」


声をかけるとクルセックは私に気づいたらしく、船のところまで案内してくれた。


「これがワテの船や。どないして詐欺るんや?」


少し高い声で聞いてくる。


クルセックの船はまあまあ大きい鉄でコーティングされたこの世界では高級な船だ。


「漁船登録番号は・・・あるな。漁船登録番号を消してもう一回登録すれば詐欺ができる」


「どういうことや?」


「こういうことだ」


研磨機をイメージして手に魔力を集め、漁船登録番号を削る。


すべて削り終わった後は船の色に合わせてペンキを塗り重ねる。怪しまれないよう、他のところも新しく塗っておく。


「この船に関する書類を持ってきてくれ」


「ちょっとまってな・・・これや」


漁船登録票を貰ったので少し小細工して複製する。


「ありがとう。あとはこれをもって司法書士か誰かに確認を貰ってくれ。間違っても海事代理士に出すなよ。専門家には一発でバレる」


「でも司法書士に持ってっても専門外やって言われんで」


「無理を言って手続きをしてもらえ」


-------------------------


数日待って役所が登録をしてくれるとのことなので船の前に集合した。


「ほんまに騙されんねんなぁ」


「役所は書類さえ整っておけば中身なんてどうでもいいからな。ちゃんとした内容確認は海事代理士の仕事だから役所は軽く確認するだけでいい」


魔国はこの世界ではかなり先進国なので頭のいい者が多いため専門職もたくさんあるし、貴重な紙も比較的安価である。


「なんやそれ・・・あ、きたで」


一つ目の男と頭から角の生えた男が来た。


「こちらが新しく登録する漁船で、クルセックさんが所有者ということでいいですね?」


「そうや」


「では漁船番号を彫るので少々お待ちください」


一つ目の男が工具箱から漁船登録を彫るための型を取り出して船に当て、ハンマーで叩く。数回叩くと型通りに文字が刻まれる。


すべて刻まれ終わって紙を漁船番号に押し当てて筆で写し取っている。


「ああ、あれは漁船番号を役所で管理するために取っておくんです。同じ漁船番号を彫るのを防止したり、海の上にいくつの船が浮いているのか管理するためです」


「役所も大変ですね」


こんな簡単に騙されて。これで存在しない船がでっち上げられた。


海の上に船が何個あるなんて分かるはずがない。密漁船だってよくある。そこで人が殺されることもあるのに。


「終わりました。では我々はこれで」


「お疲れさん・・・・これでほんまに騙し取るん?」


「これだけの船で抵当もついていない真っ新な船だから大金は融資してもらえるだろう」


後日役所に行って融資の相談をして、クルセックの存在しない船を担保にすると簡単に五千万の融資をしてもらえた。


「やってもうたわぁ・・・・」


「これでお前も私も犯罪者だ。なあに、ちゃんと返済の手助けはしてやるし、役所も一気にノルマが達成されたって大喜びしていたじゃないか」


「そうやな」


まったく罪悪感を感じないようだ。


「ほんで報酬やねんけど、五千万あげるわ」


「いいのか?」


「こんな汚い金なんか使えるかい。ダル侯爵とうまく使ってクーデター成功させろよ」


「分かった」


-------------------------


「報酬は取り半で私が二千五百万だ」


ダル侯爵の屋敷に来る前に少しだけ換金しておいたのでちゃんと分けられた。


「まさかこんなに早く五千万をだまし取るとは・・・どうやった?」


「それは教えられん。企業秘密だ」


「そうか・・・ではこの金で準備を進めておく。何かあれば連絡しておこう」


「分かった」


屋敷を出て街をうろついていると孤児院が目に入った。


「・・・」


みすぼらしいが子供たちはちゃんと育てているようだ。栄養不足感はあるがみんな笑顔だ。


私も前世で独り立ちするまで孤児院で世話になったな・・・。


「失礼、院長はいるか?」


「ひっ!しょ、少々お待ちください!」


入り口で掃除している小さな男の子に声をかけたら少し怖がらせてしまった。まあ全身黒ずくめで白い仮面をつけている身長二メートルほどの男に上から話しかけられたら誰でも怖がるか。


少し待つと長い白髭と髪を持ったおじいさんが出てきた。私を怖がる子供たちはおじいさんの後ろにいることから信頼されているのだろう。


「ど、どんなご用件で?」


「寄付をさせてもらいたい」


「はい?」


「ここではないが私は独り立ちするまで孤児院に面倒を見てもらったからな。孤児院を見つけるとよく寄付をしている」


そういって二千五百万が入ったずっしりとした銭袋を渡す。予想以上の重さに驚いて落としてしまい、大金貨が少し銭袋からでた。


「だ、だだだ・・・・大金貨!?」


「その金で孤児院を改修して子供たちに温かい食事としっかりした寝床を与えてやれ」


「おおお・・・・あなた様は・・・おや?」


言い終わる前に孤児院から離れる。


・・・。


私はとんでもない偽善者だ。

あの詐欺で手に入れた汚れきった金を渡したのだから。


あの孤児院の子供たちは喜ぶだろうが、私に喜ぶ資格はない。


ただ、偽善者と蔑まれてもいいから孤児の子供たちには元気に育ってほしいのだ。

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