吸血兄妹の親からの依頼
魔国は四方を山に囲まれた超巨大なクレーターのような穴のなかにある。上空から見ても地平線が見えないほど巨大なクレーターだ。
このクレーターがなんなのか、どうやってできたのかは誰も知らない。
魔国と言っても国は何個かあるが魔国と言えば最も大きい穴の中心部にある国のことを指す。
近くに降りて人型になり、『変装』の魔法で髪を黒くして二本の角を側頭部から生やす。
悪魔の姿をイメージしたのでそう簡単にはバレないだろう。
入国するために魔国の門へ行き、冒険者カードを見せて入る。
魔国は人以外は王都と何ら変わりなかった。売り物や街並みは違うが、基本的に同じだ。
「家はどこだ?」
「こっちだ」
吸血兄妹の家は王都の貴族地区にある。
無駄にきらきらした大きな家や禍々しさを感じさせる家、洞穴にしか見えない家があったりとかなり個性的だ。
吸血兄妹の屋敷は全体的に赤かった。
門番が私たちを見つけると大慌てで屋敷へ入り、すぐに大勢の使用人らしき侍女が数人出てきた。
「エル様にラル様!いままでどこにいたのですか!」
人のよさそうなおばあさんが二人を抱きしめる。私はというと侍女たちに襲われていた。
全員吸血鬼で腕や首筋に嚙みついてきては血を吸っている。吸われても問題ないし、相手を傷つけて悪者扱いされても困る。
「ちょっと全然倒れないじゃない!」
「どうなってんのよ!?」
「・・・濃厚でものすごく美味しい。ゴクゴク」
一人だけ反応が違うがいくら吸っても効果がないことに驚く吸血鬼の侍女たち。吸血兄妹が止めてくれないのが気になる。
「いつまで吸血するつもりだ」
血を飲まれるのはなんとなく変な気分になる。
人によって飲み方が違うらしくラルのようにすごい勢いで飲む者もいれば軽く傷をつけて血をなめとる者もいる。くすぐったい。
「離れろ」
威厳に満ちたよく響く声。
侍女たちが一斉に私から離れ、口の血をぬぐって頭を下げる。
声の主は渋いダンディなおじさん。私も中身は爺だが。
黒目黒髪で黒いスーツを着ている。おそらく当主だろう。
「父上!」
「父さん!」
エルとラルがおばさん侍女の拘束を解いておじさんに抱き着く。
「いままでどこに行っていた」
怒っているように聞こえるが明らかに心配している。いい父親なのだろう。
ラルはぐすぐすと泣いている。家出したから父親とも仲が悪かったのかと思ったが違うようだ。
「ところで貴様は誰だ?」
鋭い目つきで私を見る当主。これ私が攫ったと勘違いしているな。
「Sランク冒険者シュラだ。この国に用があったのでついでに送り届けた」
「本当か?」
懐疑的な目だ。
「本当だ」
吸血兄妹はなぜ何も言わない。お前たちが証言してくれないと私は誘拐犯にされたままだ。
「嘘に決まっています!あなたは魔族ではありません!人間の国で魔族を闇市場で奴隷として売り出すつもりだったに違いありません!」
もう変装がばれた。
私の血を吸っていた若い侍女が私を指さして叫ぶ。本当になんで止めないんだ吸血兄妹よ。
見てみると二人とも細かく震えていた。あれは再会の喜びではなく笑いを堪えるために震えているのだろう。
「貴様殺す」
当主の目から光が消えて機械的な声で殺害予告してきた。
常人なら殺意に当てられて震えあがるだろうが私にとっては「マグロ船に乗せるぞゴラァ!」程度だ。伊達に裏社会と関わってきたわけではない。
ちなみにマグロ船に乗せるのは実際にあるらしく給料もそこそこいいため借金を払わせるために無理矢理遠洋漁業で乗せるのだとか。
真面目に働けばいつかはちゃんと陸に帰れるのだが大体の場合帰ってこない。
別に海に落とされて事故処理されたわけではなく、やりがいや先輩の人生訓に影響されてそのままマグロ漁師になるのだとか。
まあ船長には海で人が殺されてもただの海難事故で処理できる権限があるため真偽は分からないが。
「威圧のつもりだろうが全然だな。威圧はこうやるものだ」
少し本気で殺気を当てる。すると侍女たちは卒倒し当主は耐えたが冷や汗をかいている。
吸血兄妹はさっきは笑いを堪える震えだったが今は完全に恐怖の震えだ。
「エル、ラル、あまり私を怒らせないでくれるか」
実際には怒ってないのだがさっさと身の潔白を証明したいのでちょっと脅す。
「ち、父上、この方は血に飢えて暴走した妹を助けてくれました!決して悪人ではありません!」
「本当か?」
「ほ、本当です!とっても美味しかった、じゃなくて暴走していて襲ったのに怒りもせずに血をくれたんです!」
「ふむ・・・嘘はついていないようだな。すまなかった、娘の恩人よ。非礼を詫びる」
「こちらも威圧してすまなかった」
身の潔白が証明され、客人として屋敷に通された。
屋敷の使用人は吸血兄妹を見て安堵していたが私を見ると怪訝そうにしていた。
屋敷も外装と同じく赤が多く血を連想させる絵画などが飾ってあった。
応接室も赤いが気持ち悪い絵画などはなく、必要なものしかなかった。
ソファーに座り、テーブルをはさんで真ん中に当主、私から見て左にエルで右にラルがいる。
使用人がなぜか血の入ったカップを四人分用意して部屋を出てから当主が口を開いた。
「申し遅れたが私はニール侯爵家当主、ダル・フォン・ニールだ」
「人間のSランク冒険者シュラだ」
もうバレてしまっているのですでに『変装』の魔法は解いてある。この辺りはみんな人間との共存派なので変装しなくても問題はない。
「シュラ・・・あの《惨劇を齎す者》か」
「ん゛っ」
思わず血の味しかしない飲み物を吹きそうになった。いつのまにその不名誉すぎる二つ名に変わっていたんだ。私の冒険者の二つ名は《調律者》のはずだ。
「どうした?」
「それは私にとってかなり不名誉な二つ名だ。どこで知った?」
「人間の国の間者から聞いたが、ギルドで聞いたら《惨劇を齎す者》と答えたらしいぞ」
誰が町に広めたんだ。
「なんてことだ・・・」
「なぜ不名誉なのだ?力を誇示するのにうってつけではないか」
「その元が私が学院の合同訓練のときに生徒たちを魔道具で大虐殺を行ったからだよ。もちろん終わってから全員復活させたが、合同訓練に使われた場所は今は『惨劇の大地』として恐怖の象徴になっている。こんなのが元となった二つ名なんて不名誉以外の何物でもない」
「なんと」
私としてもあれはやりすぎたと思っている。いくら復活するからとはいえ恐怖によるストレス障害を引き起こすあのやり方ではいずれとんでもないことになってしまう。
「本題に戻るが、何か私に聞きたいことがあるのでは?」
「そうだったな。単刀直入に聞く。この国で何をするつもりだ」
鋭い目つきで嘘をつけばすぐにバレるだろう。
だが本当のことはまだ言えないので適当に誤魔化しておく。
「視察だ。汚い手だが偽の平民としての身分を作り魔族としてしばらく滞在する」
嘘は言っていない。
「視察の目的は?」
「魔国が人間の国にとって脅威となるかそうでないかを見極めるためだ」
「・・・なら今は脅威だと考えた方がいい」
「ほう?」
「今の王は人間の支配を企んでいる。それは我々共存派にとっては許しがたいことだ。人間の国ではどうなのか知らないが、我々共存派は魔族も人間も獣人も同じような存在だと考えているよ」
「同感だ」
私は魔族でも人間でも獣人でもない竜だがな。
「だが今視察をするのは危険だ。近々共存派の有志と共に首都でクーデターを起こし、共存派のリーダーを王にさせるつもりだ」
クーデターか。
私はリリアから自由にしていいと言われているので遠慮なくプロ市民としてクーデターに参加させてもらおう。
「どのような計画だ?」
「教えるわけにはいかん」
「なら私の本当の目的を話すから教えてくれないか。これでも私は裏社会に詳しいから役立てるはずだが」
「本当か?裏社会の協力を得られるのはありがたいが・・・」
ダル当主は腕を組んで考えている。本当に仲間にするべきかどうかを考えているのだろう。
「仮に仲間になったとして、裏工作で何ができる?」
「それは標的とこの国の裏社会の業者による。大商会なら上手く行けばM資金詐欺、そうでなくても個人に何らかの方法で闇金融に借金をさせて整理屋と手を組み破滅、追いかぶせなど、業者の協力があればできないことはない。手っ取り早く金を稼ぎたいのならパチンコでゴトをしてもいいし、事件屋の仕事をしてもいい」
この世界にも娯楽としてカジノやパチンコは存在する。
簡単な機械などはこの世界にも存在するので前世のやり方を応用すればゴトと言われる不正行為で荒稼ぎできる。
「なにを言っているのかさっぱり分からないな」
「子供が理解していい話ではない」
真っ黒な犯罪の話だからな。
「ふむ・・・目的を話してもらおうか」
「私の目的は魔族の敵対派の王を失脚させ共存派の王を立て国交を結ぶことだ。上手く行けば悪いようにはしない」
「内政干渉にならないか?」
「今の私はどこにも所属しない流浪の旅人だから内政干渉にはならない。あくまでも興味本位でやっているだけだ」
もちろん大嘘だが。
「・・・・ではまず裏工作の腕前を見せてもらおうか。ちゃんと魔族に見えるように変装の手助けをしてやるから自分でやってみろ」
「標的は?それと内容によっては報酬をもらうことになるな」
「敵対派の男爵を潰してもらおう。後ろ盾は小さな商会だ。それさえどうにかすれば後は我々がやる」
「追いかぶせでやるか・・・これだけだと報酬は吹っ掛けるがいいか?」
「どういうことだ?」
「裏社会の人間は安い金では動かん。金を払いたくないのなら不渡り等のサルベージも依頼してくれればいいが。その場合私の取り分が取り七ということになるが」
つまり男爵の後ろ盾の商会と取引している仲間の商会があり、仲間の商会が男爵の商会に不渡りを掴まされてしまったとしよう。
私がその不渡りをサルベージして得られた金額が一千万なら報酬として私が七割の金額を貰うという事だ。
得したのか損したのか分からないが不渡りを出すよりはマシだ。
「ふむ。そう言えば最近不渡りを掴まされてしまったという報告があったな。不渡りのサルベージを頼む。報酬は取り七で構わん」
「了解。ではしばらく待っていてくれ。魔族の偽装に身分確保や裏社会の業者への挨拶をする必要がある」
王位継承のときと同じようにやればいいだろう。
前世なら国の幹部が裏社会に深く関わっていたとしてとんでもないことになっていただろうな。
専門用語がいくつかありましたが気になる方は調べてみてください。




