魔国へ
「魔族ですか」
「何か知らないか?」
吸血鬼の少女・・・ラル・フォン・ニール令嬢が家出して私の住処に来たので魔族について何か知らないかとリリアを訪ねてきた。
一応いつも城門から入っているが私は顔パスで女王の執務室まで行けてしまうため私のことを知らない人は「何者だあいつ」とじろじろ見てくるのでやめてほしいと思っている。
書類を見てみると余計なものが減っているから私の改善案件が会議か何かで採決されたのだろう。
「我が国は魔族国との関りはありません。現在の魔族の王が人間と敵対しているのもありますが魔族に対する差別意識もあるので」
「王国は差別意識はあるか?」
「魔族のことをよく知らないので差別意識はないかもしれませんが苦手意識はあるかもしれませんね」
吸血鬼と正体を明かすのはやめた方がいいかもしれない。
「竜様って面倒事の種によく関わりますよね」
「私だって関わりたくて関わっているわけではない。さっさと家に送り返してゆっくり過ごしたいがそうはいかん」
「・・・」
「どうした?」
「竜様、我が国の密使になっていただけませんか?」
「・・・は?」
なんだいきなり。
「その貴族の令嬢を家に送り届けるついでに秘密裏に関係を持っておきたいのですよ。将来その貴族が王になれば得をすることができます」
「言っておくがその貴族は侯爵だから王族にはなれないぞ」
聞いた話では魔族は王は選挙で決まるらしいが立候補できるのは王家の者か公爵家の者のみなので侯爵は王にはなれない。
「公爵にできればいいのですが・・・」
「傀儡にしろということか?できなくもないがやっていることは内政干渉だ。私は反対する」
「内政干渉?」
思わずため息をついてしまう。考えればすぐに分かるだろうに。
「他国の貴族を傀儡にして王にさせて外交や交易で利益を得ようとしているのならそれは明らかな内政干渉だ。やっていることは侵略と変わりない」
「・・・あ」
女王として心配になる。
「では魔族と身分を偽り協力者になるのは?」
「よっぽどのことがない限り公爵にはなれないな。クーデターでも起これば別だが」
「クーデター・・・」
「魔国にも裏社会に反対運動屋がいて上手く煽動すればクーデターを起こせるかもしれんが無辜の民が大勢死ぬことになるな。私としては他国の意思で無辜の民が大勢死ぬのは避けたい」
クーデターが起これば絶対に政府は民を皆殺しにするだろう。
それに成功した後は国の建て直しが必要になり、失敗すれば国はなくなる。
建て直しの間に他国が戦争を仕掛けてくる可能性は十分あるし、生き残った反対勢力がまたクーデターを起こすかもしれない。
一度クーデターが起こればどちらかが完全に消えるまで殺し合いは続く。
「あの、万が一魔国の民がクーデターを起こした場合、竜様はどうしますか?」
「プロ市民になれということか?自衛という名目で協力するか傍観するかの二択だ」
プロ市民は元々は政治に深い関心を持って積極的に行動を起こそうという良い意味だったが今では裏社会の職業となり侮蔑表現として使われる。
魔族の王があまりにもひどい政治を行っており、帝国と変わらないのならクーデターが発生したときに自衛としてクーデターに参加するが、王が敵対しているだけで民は苦しんでおらず他国と不干渉を貫く、または今のままでも良いのなら傍観者になる。
「魔族国での身分はどうすればいい?平民ならブローカーを探して偽装身分を作るが」
「竜様、裏社会に関する知識がない私でも分かるように説明してください。プロ市民とかブローカーと言われても分かりません」
「プロ市民は一般市民のフリをしてデモ活動などに参加する左翼関係者に対する侮蔑表現だな。ブローカーの意味は『仲介者』で偽装書類やカードの違法取引に関わっている」
「どうしてそんなに詳しいんですか・・・・」
「前世で深く関わったからだよ。今世でも関わっているがどの世界もやっていることは同じだな。そうそう、私を捕まえようとしても無駄だからな」
「目の前の犯罪者が協力者・・・変な気分です」
「だろうな。だが裏社会と関わらなければ国はやっていけないのも事実だ」
「頭では分かっているのですが・・・それよりも、魔国に行ったら国内の情勢を視察してください。情勢によっては対策しないといけないので。視察の間に暴動か何かが起きたら自分の身を守るようにしてください」
つまり『視察の間に市民がクーデターを起こしたら自衛という名目で協力しても良い』ということか。
「観光気分でゆっくりしてくるよ」
「学院の始業式には間に合うようにしてくださいね?」
始業式に間に合うのならずっと魔国で過ごしていてもいいのか。
「ああそれと、一つ伝えておかなければならないことがありました」
「なんだ?」
「女王の権限で一時的に竜様との条約を無効化します」
「・・・なるほどね」
これで私は野良の竜になったから魔国で何をしようが王国には関係なくなる。つまり自由にしてこいというわけだ。
残っていた書類を片づけて法案の見直しと新しい改善案を提出して森で竜になり住処へ帰った。
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『国へ帰るぞ』
「え?」
『私は魔国でやらなければならないことがあるのでな。ついでに送っていくように言われた。文句はリリアに言ってくれ。私は言われたことを実行するだけだ』
「ま、待ってください!兄がまだ見つかっていません!」
兄?
「兄は私のことを追いかけてくれました。いつも気にかけてくれていたのでもうこれ以上心配させたくありません」
『兄はどこにいる?』
「ちょっと待ってください」
額に手を当てて目を閉じるラル。
「・・・ギルドにいるようです」
『もう分かったのか?』
「私は血縁者の視覚を共有できるブラッドコードを持っています。あ、ブラッドコードというのは魔族の持つ職業のようなものです。では兄を迎えに行ってきますね」
山を下りていくラル。兄とはどんな人だろう。
三十分ほど経つとラルと一人の青年がやってきた。青年は黒目黒髪でなかなかの美男子だ。
「あなたが妹を助けてくれた竜ですか」
『そうだが』
意外と落ち着いている。今までほとんどの人が私を見て怯えていたが。私の偉そうな口調に原因があったのかもしれないが。
「俺はエル・フォン・ニールと申します。この度は妹を助けていただきありがとうございました」
青年が頭を深々と下げる。
『そんなにかしこまる必要はない。楽にしてくれればいい』
「よろしいのですか?」
『対等な立場の者がほとんどいないのが私の悩みだ』
オスローは私の正体を知らないので対等な立場で話してくれるが私が竜だと知ったらどう反応するだろうか。
おそらく戦いを挑むか敬語になるかのどちらかだろう。
「ではそうさせてもらおう。お前は魔族の国でやることがあると言っていたが何をするつもりだ?」
『それは言えんな』
「一つだけ聞かせてくれ。それは俺たちにとって不利になることか?」
『状況次第だな。なるべくそうはならないように動くが。そろそろ行くか。乗れ』
尻尾を地面につけて乗せる。
「鱗が刺さって痛いです」
『私も噛まれたとき痛かったぞ』
「は、恥ずかしいので言わないでください・・・」
暴走したことは吸血鬼にとっては恥ずかしいことらしい。
魔法で補助しながら上空へ上がっていき、魔国の方向を聞いて飛んでいく。いつも気圧の問題で苦しいとか飛ばされると言われていたので風魔法で私の背中は快適な環境にしている。
「あの、魔国には冒険者と言えど簡単には人は入れませんよ」
『その対策は考えてある。私の魔法で魔族に変わるつもりだ』
「冒険者カードでバレたらどうしますか?確かSランク冒険者でしたよね?」
「それには俺が答えよう。魔国の政治は閉鎖的だからランクは見ても正体までは確かめないし確かめたとしても無理だ。人間のギルドと魔族のギルドは別物だからな」
『ギルドは別物でもランクは共通なのか』
「そうだ」
魔国か・・・どんなところなのだろうか。




