連携できなければ死ぬ
襲撃はレイドクリスタルを中心として二キロメートル離れた場所から円形に魔物が出現しレベル式で時間が経つにつれどんどん敵が強くなっていく。
小高い丘で視力がいいか探知の魔法を使えば分かる距離だ。
まず最初に出てくるのはスライムとゴブリン。雑魚中の雑魚である。
予想通り一瞬で死んだ。
さて、ここからどんどん魔物が強くなるがどうなることやら。
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戦闘科の生徒 ~襲撃レベル3~
「はっ、弱い弱い!やっぱ俺たち最強だな!」
またアイツが叫んでいる。正直言ってうるさい。
俺は差別意識は特にないが、全くないわけではない。
こんなスライムとかゴブリンとかの雑魚相手に連携しようなんて、とんだ腰抜けだ。
スライムは顔に引っ付いて窒息させようとしてくるが引きはがせば問題ないし、ゴブリンは俺たち男なら難なく処理できる。
しかし量が多いな。血の臭いが気持ち悪い。
しばらく倒し続けていると新たな敵が現れた。オークだ。
「おい、オーク相手に一人じゃキツイぞ」
「なに言ってやがる?俺たちはさいきょ」ぐちゃっ。
「・・・?」
目の前で仲間が頭を握り潰された。たかがオークに。
しかもオークは握り潰した友の頭を食い始めた。
くちゃくちゃと嫌な咀嚼音と共に別のオークがやってきて鎧を剥いで食べ始める。
そして一体のオークがこちらを見た。その目は俺を食べもとしか見ていなかった。
「・・・・う・・うわぁぁぁぁぁぁぁ」
怖い怖い怖い!
目の前でさっきまで一緒にいた仲間が殺されて食われて。
逃げたい!
「がっ・・・」
背中が熱い。少し遅れて矢が刺さったのだと分かった。
毒が塗られていたのか体が動かなくなる。
矢を撃ったのが誰か分からない。探す間もなく俺の目の前にさっきのオーク共が現れた。
ぐじゅっ。
「あああああああああ!!!」
足を食われた。
生きたまま食い殺されるのか。たかがオークに。
死にたくない!
いつの間にか四肢がすべて食われており、俺の目の前にはオークの口が迫ってきていた。
それが最期の景色だった。
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「うっ・・・」
クリア教授がオークに食われた生徒を見て気分が悪くなったようだ。
「クリア教授、学院へ戻るか?」
「いいえ・・・宮廷魔術師がこれぐらい耐えられて当たり前です・・・・・・」
そうは言うものの顔が真っ青だ。吐き気を催す咀嚼音もハッキリ聞こえてくるため、前世でスプラッター映画を見ても耐えられる人でなければ吐くかトラウマになるかのどちらかだろう。
「これが戦場の恐怖なんだよ。俺だってな、冒険者時代に虎の魔物に食われた奴を何人も見た。魔物との戦場では生きるか死ぬかの二択以外はない。痛みを感じず死ぬのはよほど幸運でないとできねえ。大抵はあいつらのように苦しみながら死ぬ」
「まあ、あんな死に方をするのは私がいじくって通常より能力値を上げたりできる限り恐怖を与えるように設定しているからですがね」
戦闘科は最初は一番魔物を狩っていたものの、オークが出現してからは一気に狩れなくなった。
戦闘科の生徒たちは自分たちが押されていると理解できないのか、それとも理解したくないのか。
「どちらにせよ、愚かな選択だ。私には自分から死を選んでいるようにしか見えないよ」
誰にも聞こえないよう一人で呟いた。
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魔術科の生徒 ~襲撃レベル5~
「キモイ!」
「ギギッ!」
目の前でゴブリンが焼け死ぬ。
私たちを見た瞬間腰蓑の一部が上がるから気持ち悪い以外の何物でもない。
「ほんとあいつらクズだよね。あたしらを魔物に殺させるつもりだもん」
「本当に」
生き残ったら復讐してやる。
「助けて!」
声がしたので駆けつけると女子生徒が服を脱がされてゴブリンに襲われていた。
素早く頭の中で適切な魔法を選び詠唱する。
「『風刃』」
炎だと女子生徒も巻き込んでしまうので切断に特化した魔法を使う。
ゴブリンが死ぬと傍にいた仲間がゴブリンの死体を蹴りとばす。見るとゴブリンのアレから白い何かが出ていた。とても気分が悪くなる。
(マジかよ・・・)
助けるのが一瞬でも遅れていたら手遅れだった。
いまだに呆然としている女子生徒に声をかけたいがかけられない。だってほぼ全裸だもん。
服を着ているが前の体は隠されていないため僕のような男子生徒には見ることが出来ない。
それにゴブリンを蹴り飛ばした友達の女子生徒からものすごい圧を感じる。
「えっと・・・」
背を向けながら声をかけよう。
「あんた大丈夫なの?変な感じしないよね?」
やっぱり友達に任せよう。
「わ、分からないよ・・・・」
「じゃあしばらく様子を見よう。ゴブリンにやられたら数分で子供産む羽目になるらしいから」
何それ怖。
男の僕が居てはいけないことを察したので離れる。
「あれは・・・?」
見たことのない魔物がいる。
オーガに似ているが違う。とりあえず消そう。
切断でいいか。
「・・・『風刃』」
まっすぐ飛んでいき、オーガ擬きの魔物の首を切断する・・・はずだった。
首に当たったのにまったく傷がついていない。それどころか当たったことにすら気づいていないようだ。
「・・・『鎌鼬』」
中級魔法を放つ。
対象の体を切り刻むはずだったが、さっきとおなじくオーガ擬きは気にも留めなかった。
「どうしろっていうんだよ・・・」
オーガ擬きがこちらに気づき、タックルしてきた。速い!
避けられず吹き飛ばされる。骨が何本か折れ、口から血が出る。
「ごふっげふっ・・・」
意識が朦朧とする。
目の前にはオーガ擬き。
足を踏み潰されたが痛みは感じなかった。
もう死ぬんだと直感で理解できた。
頭のなかで今までの思い出が駆け巡る。これが走馬灯か。
走馬灯の中で一人の少女が脳裏に焼き付いた。僕が大切にしていた名前も知らない少女だ。
(ごめんね・・・兄ちゃんは君を助けられなかったよ)
さようなら。
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「ああ・・・あああ・・・」
クリア教授が膝をついて泣き始めてしまった。
「クル君が・・・クル君があぁぁぁぁ・・・」
クル君というのはオーガ擬き・・・『チャージャー』に殺された生徒だろう。クル君がどうしたのだろうか。
孫が聞く前に教えてくれた。
「クル君は元孤児で、スラム街で暮らしてたの。魔法の才能があったから中等学院に入学して一般常識を習って、魔法の腕も上達したから学院に推薦入学したらしいの。クル君は学院に来る前からスラム街に出入りして小さな女の子を大切にしてたんだって。クル君曰く『いつの間にか僕の昔の家にいた』からだって。孤児だから親近感が湧いたらしくて周りからは本物の兄妹だと思われてたみたいだよ。いつか小さい女の子を助けるのが生きがいだったみたい」
「・・・・そうか」
私に彼の気持ちは分からない。孤児でもなかったし、前世も今世も幸せだったからだ。
それでも彼が昔の自分と似た境遇の少女を助けようと思ったのはなぜだろう。少なくとも同情などではないはずだ。
しかし戦場はそんなことは関係ない。
いくら彼のような高潔な人格者だろうと戦場に情けはない。
殺さなければ殺される。それが戦場だ。
もし連携できていれば彼も生き延びられたかもしれないのに。
いや、戦場にたらればはない。
連携できなかったから死んだ。それだけだ。




