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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~  作者: あじふらい
1章 巫女が治める辺境の里

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1-9 やり直し

「っ——!?」


弾かれるように飛び起きる。

上手く息ができない。

首に手を当てたり、自分の腕を確認したりするけど、そこには何もない。


「はぁっ……はぁ……」


神社で目覚めた時と同じ感覚だった。

恐怖も、痛みも、全部はっきり覚えている。

アンデッドに噛みつかれて、切られて、それから……それから……もしかしなくても、私、死んだ……?


「ぅっ……」


強い吐き気を感じて、思わず口を押さえる。


「だ、大丈夫ですか?」


「……はい。大丈夫、です」


心配そうな表情のシルヴィアさんが、しゃがみ込んで視線を合わせながら私の様子を伺ってきていた。

嫌な汗をかいてしまっているし、息も荒くなっているのが自分で分かってしまう。

シルヴィアさんが心配してしまうのも納得の状態だった。

こんなの嘘で、全然大丈夫じゃない。

だけど、説明なんて出来るはずもない。


今、いつだろう……シルヴィアさんがいるし、少なくとも昨日別れて行動を始める前ではあるんだろうけど……。


『ミコト、大丈夫ですか……?』


『……うん……トコヨ、これって……』


『……はい。竜に殺された時と同じように、また、戻ってきたみたいです』


やっぱり、間違いないみたいだった。

夢だと思いたいけど、そうじゃないのは私自身が一番よく分かってる。

あんな、感覚も感情も伴った夢なんて、見たことがない。

あの時の恐怖を思い出して、手が震えてしまう。

しばらく深呼吸を続けたりして、時間をかけてどうにか落ち着いていった。




『トコヨ……前にああなったってことは、ここで別れて動き出すこと自体、駄目だよね……?』


『はい。私もそう思います。少なくとも、私たちも同行して入ってもすぐに引き返せるようにしないと前回の二の舞です』


落ち着いてから現状を把握した。

やっぱり今は昨日の朝、分かれて行動を開始する前だったらしい。

シラノさんたち自警団員と避難民の人たちが私たちの分も含めて朝食を作ってくれていた。

これから行動する際の組み合わせを話し合う感じだろうけど、どうすればあの時のようなことにならないようにできるだろう……


『ここで全部話して止めるって言うのは……』


『ミコト、説明して納得させられます? 私は未来を知っている! って感じの説得だいぶヤバイと思いますけど』


『ぅっ……そうだよね……』


トコヨの言うことはもっともだった。

話し合いの時にトコヨが言ったような意味合いの言葉を言ってアンデッドのことを教えたとして、それで納得してもらえると思えない。

特にセシルさんなんて、明らかに理論派だし理屈で納得できないと……

あっ、そうか。そうすればいいのか。


『お、何か思いつきましたか?』


『うん。多分、これなら大丈夫だと思う。セシルさんも味方につけられるだろうし』


これなら多分大丈夫なはず。

そう思いながら、シラノさんたちが作ってくれた朝食を食べ始めた。




そして、話し合いが始まった。

話自体は昨日と同じようにライルさんが仕切ってくれている。

ライルさん自身の考えとして、ライルさんとセシルさんをそれぞれ固定して、そこに私とシルヴィアさんを分けて配置、自警団の人たちに酒場を警備してもらうって感じの案だ。

その理論自体はすごく納得できるもので、この前は私自身も同意した内容でしかない。

だけど、これじゃダメだった。

どうにかするためには、ここから行動を変えないといけない。


「あの、いいですか?」


「おう、意見はどんどん言ってくれ」


私の挙手を、ライルさんはにこやかに受け入れて続きを促した。

話しやすくて助かる。


「ありがとうございます。あの、昨日は分かれて行動するのは問題ないと思っていたんですけど、やっぱり多少日数がかかったとしても、分かれないで4人で行動した方がいいのではないでしょうか?」


「ふむ……理由を聞いてもいいか?」


「もちろんです。……冷静になって思ったんですけど、この街、おかしくないでしょうか?」


「おかしいっていうと?」


「昨日のライルさんの話を聞いて思ったんです。私たちの集落と同じだと。同じような襲撃を受けたのだと。ですが、そう考えるとおかしいんです。この街、綺麗すぎませんか……?」


「綺麗すぎる……?」


ライルさんが疑問符を浮かべていた。

セシルさん以外は皆同じ反応をしている。


「はい。襲撃を受けた私たちの集落は……神社は、被害者の遺体が散乱した状態になっていました。魔物に集られていた方すらいたのもこの目で見ています。遺体は皆私が浄化しましたが……。この街も、同じ状況だったはずです。ひと月以上経っているとは言っても、遺体が一つとして落ちていないのは、おかしいと思うんです」


私の説明に、サヨやシラノさんたちが暗い表情になってうつむいてしまっていた。

私もお母さんの遺体の状況を思い出してしまって苦しいけど、それでも、説得するためには必要な説明だと思った。


「あぁ、それは私も思ってた。あの竜以外は魔物の姿一つ見えないし、死体が腐敗しきってなくなるにしても早すぎる上に臭いもしない。明らかにおかしいよ」


「やっぱり、そうですよね?」


「えぇと、つまり、アンデッドになっている可能性があるのではないかと、そういうことですか?」


私の言葉にセシルさんが同意を示してくれて、シルヴィアさんがセシルさんの説明を受けた昨日の私と同じ結論に辿り着いていた。


「はい。可能性はあるのではないかと。日中は隠れて出てこないだけかもしれませんし……それに、地下通路を探すとなるとどうしても暗がりを探すことになります。本当にいた場合、遭遇は避けられない可能性が高いです。なので、安全のためにも分かれて行動するのではなく、4人でまとまって食料調達や地下通路探しをするべきではないかと思います」


「なるほどな……言われてみればその通りか。それじゃあ、分かれて行動するのはやめて4人で行動するか。今日は食料調達、明日以降王城で通路探し。異論があるやつはいるか?」


ライルさんが見渡すようにして行うその確認に、異論を挟む人はいなかった。

結果として、方針はそういうことになった。

……よかった。

これであんなことにはならないよね……?


『あとは私たちも同行してその時に口を挟めば多分大丈夫じゃないですか?』


『うん。あの地下通路に入ろうとした時にアンデッドがいることが分かるようにすればいいよね。ただ、街からの脱出方法は違うのを考えないとダメだけど』


『それはまた皆で考えればいいじゃないですか。食べ物さえどうにかできれば時間的な余裕はできるわけですし』


それもそうか。

とりあえず当面の危険さえどうにかできればいいわけだし。

そんなことを考えていたら、トコヨが私の目の前にわざわざ回ってきた。

なんだ急に。


『ミコトに重大なミッションを言い渡します。とても、とてもとても大事なミッションです』


『どうしたの急に改まって』


駄幽霊の気配しかしない。

表情は真面目そうだけど長い付き合いだから分かる。

この駄幽霊、とりあえず大丈夫になったと判断して明らかにふざけだしている。


『ミコト、もう一度、蜂蜜を入手するのです。私は甘いものを望んでいます。今度は皆で食べましょう』


あまりにも気の抜けたポンコツ過ぎる発言に、何も言えなくなってしまった。

私も蜂蜜は食べたいけど、それ以上の問題があっただろうに……いや、トコヨの中ではさっきので解決した扱いなのか。

相変わらずすぎる駄幽霊だ。




食料調達に4人で行ってきて無事に終わった。

黒竜も上空を旋回しているままだったし、やったことは前回と何も変わらない。

前回との違いは4人で行ったという部分だけだ。

蜂蜜も……まぁ、なんとか持って帰ってこれた。

トコヨが狂喜乱舞して飛び回ってたけど、シルヴィアさんに生暖かい視線を向けられたのが釈然としない。

いや、私も蜂蜜は好きだけど、それでも、ダメと言われても無理に持って帰りたいなんて我儘を言うつもりはない。

セシルさんが前回と同じような反応をしたところに、前回の最終的なセシルさんの結論をシルヴィアさんが提案してくれて事なきを得たという感じだった。


そんなこんなで今は夕食の時間。

夕食の内容は簡素なスープと乾パンと蜂蜜だ。

蜂蜜美味しい……やっぱり甘いものはいいね。

隣で浮いているトコヨも勝手に味覚を共有して甘味を堪能している。

そんなタイミングで、隣に座っていたシルヴィアさんが声をかけてきた。


「ミコトさん、食べながらでいいので少しお話いいですか?」


「大丈夫ですよ。どうかしましたか?」


「ありがとうございます。アンデッドの件もあるので、ミコトさんがどの程度聖魔法を使えるのかを聞いておこうかと思いまして。お話を聞いているだけでも高位の聖職者であったことは分かってはいるのですけど……」


「私が使える聖魔法を順に言っていけばいいですか?」


「はい。お願いします」


特に問題はなかったから順番に使える聖魔法を言っていった。

光弾、治癒が基礎聖魔法。

これは特に問題なく常用しているものだ。

そこから発展させた浄化に儀式用に色々と所作を増やして効果を増した魔法とか、伝えられる範囲で伝えていった。


「……教会から見ても、どんなに少なく見積もっても司祭以上の実力はありそうですね。それなら安心です。頼りにさせていただきますね」


「えっと、その司祭というのはどの程度の立ち位置なのですか?」


「あぁ、司祭というのは――」


そこからはシルヴィアさんが簡単に教会内の階級制度を教えてくれた。

教皇/枢機卿/大司教/司教/司祭/助祭という階級があって、司祭というのは一つの教会、つまり宗教施設の管理を任される立場みたいだ。

見習いである助祭として少なくとも数年は勉強して、実力が認められたら司祭になるという流れらしい。

司教以上になるには条件があるとか言っていたけど、そこは説明を省かれた。


「シルヴィアさんはどの階級なのですか?」


「私は司祭ですね」


「え……えぇと、失礼かもしれませんが、お年は……?」


「ふふ、16ですよ。私は少し特殊でして、司祭になるのに時間がかからなかったんです」


「な、なるほど」


シルヴィアさんが経験が必要な助祭としての立場を終えていると聞いて見た目以上の年齢なのかと思ってびっくりしてしまった。

見た目相応の年齢らしい。

失礼な聞き方かもしれないと思いながら聞いたけど、にこにこと穏やかな笑顔を浮かべておかしそうに笑いながら答えてくれた。

この感じは、事情を知らない人から良く聞かれるとかそういう感じなのかな。


「シルヴィアさんも同じような聖魔法が使えるのですか?」


「はい。ミコトさんたちのやり方や発展させた儀式というものはできませんが、基礎的な部分は同じのようです。光弾や浄化などは私も使えますよ」


そうなると本当に教会の神官は巫女と同じような存在なのかもしれない。

私たち巫女が独自に発展させた技術があるように、逆に教会独自のものというのもあるだろうし。

私がなるほどと頷いていると、唐突に目の前に見慣れ過ぎた顔が飛び出してきた。


『ミコトー! 早く続き食べてくださいよ! ミコトが食べてくれないと私も味わえないんですよ!!』


『……相変わらずだなぁ……はいはい』


考え込んでいたらその思考を強制的に中断させられた。

うるさい駄幽霊のために再び乾パンを蜂蜜につけて食べる。

うん、おいしい。蜂蜜があるだけで本当に全然違う。


そのあとは、特に確認とかもなく談笑しながら夕食を続けた。

シルヴィアさんとも軽く談笑できたし、少しだけ仲良くなれたかもしれない。

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