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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~  作者: あじふらい
1章 巫女が治める辺境の里

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1-10 王城探索(前)

「通路に関して、心当たりはあるのですか?」


「それがさっぱりなんだよな。隊長たちは知ってたんだろうけど、俺みたいな下っ端には教えてくれてなかったし」


「……ま、それが妥当でしょ。いくら近衛でも全員に教えてたらどこから情報が洩れるか分からないし」


翌日、私たちは4人でお城に来ていた。

理由は言わずもがな。隠し通路を探すためである。

朝の流れはシルヴィアさんとライルさんがいる以外に大きな違いはなくて、シスイの目が覚めて皆で朝ご飯を食べた感じだ。

昨日と同じようにシスイには今日は休んでもらっている。

だからメンバーは私、セシルさん、シルヴィアさん、ライルさん、あとついでにトコヨの4人と1霊だ。


「順番に見て回りますか? 私はこちらの事情に詳しくないので基本的にお任せする形になってしまいますが……」


「それしかないだろうなぁ。俺が案内するから、王族の方たちの活動エリアだった場所を順番に回ろう。とりあえず謁見の間と大広間、執務室、あとは……王族の私室あたりからで」


口を挟まなくても大丈夫、かな? 多分。

あまりにも時間がかかりそうだったら前に見た場所に誘導した方がいいのかとも思ったけど、ライルさんがいい感じに案内してくれそう。

トコヨもそれを感じ取ったのか飛び回って色々興味深そうに見ている。


『ミコトー! ほらこれ! これ見てください!』


……ほっとくか。

トコヨがよくわからない飾りを指さしながら呼んでくるけど、そんな高いところのものをどうやって私に見ろというのか。

表情からして何かを見つけたってわけでもないだろうし。




「しかし、本当に遺体がないな。この辺りは確実に兵士の遺体があったはずなんだが……ミコトとセシルの言う通りかもしれねぇ」


「あれ、ライルさん戦火を免れたって言ってませんでしたっけ……?」


「ん? あぁ、いや。言い方に語弊があったか。俺が脱出したのは魔物と黒竜が王都に襲い掛かり始めてからなんだよ。王城への直接的な攻撃も受け始めてはいたから、兵士が倒れてるのも見てるんだ」


「ぇ……それって……」


確かライルさん、他国に救援を求めてくるように指示を受けたって言ってなかっただろうか。

そんなタイミングで、隊長から一兵士に、他国に救援を求めてくるように指示を出すだろうか……?

近衛騎士の役割とかも昨日雑談しているときに少し聞いたけど、王族の警護をするのが主任務で他の騎士とは役割が違うって言っていた。

そんな立場の兵士が、王族の警護という任務を放り出してまで他国に救援を求めに行く……?


「うおっ!?」


「っ!? 大丈夫ですか!?」


考え込んでいたら、広間の壁に備え付けられている大きな暖炉を調べ始めていたライルさんの方から声が聞こえると同時に、黒い煙みたいなのが噴き出した。

心配したけどよく見たら爆発とかではなくてただ煤が巻き上がっていただけだった。

ライルさんも咳き込んではいるけど特に外傷とかはなさそうではある。


「げほっ、げほっ……すまん、大丈夫だ。確認してたら薪台蹴飛ばしちまっただけだ」


「そ、そうですか……それならよかったです……ぷっ……」


「……? どうかしたか?」


ライルさんの顔は煤で真っ黒になってしまっていた。

笑ってしまいそうになるけど、真剣に探してくれていた末の結果だし失礼だからどうにかこらえる。


『ミコト、肩思いっきり震えてますよ。全然隠せてないです』


『トコヨうるさい。トコヨなんて隠してすらないくせに』


「大丈夫で、って、ライルさんどうしたんですかその顔」


「顔?」


「煤だらけになってしまっていますけど……」


私がトコヨに突っ込んでいると、広間内の別の場所を調べていたシルヴィアさんとセシルさんまでこっちに近づいてきた。

シルヴィアさんは純粋に心配そうに、セシルさんは怪訝そうな顔を隠そうともせずにって感じで分かりやすく性格が表情に出ていた。

シルヴィアさんは手持ちの綺麗な布か何かを探すような動作までしている。

そんなシルヴィアさんを制しながら、セシルさんが前に出てくる。


「あー、いいから。2人ともそのどんくさいのから離れてて」


「ドジったのは事実だから否定できねぇ……」


……何をやるのか分からないけど、離れていた方がいい気がした。

シルヴィアさんが言われるがままに距離を取ったのに合わせて、私もライルさんから離れておく。

それを確認したセシルさんの足元に聖魔法とは違う青色の陣が浮かび上がった。


「——ほい」


その呟きとともに、ライルさんの頭上からバケツをひっくり返したみたいな水が降り注いだ。


「ちょっ!? やりすぎですよセシルさん!?」


「うっさいな堕神官。ただのくだらない失敗だしこのくらい雑でいいんだよ」


「っ、だから! 私は堕神官ではないと何度も!!」


初日に見たのと同じ流れで2人は喧嘩を始めてしまった。

ライルさんは全身びしょ濡れで水を滴らせながら呆然としている。


「だ、大丈夫ですか……?」


「……あぁ。めっちゃ寒いけど大丈夫だ……」


煤は全部流れたけど流石にこれは……

い、言われたとおりに離れておいてよかった……




「ここじゃないの? なんか動いた跡とかあるけど」


順番に見ていって前回隠し通路を見つけた辺りを探索していた時に、セシルさんがそう呟いた。

ここについてからどう伝えたものかと思っていたけど、その必要すらなかったらしい。

セシルさんが示した辺りはちょうど階段があったところだ。

今は床になっているから何かの仕掛けがあるのかもしれない。


「……確かに、この辺りだけ違和感あるな」


「この床が動くんですかね?」


『前は周りのものも少し違う配置じゃなかったです?』


しゃがみ込んでいるライルさんの横に私もしゃがみ込む。

床は確かに違和感がある。

意識してみればっていう程度でしかないけど、他の床とは若干違う感じだ。

セシルさんとシルヴィアさんは周囲を見渡して考え込んでいる。

少ししたらシルヴィアさんがライルさんの方に近づいた。


「……あの、ライルさん、少しいいですか?」


「ん? ああ」


「このお城っていつ建てられたものか分かりますか?」


「いつ……?……すまん、流石に分からないな。少なくとも、平民の俺が触れられる書物には書いてないくらい昔ってことくらいしか……」


「と、いうことは、建国以来、修繕程度はしても建て直しなどは行っていない可能性があるんですかね……?」


なんか質問がやけに具体的な気が……

何かに心当たりがあるとかそういう感じなんだろうか。


「——分かりました。似たような仕掛けに心当たりがあるので、ひとまずここを触るのはやめて開き方を記した暗号を探しましょう」


「暗号ですか?」


「はい。開き方にも心当たりはあるのですが、手当たり次第に触ると命に係わる可能性もあるので」


「それがさっきの質問と関係ある、と。つまりあんたは教会……この場合聖都の大聖堂か。そこのこれに類する隠し通路を知ってるわけね。建国時からあるような古い建物なら神の指示で作った大聖堂の仕掛けを真似しててもおかしくないってことか」


「……一応言っておきますけど、答えませんよ」


「そりゃそうだ」


セシルさんは完璧に理解しているらしかった。

でも私にはもう何が何だか分からない。


『えっと、トコヨは理解できた?』


『……ミコトから不埒な視線を感じますが……理解できてますよ。つまりシルヴィアは、教会内の王族に類する人物の近い位置にいたってことでしょう? 司祭だから本人ではないですし、少なくともお偉いさんの脱出路を共有しておかなければならない立場、その開き方を教えても問題ないほどの信頼を獲得していたやばそうな神官ってことですよ』


『……な、なるほど……?』


トコヨの自慢気なドヤ顔にすごく複雑な気分になるけど、そういうことらしい。

確かにそう考えるとシルヴィアさんがすごい人に見えてくる。

というか、実際にすごいのか。年齢からして司祭っていうのもあり得なさそうなのもセシルさんが言ってたし。




それからは暗号探しに移行した。

こういう重要な暗号は、それを知っていなければならない者しか触れられない場所に置くものだとセシルさんが言ったことで捜索場所はだいぶ絞られた。

脱出する当人である王族と、脱出通路の存在までは共有されていた近衛騎士団のどちらかしか触れられない場所にあるだろうという予想だ。


「で? 近衛騎士は脱出通路の存在までは知ってたんでしょ? あんたは暗号の在処とか心当たりないの?」


「俺は近衛騎士の中でも新参も新参だったんだよ。そもそも平民出身だから隊長以外からは疎まれてただろうし」


王族の私室で皆で本とかを精査していると、セシルさんがライルさんに突っ込んだ。

ライルさんは自虐のように答えているけど、平民出身だと疎まれるというのがよく分からない。


「あの、なんで平民出身だと疎まれるんですか……?」


「おっと。……えぇと、ミコトは貴族制は分かるか?」


「さ、最低限の知識だけは母から教えられてます。一応村の施政者としての教育も受けていたので」


「なら話は早いな。近衛騎士ってのは王の警護をするのが主な任務だから、他の騎士と違って貴族だけで構成されてるんだよ」


「へ? でも……」


ライルさん自身が自分は平民だったけど近衛騎士だったって矛盾するようなことを言ってくる。

何か特例的な制度があるのかな……?


「特例の制度がつくられたんだよ。陛下が隣のフェリシア王国の慈愛の姫への熱狂ぶりに感化されてね。民を慮るだけで熱狂的に支持してもらえるなら自分もやってみたいって感じになったらしい。それでまずは自分が平民に隔意を持ってないって示すために、自分の側近に平民を一人採用しようとしたのさ。それで採用試験に受かったのが俺」


「慈愛の姫?」


「おう。フェリシアでは大人気だぞ。やることなすこと全部民衆のための政治って感じらしい。王族がそれを主導してくれるともなればその人気も納得だけどな」


思った通り特例制度があったらしい。

慈愛の姫っていうのもフェリシア王国っていうのも初耳だけど、ライルさんの話だけでもそのすごさは分かった。

他国の王族が真似したいと思ってしまうほどの人気ぶりとなると相当だろう。


「ま、そんな感じで俺が近衛になったのはいいんだが、やっぱり他の近衛騎士から見たら俺はただの平民だ。陛下の意向ってことで表立って何かされたりはしなかったけど、やっぱり疎まれてはいたのさ。真摯に向き合ってくれたのは入団後に剣を教えてくれていた隊長くらいだよ」


隊長……ライルさんに他国に救援を求めてくるように指示を出した人か。

でもさっき感じた違和感と今のライルさんの隊長さんの評価を併せて考えると、これって……


『ねぇ、トコヨ。隊長さんのライルさんへの救援を求めてくるようにっていう指示って……』


『まぁ、十中八九新入りのライルを逃がそうとしたんでしょうね。お城まで魔物と竜が襲撃してきている状況で他国からの救援なんて間に合うはずもないですし』


『やっぱりそうだよね……』


……多分ライルさんも分かってるだろうし、はっきりと言わない方がいいよね、これ。

そう思って、静かに暗号を探す作業に戻った。

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