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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~  作者: あじふらい
3章 魔術と星見と図書館と

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3-28 打開策

何を見つけたのだろうか。

私もセシルさんの視線を追う。

フレスベルグとリーゼちゃんの攻撃を受け続けたことで、ヒルディスは何度も私たちの方へ進もうとしていたが進めていなかった

ひたすら突撃と暴風を繰り返すフレスベルグに標的を変えたらしい。

そんなヒルディスの、岩に覆われた巨体の至るところから煙が上がっている。

剛毛は焼け焦げ、風の刃に削られた外殻にはいくつもの亀裂が走っていた。

それでも、致命傷と呼べるほどの傷はない。

あれだけの雷撃を受けたのに、まだ動き回っている。


「背中」


「背中……?」


「さっきの雷撃が集中した場所。よく見ろ」


セシルさんに言われて目を凝らす。

ヒルディスがフレスベルグの風に身体を押され、僅かに横を向いた。

その瞬間、肩から背中にかけて盛り上がっている岩の外殻の間に、大きな黒い裂け目が見えた。

岩が剥がれているだけじゃない。

その下にある剛毛と皮膚まで焼け裂けている。

黒ずんだ血が、焦げた背中を伝って流れていた。


「大きな傷……」


「さっきあいつは最後に口を開けてた。吸収しようとしてたんだよ」


確かに、最後に雷撃が一点へ収束する直前、ヒルディスは大きく口を開き始めていた。

だけど、全てを吸収することはできなかったのだろう。

雷撃はヒルディスの身体へ直撃し、あれだけの傷を残している。


「あくまで予測。だけど、方向だけじゃない。一度に食える魔素の量そのものにも限界がある」


「限界……」


「食える量より多く叩き込めば、吸収し切れない。方向を増やすだけでも通る。だけど、もっと単純に、食わせ過ぎればいい」


セシルさんの口元が僅かに上がっている。


「満腹にする、ということですか?」


「違う。一口に食える量より多く詰め込んでやればいいってこと。ミコトが食堂でどうにか大盛り料理食ってた時みたいにね」


「んなっ!? 私そんないっぱい詰め込んでなかったはずですよ!?」


『違うよね!? そんな食べ方してなかったよね!?』


『あの、一応今戦闘中……まぁあっちも今は危なくないみたいですしいいですけど……ミコトはちゃんとミスズに躾けられた通りの綺麗な食べ方してました』


『だ、だよね。よかった』


トコヨの肯定に安堵していると、ヒルディスが低い咆哮を上げた。

フレスベルグの風を押し返すように前脚を踏み込む。

その蹄が地面を抉るたび、周囲の石が脚へ吸い寄せられていく。

砕かれた外殻を補うように、また新しい岩が黒い皮膚へ張りついていた。


「……でも、たくさん詰め込むってどうやって……」


「強い術を同時に使う。あいつの処理能力を完全に超えさせる」


セシルさんが立ち上がった。


「ミコト、動けるんだよね」


「はい」


まだ背中や胸には鈍い痛みが残っている。

だけど、立って歩くことはできる。

聖魔法も使えると思う。


「なら明かりの維持を続けろ。攻撃には参加しなくていい。何か来たら自分を守れ」


「分かりました」


「私はリーゼに作戦を伝える。お前はそこから動くな」


そう言い残し、セシルさんが岩陰から飛び出した。


「フラン、お願い! もう少しだけ止めて!」


リーゼちゃんの声に応じて、フレスベルグが大きく羽ばたく。

正面から吹きつける暴風に、ヒルディスの頭が横へ流れた。

それでもヒルディスは前へ進もうとしている。

蹄を地面へ食い込ませ、風に逆らうように巨体を押し出していた。


「リーゼ!」


「セシルさん!」


セシルさんがリーゼちゃんの近くへ走り込む。

ヒルディスから目を逸らさないまま、早口で何かを伝え始めた。


私の位置からでも、途切れ途切れに声が聞こえる。


「——吸収には限界がある——さっきと同じ。フレスベルグを正面——あんたは右側——私が合図したらテンペスト——崩落する可能性もあるけど、その時はフレスベルグの風でどうにか守らせて——」


リーゼちゃんが真剣な顔で何度も頷いている。

説明に時間はかからなかった。

セシルさんが離れるのと同時に、リーゼちゃんは杖を握り直した。


「フラン! 正面から、できる限り強い風をお願いします!」


フレスベルグが鋭く鳴いた。

大きく翼を広げ、ヒルディスの正面へ回り込む。


「リーゼ、私が雷雲形成までしたら詠唱開始。発動を合わせろ」


「はい!」


「一度で仕留めるつもりで撃て。魔力配分を気にして出力落とすな」


「分かりました!」


セシルさんがヒルディスの左側へ移動する。

リーゼちゃんは右側。

フレスベルグは正面。

三方向から取り囲む形になった。

ヒルディスの濁った赤い目が、上空にいるフレスベルグを追う。

翼を振るうたびに叩きつけられる風が鬱陶しいのか、牙を大きく振り回した。


「すぅ……はぁ……」


セシルさんが深呼吸してすぐに、彼女の周囲に緑と青の光の粒子が集まり始めていた。

集まった粒子は意志を持っているかのように上空に集まっていく。

それから少しして、セシルさんが呟くように詠唱を始めた。


「——氷核形成……風向補正……雷雲形成……」


洞窟の天井付近に、巨大な黒い雲が、渦を巻くように形成されていく。

雷が嘶くような音も聞こえ始めていた。

水源もない洞窟の中なのに、吹き始めている風が湿っている感じすらした。


「風よ、私に力を貸して!」


リーゼちゃんも詠唱を始める。

その足元に、大きな緑色の魔術陣が展開された。


「空翔ける翼よ、舞い降りて鋭い刃となれ——」


ヒルディスが何かを察したように頭を動かした。

2人がそれぞれ術にするために練り上げ、フレスベルグが風を絶えず叩きつける。

三つの大きな魔素の流れを感じ取っているのか、濁った赤い目が落ち着きなく動いている。


「標的固定……吹き荒べ乱流……」


雷雲が渦を巻く。

その中心で、眩しいほどの光が何度も明滅した。

そのタイミングで、フレスベルグが翼を大きく広げた。

纏っていた風が一つの大きな流れのようになる。

緑白色に輝く密集した風が、ヒルディスの正面へ叩きつけられた。


ヒルディスの口が大きく開く。

それだけで、暴風の軌道が歪んだ。

周囲の空気ごと、巨大な口へ引き寄せられていく。

ヒルディスの喉が膨らむ。

腹が一回り大きくなった。

それでもフレスベルグは風を止めなかった。

翼を広げたまま上空に静止し、風を送り続けている。


「…………臨界到達……」


セシルさんの周囲で、青白い雷が弾ける。


「テンペスト!」


緑色に輝く風の柱が立ち上がった。

ヒルディスの右側面を抉るように包み込み、無数の風刃が渦を巻き、岩の外殻へ激突する。

ヒルディスは頭を動かそうとしているようだった。

正面の風を吸収しながら、リーゼちゃんのテンペストにも反応しようとしていた。

だけど、フレスベルグの風は途切れない。

巨大な口へ流れ込む魔素の量が多すぎるのか、ヒルディスの腹が異様な形に膨れ上がった。

喉の奥から、苦しそうな低い音が漏れる。


「落ちろ雷————フルミネイト」


セシルさんが杖を振り下ろした。

洞窟の天井近くに広がっていた雷雲が、青白く染まる。

次の瞬間、巨大な雷が落ちた。

轟音。

視界が真っ白に染まるほどの雷光が、ヒルディスの背中へ突き刺さる。


ヒルディスが口を閉じることもできないまま咆哮を上げた。

吸い込まれていた風が、口の中で不規則に渦を巻く。


膨れ上がった腹の表面を、青白い光が走った。

緑の風がヒルディスの口元を切り裂く。

右側から吹き上がるテンペストが、岩の外殻を次々に剥ぎ取っていく。

さっきヴォルトカスケードでできた傷から、さらに首元へ向かって亀裂が走った。

岩と剛毛が吹き飛び、黒ずんだ血が大量に噴き出す。


「まだ止めるな! 傷を広げろ!」


セシルさんの声が響く。

リーゼちゃんが杖を握り締め、テンペストへさらに魔力を注いでいく。

フレスベルグも暴風を止めない。

セシルさんも新しく別の術を準備し始めているみたいだった。


『ミコト』


トコヨの声が聞こえた。


『なに?』


『このままでは倒し切れません』


『えっ』


『傷はできています。ですが、あの巨体です。このまま魔術を撃ち続ければ、先にセシルやリーゼの魔力が尽きる可能性があります』


言われて、ヒルディスを見る。

確かに傷は大きい。

背中から首にかけて黒い血を流している。

それでも、まだ立ち上がろうとしていた。

前脚に力を入れ、地面を抉りながら巨体を持ち上げようとしている。


『じゃあ、どうしたら……』


『ルドガーを動けるようにするべきです』


トコヨが、少し離れた場所にいるルドガーさんを見た。

白いフードの女との剣戟はまだ続いている。

ルドガーさんが優勢なのは変わらない。

女の剣を弾き、槍を躱し、何度も外套を切り裂いている。

女の身体にはいくつもの傷が刻まれていて、避けきれていないのも間違いない。

だけど、女は退かない。

自分が斬られることを恐れず、ひたすらルドガーさんを足止めしていた。


『あれほどの実力者なら、ヒルディスの傷から致命傷を与えられるはずです。セシルの作戦を最大限活かすなら、ルドガーを自由にするべきです』


『でも、あのフードの女を倒すなんて……』


『私たちで倒す必要はありません。一瞬だけ、注意を逸らせばいいんです。そうすればルドガーがどうにかします』


一瞬。

ルドガーさんなら、その一瞬を無駄にしない。

確かにそうかもしれない。

ヒルディスは3人の攻撃を受けて怯んでいる。

今なら、少しだけ他のことに意識を向けられる。


『……分かった』


岩陰から立ち上がる。

身体は動く。

背中の痛みも、さっきよりはずっと軽い。

頭上の光弾を維持したまま、フードの女に杖を向ける。

ルドガーさんと女の動きを見る。

剣と剣がぶつかる。

光の槍が下から伸び、ルドガーさんが半歩下がって躱した。

今。


「光弾っ!」


狙ったのは、フードの奥にある女の顔。

注意を引くなら、視界に飛び込んでくる光が一番のはず。

光弾が真っすぐ飛んでいく。

女がこちらを向いた。

剣をルドガーさんへ向けたまま、光の槍を動かして光弾を弾く。

白い光が槍の先で砕けた。

本当に、一瞬だけだった。

だけどその一瞬を、ルドガーさんは見逃さなかった。


「余所見してる暇あんのか?」


低い声が響く。

ルドガーさんの剣が、下から跳ね上がった。

女が手にしていた剣が大きく弾かれる。

回転しながら宙を舞い、岩の上へ金属音を立てて落ちた。

女が光の槍を振り戻そうとする。

その前に、ルドガーさんが踏み込んだ。


剣が白い外套を斜めに切り裂く。

肩口から脇腹へ向けて、赤い線が走った。

遅れて大量の血が噴き出す。

明らかに致命傷だ。

そんな状態の女に対してルドガーさんが遠慮せずに蹴りを入れると、女の身体が吹き飛んだ。

地面を何度も転がり、岩壁の手前で止まる。


「ルドガーさん! あっちの魔物を! 傷を作れても押し切れないんです!」


「おう!」


ルドガーさんはそれだけ言うと、剣についた血を振り払うことすらせずヒルディスの方へ走り出した。


「なるほど、ここまでやってくれてりゃ上出来だ」


ヒルディスは立ち上がりかけていた。

テンペストは弱まり始めている。

フレスベルグの翼の動きも、さっきより僅かに鈍い。

ヒルディスが大きく頭を振る。

正面から吹きつける風を振り払い、立ち上がろうとしている。


「傭兵、合わせろ!」


セシルさんが杖を構えた。


「冷気展開、気流制御……貫け——スパークランス」


細い雷撃が、ヒルディスの顔へ飛ぶ。

傷だらけになっていても、その反応だけは変わらなかった。

ヒルディスの口が開く。

雷撃の軌道が歪み、巨大な口へ吸い込まれていく。

頭がセシルさんの方を向く。

その瞬間、ルドガーさんがヒルディスの側面へ潜り込んだ。

雷で焼け裂けた首元。

岩の外殻が剥がれ、黒い皮膚と赤黒い肉が露出している場所へ向けて、両手で握った剣を突き出す。


「おらぁっ!」


剣が深々と突き刺さった。

ヒルディスの咆哮が洞窟を震わせる。

首から黒い血が噴き出し、ルドガーさんの身体へ降りかかった。

それでもルドガーさんは剣を離さない。

柄を両手で掴み、さらに奥へ押し込もうとしている。

ヒルディスが頭を振った。

剣を突き刺したままのルドガーさんの身体が宙へ浮きかける。

それでも、足を岩の外殻へ押し当てて耐えていた。




その時、白い光が視界の端で動いた。


「っ……!」


倒れていたはずのフードの女が立ち上がっている。

肩から脇腹にかけて外套が大きく裂けていた。

そこから流れ出した血が、白い布を赤く染めている。

普通なら立っていることすらできないような傷のはずだった。

それでも、女の口元は全く動いていない。

左手に残っていた光の槍を握り、ルドガーさんへ向かって走り出した。


「ルドガーさん!」


私の声に、ルドガーさんが僅かに顔を動かす。

だけど、深く突き刺した剣をすぐさま抜くことはできないようだった。

女の光の槍が、ルドガーさんの背中へ向けられる。


「させません!」


リーゼちゃんが杖を振り上げた。


「風よ、収束せよ。天駆ける翼よ、鋭き螺旋となりて敵を撃て——貫け、エアロランス!」


螺旋状の風の槍が放たれる。

緑色の光が、走る女の腹部へ直撃した。

白い外套が大きく膨らむ。

次の瞬間、風の槍が身体を貫いて背中側へ抜けた。

女の腹部に大きな穴が開く。

外套が一瞬で真っ赤に染まった。

流れ出した血が足元へ降り注ぎ、地面に赤黒い跡を残している。


それなのに、女は止まらなかった。

表情も変わらない。

歩幅すらほとんど乱れない。

光の槍をルドガーさんへ向けたまま、真っすぐ走り続けている。

腹部を貫かれている。

それなのに、どうして動けるのか。

リーゼちゃんの術で僅かに体勢を崩しただけだった。

もう一度魔術を撃つ時間はない。

セシルさんも、ヒルディスを抑えるための雷撃を組み上げている。

ルドガーさんは剣から手を離せない。


「っ……!」


止めないと。

考えるより先に身体が動いた。

無我夢中でルドガーさんとフードの女の間へ滑り込む。

こちらを見る女の薄い唇は、やっぱり何の表情も浮かべていなかった。

光の槍が私へ向く。

両手を前へ突き出す。


「穏やかなる守りの光よ、我が前に集いたまえ——」


目の前に光盾を展開する。

その瞬間、頭上に維持していた光弾が大きく揺らいだ。

万全じゃない状態で咄嗟に庇うために光盾を出したせいで、光弾への集中を欠いてしまっていた。

それに気づいた時には、光の槍が盾へ激突していた。

白い光同士がぶつかり合う。

凄まじい力に腕が押し戻された。

治したばかりの背中に痛みが走る。

女は止まらない。

光の槍を盾へ押し込みながら、私ごとルドガーさんへ近づこうとしている。


「っ……!」


さっきのヒルディスほどの力ではない。

止められる。

少しだけなら耐えられる。

槍の穂先が盾へ食い込む。

表面に白い亀裂が走った。

女がさらに一歩踏み込んだ。

その瞬間、身体を横へずらしながら光盾を斜めに傾ける。

真正面から受け止めるんじゃない。

ルドガーさんが剣を受け流していた時みたいに、軌道だけを外す。


「っ!」


光の槍が盾の表面を滑った。

女の腕が外側へ流れる。

槍の穂先が私の肩の横を通り過ぎた。

熱のようなものが肌を掠める。




ルドガーさんがヒルディスの首元へ突き刺していた剣を握り直した。


「助かった!」


片足をヒルディスの肩へ押し当てる。

両腕に力を籠め、剣を横へ引いた。

刃が、雷で焼け裂けていた傷口をさらに切り開く。

硬いものが砕ける音がした。

岩の外殻や骨、肉。

全てを無理やり断ち切るように、ルドガーさんの剣がヒルディスの首を横断していく。

ヒルディスが最後の咆哮を上げた。


「おらぁ!!」


ルドガーさんが剣を振り抜く。

巨大な頭が、身体から離れた。

湾曲した牙が地面へ激突する。

遅れて、首を失った巨体が大きく傾いた。

その瞬間、頭上にあった光弾が霧散した。


「あ……」


大急ぎでつなぎとめようと祈り直すけど、もう遅かった。

洞窟を照らしていた白い光が消える。

残された光源は、目の前にある女の光の槍だけになった。


白い光が、反応をなくしたかのように立ち尽くす女の赤く染まった外套を照らしている。

その向こうで、ヒルディスの巨体が地面へ倒れた。

地面が大きく揺れる。

凄まじい音が洞窟中に響いた。

首を失った傷口から、黒い煙のようなものが噴き出し始める。

煙とは違う。

空気へ混ざるたび、視界そのものを汚していくような濁った黒。

瘴気。

そうとしか思えない何かが、ヒルディスの身体全体から溢れ出していた。

岩の外殻が崩れていく。

肥大化していた腹も、空気が抜けるようにゆっくりと萎んでいった。

黒い瘴気は天井付近まで昇ると、少しずつ薄れて消えていく。

ヒルディスの脚が、一度だけ大きく痙攣した。

それを最後に、完全に動かなくなった。




辺りは、静寂に包まれた。

女は、私のすぐ前に立っている。

腹部に大きな穴が開いている。

肩から脇腹にも深い傷がある。

外套は、もう白い部分の方が少ないほど赤く染まっていた。

それなのに、なにごともないかのように立ち尽くしている。

女の顔は、ヒルディスの亡骸にだけ向けられていた。


「任務失敗」


抑揚のない声だった。

次の瞬間、光の槍が消えた。

辺りが真っ暗になる。


「っ!?」


何も見えない。

ヒルディスの巨体も。

すぐ目の前にいた女も。

自分の手すら見えない。


「ミコト、明かり!」


「っ、はい!」


慌てて祈りを捧げる。

目の前に光弾が生成される。

すぐに頭上へ放ち、洞窟の中を照らす。

辺りに白い光が広がる。


ヒルディスの首を失った巨体。

その傍に立つ、魔物と女の血で汚れたルドガーさん。

杖を構えたまま周囲を見回しているセシルさんとリーゼちゃん。

翼を広げ、警戒するフレスベルグ。


だけど、フードの女の姿はなかった。


「いない……」


さっきまで、私のすぐ目の前にいたはずなのに。

足音は聞こえなかった。

地面を蹴る音も、外套が擦れる音もなかったはずだ。

それなのに、いなくなっていた。


地面には、ルドガーさんが弾き飛ばした女の剣が落ちている。

女がさっきまでいた場所には、赤黒い血が大量に残っていた。

だけど、そこから先へ続く足跡も、血の跡もない。

女の気配は、洞窟のどこにも残っていなかった。

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