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天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~  作者: あじふらい
3章 魔術と星見と図書館と

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3-6 セシルの魔術教室

「それじゃ、出発するよ」


「「はい!」」


セシルさんの号令に、私とリーゼちゃんが同時に返事をした。

あれから約一週間。出立の準備は恙なく終わった。

治療院の調整は済んでいて、サヨはいつも通り従事して、何かあればシルヴィアさんに声をかけることになっている。

シルヴィアさんもサヨへのフォローを快く受け入れた上で、私を送り出してくれた。

普通の教会でも司祭不在時のフォローを司教に頼むのはよくあることらしい。


同行するメンバーはセシルさん、リーゼちゃん、ルドガーさん、私、フレスベルグ、あとはついでにトコヨだ。

トコヨは私以外からは見えてないし、フレスベルグは小さい姿でリーゼちゃんの肩に乗っているから、実質的に4人旅ってことになる。


「すぐに出ることができる位置には俺が座るから、3人は奥に入ってくれ。戦闘は余程の数が来ない限りは俺だけで事足りる」


ルドガーさんが私たちに先に馬車に乗るように促してきた。

ルドガーさんとの契約は割とすんなり決まったらしい。

種子の研究のための遠出だから費用面をクロードさんが負担するってことで、金額面の交渉がすんなり決まったのがよかったっぽい。


「援護とかは無くても大丈夫なんですか……?」


「群れが挟撃してきたりしない限りは必要ないな。どうしても戦いたいなら止めはしないが……どうなんだ、依頼主殿」


「全部任せる。私らは全員後衛な上にミコトに至っては攻撃手段ほぼないし」


「ってわけだ。お嬢さん方はどかっと構えといてくれよ」


「……分かりました。ありがとうございます」


ルドガーさんに頭を下げて、私たち3人は馬車の奥の方に座る。

最後に馬車に入ってきたルドガーさんは扉のすぐ近くの私たちから少し離れた位置に座った。


馬車がゆっくりと動き出す。

車輪が土を噛む音と、馬の蹄の音が重なって響く。

集落の景色が少しずつ遠ざかっていくのを、私は窓から眺めていた。


「これから行くヴァイスタールって、どんなところなんですか?」


「……前も言ったでしょ。世界唯一の魔術学院と魔術書だらけの魔道図書館がある独立都市」


「えっと、なんていえばいいですかね……うーん……」


「どんな街なんですか!?」


私が聞きたかったことをリーゼちゃんが期待に満ちた目で代弁してくれた。


「……魔術師だらけの街。それ以上でも以下でもない。行けば分かる」


「ふむ……セシルさんって、ヴァイスタールのことをよく知っている雰囲気ですけど、故郷とかなんですか?」


「生まれは別。育ったのがヴァイスタール」


「そうなんですか?」


「両親が死んでヴァイスタール在住の叔父に引き取られた。ただそれだけ」


「それは……」


「……別に珍しいもんでもないでしょ。気にする必要ない」


セシルさんはそう言うと、馬車の壁にもたれるようにして腕を組んだ。

た、確かに私とかサヨも両親に関してはそうだし、魔物がそこら中にいる以上珍しくはないけど……それはそれとして少し気まずく感じてしまう。


「……セシルさんも魔術学院に通っていたんですか?」


隣に座っていたリーゼちゃんが、身を乗り出していてそう聞いてくれた。

気まずくならずに済んだし助かったかも。


「通ってない。行く必要性を感じなかったし」


「えっ」


思わず声が漏れた。

魔術師だらけの街で育って、あれだけすごい魔術を使えて、それなのに魔術学院に通っていない?

私が驚いていると、セシルさんは少しだけ面倒くさそうに目を細めた。


「学院に通わないと魔術を覚えられないわけじゃない。図書館があるんだから、魔術書で自習できる。自習で終わった範囲しか教えてない学院に価値を感じなかっただけ」


「自習で終わった範囲しか教えてない……それって普通なんですか?」


「なにが?」


「えっと、学院の教えている内容を全部自習で終えられるって部分ですけど……」


「さぁね。私は小さい頃から図書館に入り浸ってたから、そのせいじゃない?」


セシルさんは当然みたいに言ってるけど、多分普通じゃない、気がする。

それだけで済むなら学院自体成り立たないよね……? 多分だけど。

あ、そういえば、聞きたいことがあったんだった。


「そういえば、セシルさんに沢山聞きたいことがあるんでした!」


「なに」


「魔術ってなんなんですか?」


「は……? なに、結局堕神官に聞いてなかったの?」


「た、タイミングを逸してしまって……」


セシルさんは少し考えるように目を伏せると、馬車の壁に背を預け直した。


「はぁ……どうせヴァイスタールに行けば嫌でも魔術の話が出る。道中暇だし、最低限だけ説明しとく」


「魔術教室ですね!」


「大袈裟。基礎の基礎だけ」


リーゼちゃんの楽しそうな声に、セシルさんは即座に釘を刺す。

でも、教えてくれる気はあるらしい。

やっぱりセシルさんは優しい。


「大きく分けると、魔術体系は3つ。基本魔術、錬金術、占星術」


「3つ……」


「一番一般的なのが基本魔術。これのことを魔術って略して呼ばれることが多い。私やリーゼが戦闘で使ってるやつ」


セシルさんの雷とか、リーゼちゃんの竜巻みたいなのとかだよね。

ここは想像しやすいかも。


「基本魔術の利点は即応性。詠唱や術式構築に慣れてれば、戦闘中でもすぐに使える。魔物相手に一番使いやすいのはこれ」


「でも、誰でも使えるわけじゃないんですよね?」


「当たり前でしょ。自己魔力が必要。属性適性も必要。制御する技術力も、術式を構成するための知識も必要。周囲の魔素の偏りも把握する必要がある」


「自己魔力というのは、自分の中にある魔力のことですか?」


「そう。正確には、自分の魔力を起点にして術式を起動して、周囲の魔素を動かす。自己魔力だけで全部を賄うわけじゃないけど、起点にできるだけの量と質はいる」


「魔素……」


「世界に満ちてる力のこと。場所によって濃さも属性の偏りも違う。魔素に関しては聖典にもある程度載ってるでしょ」


セシルさんは窓の外へ視線を向けながら、淡々と続けた。

確かに、魔素に関しては少し聖典に載っていた。


「あ、はい。その部分は知ってます。月神ディーナ様が世界の魔素を編み上げて基礎を作り、聖獣様が世界の魔素を調整しているというところまでは」


あってる? という意図を込めてリーゼちゃんの肩に乗っているフレスベルグに視線を向ける。

目が合うと同時に、フレスベルグの嘴が動いた。


『ホー』


「えっと、大体あってるって言ってます」


……前から思ってたけど、普通に人間の言葉を理解してくれるんだよね、フレスベルグ。

意思疎通できるのはリーゼちゃんとかエルフだけなのかと思ったけど、こっちが読み取れないだけでフレスベルグ側は理解してるみたい。

リーゼちゃんがいれば通訳してくれるから、やり取りには困らないのはとても助かる。


「話戻すけど、例えば北のリオレ大森林。フレスベルグの根拠地だった場所だから、風の魔素が多い。西のバルグラント帝国にあるグリムフェルス火山は火の聖獣がいるから火。南のカルドラ王国、オルヴァレスカ大砂漠は地の聖獣。東、シレーナ連邦のヴェルム海域は水の聖獣。聖獣はその属性の魔素を調整してるから、根拠地付近は特に偏りが出やすい」


リーゼちゃんの肩に乗っている小さなフレスベルグが、軽く翼をはためかせた。


「つまり、リオレ大森林だとリーゼちゃんの風魔術は使いやすいってことですか?」


「はい。森の中では、風が近くにある感覚がありました。今もそこまで困るわけじゃないですけど、やっぱり森とは勝手が違いますね」


リーゼちゃんが自分の手のひらを見つめながら答える。

クロードさんが言ってた魔素のバランスとかの話が、ここにつながっている形だろうか。


「ただし、周囲の魔素だけで才能差がひっくり返るわけじゃない。得意な属性なら補助になる。苦手な属性だと多少扱いやすくなる。その程度」


「なるほど……?」


「例えば……リーゼ。今はバルグラント帝国の国土に入ってて、若干ではあるけど火の魔素が多いわけだけど、あんた火魔術使える?」


「いえ、使えないです。私たちハイエルフは基本的に風魔術以外使えないので」


「これが属性適性。ハイエルフはフレスベルグと共生したことで風魔素に特化して進化した種族。だから、風の適性は人間とは比べ物にならないけど、他の属性は逆にほぼゼロになる」


「それって、人間同士でも差が出るんですか?」


「そ。だから、そこが大きな問題点。人によって使える魔術や得意な魔術が違うのはこれが原因。魔力も生まれた時点でほぼ量が決まるから、多少伸びることはあっても差はほとんど変わらない。つまり、基本魔術は魔力と属性適性、二重の才能が必要ってことね」


二重の才能……なんかすごく大変そうだった。

これ、つまりは水の魔術使いたいなって思っても自分に才能なかったら使えないってことだよね。

というか、魔力が少なかったら魔術自体使えないのかな……?

勉強が必要なのはセシルさんを見てれば分かるし、聖魔法と全然違う。


「聖魔法と全然違うんですね……びっくりしました」


「聖魔法も似たようなもんでしょ」


「え、そうですか……? どんなに大きな罪を犯した方だったとしても、心を入れ替えて神に真摯に祈ることができれば使えますけど」


「そこが問題だから……」


セシルさんが頭に手を当てながら顔をしかめた。


「傭兵。一般論教えてやって。聖魔法の習得の難しさ」


「俺に振るのかよ」


ルドガーさんは呆れたように肩を竦めた。

でも、少し考えるように顎に手を当ててから、私の方を見た。


「まぁ、そうだな。ミコトの言ってることは間違っちゃいないんだろうが、普通の人間からすると、その“真摯に祈る”ってのが一番難しいんだよ」


「そうなんですか?」


「そうなんだよ。たとえば俺が今日から心を入れ替えて、主よお力をお貸しくださいって祈ったとするだろ」


「はい」


「まず絶対に何も起きねぇな」


「えっ」


即答だった。

あまりにもきっぱり言われたせいで、思わず目を丸くしてしまう。

本当に心を入れ替えたなら、祈り方をちゃんと整えて魔法陣と詠唱を使えば、ある程度失敗することはあっても習得できるという認識だった。


「俺は神官じゃねぇし、神に仕えて生きてきたわけでもねぇ。祈りの作法も知らなけりゃ、日々の信仰も積んでない。そんなやつが都合のいい時だけ祈ったところで、奇跡なんざ起きるわけねぇだろ」


「で、でも、祈りが本物なら……」


「本物かどうかを自分で言い張る時点で怪しいって話だよ」


「ま、こういうことね。あんたらが神と一緒に戒めてる七つの大罪を控えても、普通はそう簡単には使えないんだよ。ミコトはずっとその生活にどっぷり浸かってるから分かりづらいだろうけど」


「うっ」


セシルさんの容赦ない言葉に、思わず肩を落とす。


『あんまり気にしなくていいと思いますよー。魔術ほど才能を必要としないのは事実ですし』


『そ、そう、だよね……?』


トコヨの言葉に少し気分が上向きになる。

私が持ち直したのを見ていたのか、セシルさんは少し間を空けてから言葉を続けた。


「次。錬金術」


セシルさんが指を2本立てる。


「これは戦闘中に即座に使うものじゃない。魔力を用いて素材を調合したりして掛け合わせることで、魔道具とかを作る体系。必要な魔力は基本魔術よりも少ないけど、その分知識と正確な手順、試行錯誤が求められる」


「魔道具って、この前行商人の方が売っていたみたいな?」


「そ。明かりみたいな生活用もあるし、爆弾みたいな戦闘用もある。用途はいくらでも。なんなら、ミコトもよく使ってる羊皮紙じゃない紙も錬金術の成果物の一つだよ」


「すごく便利そうですね」


「便利だけど、時間がかかる。素材もいる。設備もいる。戦闘中に素材を並べて調合しますなんて言ってたら普通に死ぬ」


「あ、確かに……」


魔物が目の前に迫っているのに、素材を量っている姿を想像してしまった。

それはさすがに無理がある。


「だから錬金術師は、生活を支えたり戦闘前に準備したりする側。魔道具を持ち込めば戦えるけど、錬金術そのものは即応性に欠ける」


「基本魔術がその場で使う魔術で、錬金術は時間をかけて道具を作る魔術、という感じですか?」


「雑に言えばそう」


一つ一つ整理しながら聞いていくけど、セシルさんの説明は本当に分かりやすい。

何がダメで何がいいのかを、短い言葉の中で丁寧に教えてくれている。

知識のない私でもスッと理解できていた。


「最後が占星術」


セシルさんは3本目の指を立てた。


「占星術は、自己魔力をほとんど使わない。星々に宿る魔力を用いて術を行使する」


「自己魔力をほとんど使わないんですか?」


「そ。だから昔は夢の魔術扱いだったらしい。魔力量が少なくても、属性適性が低くても、星の力さえ引き出せれば大きな術が使えるかもしれない。そう考えられてた」


「すごいですね!」


リーゼちゃんが目を輝かせる。

昔はってわざわざ強調してるのが気になるけど、基本魔術で必要って言われていた二重の才能が必要ないのは結構凄いのではないだろうか。

よく分からないけど。

だけど、セシルさんは静かに首を横に振った。


「現実はそんなに甘くない。確かに夜ならいつでも使えるような小規模な術もある。だけど研究が進むにつれて、大きな効果を求めれば求めるほど、星々の位置関係が厳密に絡むことが分かった」


「星々の位置関係……?」


「どの星が、どの位置にあり、どの角度で力を流せるか。それが術式の成立条件になる。小規模ならまだしも、大規模術式になると条件が馬鹿みたいに厳しくなる」


セシルさんは、淡々と言葉を続ける。


「物によっては数百年に一度。下手をすれば数千年に一度しか成立しない可能性すらある」


「……そんなにですか?」


「そんなに。だから廃れた」


あまりにもあっさりした言葉だった。

でも、その分だけ現実味があった。


「夜ならいつでも使える術もあるって言ってましたよね? それでも廃れちゃうんですか?」


「そのレベルの術は指先にちょっと火花出したりするくらいで、火を着けるのにも使えないような術でしかない。それでも夜じゃないと使えない。普通の基本魔術レベルでも、夜は大前提としてさらに特定の曜日、時間でしか使えないなんてことが多い。はっきり言って使い物にならない」


なる、ほど……?

そっか。そもそも夜にしか使えないっていうのが致命的すぎるのか。

夜は集落とかから出なければいい話だし、基本魔術を使える人はそっちを使えば事足りるだろうし。


「時間をかけて研究しても、完成した術が自分の生きている間に一度も使えないかもしれない。そんなものを好んで研究する人間はいない。今じゃ魔術学院ですら教えてない」


「夢の魔術なのに……」


「夢で終わった魔術だよ」


馬車の中が少し静かになった。

即応性のある基本魔術。

道具を作る錬金術。

魔力がほぼなくても使えるけど、廃れてしまった占星術。

知らないことばかりだったけど、少しずつ整理できた気がする。

そこで、ふと気になることを思い出した。


「あの、セシルさん」


「なに」


「記憶を読む魔術って、その3つのどれに当たるんですか? やっぱり基本魔術ですかね?」


「はぁ?」


セシルさんの声が、明らかに低くなった。

次の瞬間、セシルさんは勢いよく身を乗り出してきた。さっきまで淡々としていた目が、信じられないくらい鋭くなっている。


「誰に何された」


「えっ?」


「誰に、何を、されたのかって聞いてる」


「え、えっと……」


すごい形相だった。

リーゼちゃんも驚いたように目を丸くしているし、扉の近くに座っていたルドガーさんまでこちらを振り返っていた。


「記憶を読む魔術なんて存在しない。少なくとも、胸元に手を翳して記憶を読みますなんて類の術はない」


「あ、あの、まだ胸元に手を翳されたとは言ってな——」


「言ってないのに当たる時点で最悪なんだよ。そういう意味分からん口実は、セクハラの常套句。胸元に手を翳されてる状況で信じるなアホ」


「アホ……」


「アホで済ませてるだけ優しいと思え」


セシルさんの剣幕に、思わず背筋を伸ばした。


「誰」


「く、クロードさんです」


セシルさんの表情が、一瞬で固まった。


「…………クロード?」


「クロードさんが、記憶を読み取る魔術だと言って、私の胸元に手を翳して……その、私が見たことを読み取ってくれたことがあって」


「……実際に?」


「は、はい。私が話していないことまで分かっていました」


セシルさんはしばらく無言だった。

それから、額を押さえて深く息を吐いた。


「……あいつなら、完全にあり得ないとは言い切れないのが腹立つ」


「そう、なんですか?」


「納得はしてない。してないけど、あの結界を張ってる時点で、クロードを既存分類に当てはめる方が無駄」


「じゃあ、記憶を読む魔術は……」


「魔術としてはない。少なくとも一般体系には。クロードがやったなら、魔術と呼んでるだけの別物か、あいつ独自の術式」


「別物……」


「だけど問題はそこじゃない」


セシルさんはじろりと私を睨んだ。


「ミコト。クロード以外のやつに同じことをされたら、すぐ大声出せ」


「大声ですか?」


「そう。相手が神官でも魔術師でも傭兵でも関係ない。記憶を読むため、確認のため、治療のため、何を言われても胸元に手を翳されたり触られそうになったらまず疑って助けを求めろ」


「えぇと……」


意味は完全には分からなかった。

だけど、セシルさんがものすごく真剣なのは分かる。


「ミコトさん」


隣のリーゼちゃんが、少し顔を赤くしながらも真剣に頷いた。


「セシルさんの言う通りだと思います。私も、そういうことをされたら助けを呼ぶべきだと教わりました……つい先日、今回の旅に出るって決まってからですけど……」


「俺から見てもセシルの言ってることは正しい。普通は悲鳴案件だ」


ルドガーさんは苦笑しているけど、否定する気はなさそうだった。


「……まだ理解しきれてなさそうだなおい……例えばだな、俺が急にミコトの肩に腕まわして抱き寄せた上でミコトが理解できないことを言ってきたとしたらどうだ?」


「え、それは流石に……」


「それと同じレベルってことだよ、今の話は」


「あ、な、なるほど……理解できました……」


そこまで至って、ようやく理解できた。

ルドガーさんの例えはすごく分かりやすかった。


「……分かりました。クロードさん以外に同じようなことをされたら、大声を出して助けを呼びます」


「クロードでも事前説明なしなら怒れ」


「ク、クロードさんでもですか?」


「当たり前。あいつが変なことをするとは思ってないけど、ミコトが何でも信じるのは別問題」


セシルさんはそう言い切って、ようやく身を引いた。

それから、疲れたように馬車の壁にもたれ直す。


「……なんで魔術の説明から、世間知らずの矯正に話が飛ぶんだ」


「す、すみません……」


「謝らなくていい。次から気を付けろ」


「はい」


素直に頷いておく。

セシルさんは口調こそ乱暴だけど、多分本気で心配してくれたんだと思う。

そう思うと、少しだけ嬉しかった。


「……なに笑ってるの」


「いえ。セシルさんは優しいなと思いまして」


「その結論になる意味が分からん」


セシルさんは心底嫌そうな顔をしていた。

でも、否定の言葉はそれ以上続かなかった。

リーゼちゃんはそれを見てくすりと笑っている。

馬車はその間も、ヴァイスタールへ向けて進み続けていた。

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