第2話 反骨転生
ここは恐らく、魏延と楊儀がいた土地とは、まったく別の世界。
吹きすさぶ砂まじりの風。
地平線のかなたまで、ず ぅ ぅ ぅ っと広がる砂・砂・砂。
ところどころに灰色のナニカ「かつての文明の遺産」が散らばっている。
倒壊したビル群、根元から折れた信号機、ひしゃげたアルミ製の道路標識。
標識の文字はどこの国の言葉かすら、もう読み取れない。
確実に言えることは、これらを使いこなしていたであろう「かつて存在した文明人」はもう、この地に存在していない。
魏延「…ッ」
意識を取り戻した魏延が目を見開く。
おもむろにそんな景色が目に飛び込むものだから、そりゃ当然驚く。
魏延「…何が起きた?」
そばに転がっていた、鏡張りの鉄器に自分の姿が映る。
ヒゲや、肌に刻まれてた加齢シワが減っている。
心なしか、若返っている気もする。
そして何より驚いたのは、馬岱に斬られたはずの首が、大きな傷跡となってはいるものの、つながっている。
副将だった馬岱は、曲がりなりにも魏延と共に幾多の戦場を駆け抜けてきた武将の一人。
至近距離で仕留め損ねることなどありえない。
何の運命のいたずらか。ともかく、生き延びたのだけは事実のようだ。
魏延「…砂漠?なんだこの景色は?俺らが住まう中原の大地では…ない?」
歴戦の猛将も一瞬とまどう。
「常時戦場の心得であれ」とは、師であり同士でもあった老将、黄忠のジジィのセリフだ。
しかしいくら何でもこの世界の変わりざまは、普通ではない。絶対に違う。
魏延「意識が飛んでいる合間に、匈奴の地にでも連れてこられたと言うのか…?…誰に?」
匈奴とは、彼らの住まう古代中国の文明密集地(中原)から見た外世界、いわば「化外の地」ということ。
知識あるもの、例えば頭でっかちの元上司、諸葛亮孔明ならこの状況をすぐ、理解できたかも知れない。
しかしひたすらに知ではなく武を鍛えてきた魏延にとって、これら現状を即時、理解するための知を持たない。
黄忠「出来ないことはやらない。
出来ることをやる。
それが生存術の基本だ、覚えておけ文長。」
黄忠のジジィの言葉が頭をよぎる。
魏延はそばに転がっていた鉄パイプを護身用に握り、歩き出した。
ザッ ザッ…
砂地のところどころにそそり立つボロボロになった、灰色の建物。
それがビルの廃墟であるということは当然、魏延には理解しえなかった。
雨つゆしのげる場所になりえるかどうか。
最もこの砂漠ではとうてい、雨など望めそうにもないが。
とりあえず水。メシはなくとも水があれば3日は生きれる。
蜀軍の大将まで勤め上げたものが今更、水に困るというのも落ちぶれたハナシではあるが。
落ちぶれても、這い上がればいい。
俺はそうしてきた。
そうして魏延は生涯仕えると心に決めた君主、劉備玄徳と出会った。
めぐる過去の思い出が、熱砂の大地でさまよう男をひたすら、先へ先へと歩ませた。
ザッ ザッ…
何かが聞こえた。おもむろに目を細める魏延。
何者かが追われている。追っているのは…ヒトではない何か。
四足で走っているようだが、野生の獣にしては、妙だ。
毛におおわれていない、むしろ昆虫のようなスベスベの殻をまとった、人よりひとまわり大きな「何か」
少女「はぁ はぁ はぁ」
追われている少女は、ずいぶんと動きやすい服装にフードをかぶった格好。武器は持ち合わせていないようだ。
関係ないと言えば関係ないだろう。
だが、もし劉備の大将が生きてたらこんな時、どうしただろうか。
ザッ ズササササッ
砂丘を降り、魏延は少女と「何か」の合間に割って入る。
魏延「おい」
少女「…!」
魏延「そこの四足。年端もいかぬ女子を、問答無用で追い回さんでもよかろう。
少しは話を聞いてやったらどうだ」
言い終える前にヒュン、と魏延の目前を何かがかすめる。
「何か」の鋭く研ぎ澄まされた前足だった。
ほほにうっすらと血がにじむ。
??『ターゲット変更。アンノウン1体、抵抗ノ意思アリ。
排 除 開 始』
敵意を向けられたことは歴戦の猛者だった魏延はすぐさま感じ取った。
問答無用ってか。この魏延に対して。
魏延は思わず笑みを浮かべた。
少女「…ウソ、何で笑ってるの…?」
「何か」は柳葉刀サイズはあろう、もう片側の前足の刃を、魏延めがけ袈裟懸けに斬り下ろす。
ヒュォ ガツンッ
少女はこれまで「何か」…彼女らがこの地で「マシンさま」と呼び、忌み恐れる存在が、
幾度も自分たちの仲間を、手にかけてきたことを思い出した。
例外なく、抵抗およぶ前に殺されてきた。
なのに。
今回は、その凶刃を、その男は「受け流していた」
右手に持っていた鉄パイプの先端を、畏れ多くも、マシンさまの頭上に叩き込んでいたのだ。
ゴッ
頭部装甲をへこませ、よろめくマシンさま。
マシンさま「ガガッ…頭部カメラ及ビメモリ損傷。
アンノウン、危険度上昇。至急増援ヲ…」
魏延「黙れ」
マシンさま「!!」
魏延「てめぇに この俺が 殺せるのか」
鉄パイプの先端の鋭利箇所を、マシンさまの胴体に思いっきり突き刺す魏延。
そして、てこの原理でパイプをひねる。
バチバチッ!バチバチィ
まるで頸動脈を切られた生物の噴血のごとく、火花を吹き出し激しくのけぞり、そしてマシンさまは動きを止めた。
少女「うそ…マシンさまを…倒したの?人間が…?」
魏延「おい女。てめぇに聞きたいことがある。ここは、どこだ?中原か?匈奴か?」
少女「…」
少女はあっけにとられた顔をしていた。
相対するこの強面の男、おっかない顔でこちらを見据えている。
はずなのだが、少女は沸き起こる感情を抑えられなかった。
少女「すごい…すごいよアンタ!マシンさまを銃なしでひとりで倒すなんて!
フツーありえないよこんなこと!!」
魏延「…銃?マシンさま?何を言っている?…それよかここは」
少女「私はグスタ!自己紹介せずにごめんね!
今起きてたことがあまりにもショッキングでテンパってた!」
少女グスタは安堵の笑みを魏延に向けしゃべりだした。
グスタ「場所はなんて言ったらいいんだろ…私が生まれるはるか大昔に、国とか地名とかなくなっちゃったんみたいでさ」
魏延「何… …??」
例え中原から外れた、化外の地でもその土地の生活・文化は存在する。
国もない、地名もない…だと??
グスタ「もしかしたら、この砂地にうずもれてる『何か』の中に記録されてるモノとか出てきたら、分かるかも。
私はそれを探して集めてんの。隠れ家のみんなとちゃんと生きてくために」
魏延「…」
これ以上の詮索は意味がなさそうだ。
こういう時に元上司の頭でっかち、諸葛亮孔明だったらその知恵と発想で何とかするんだろう。
あいにくだが俺はそういう文官タイプではない。
グスタ「名前教えてよ」
魏延「姓は魏、字は延、名は文長だ」
グスタ「セイハギーアザナハエンナハ…長いね(笑)」
魏延「違う。魏延でいい」
魏延は呆れた様子で略した。
グスタ「んー。めんどいからギーちゃんでいいかな?」
魏延「…ギーちゃん…」
今まで呼ばれたことすらない名称に、困惑する魏延。
仮にも役職は蜀軍の征西大将軍なのだが、、これをいうとまた謎の名前に加工されかねない。
黙っておくことにした。
とにかく今は、情報を集めねば。
本来はこういうのは適した者たちが軍組織にはいるのだが、今はひとり、どうにもならない。
このグスタなる少女の「隠れ家」とやらで次の方針を決めよう。
二人はマシンさまの残骸をあとに、砂の道を歩き出した。




