表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

第二十八話

花粉の季節がやってきましたね

ダランドの地下ダンジョンから脱出した熊のパーさんたちは、大部分が卍先生の家に住んでいた。ニャン助もそうだが。


だが、生き物たちの数は多く、餌代もバカにならない。預け先の卍先生も、預けたダランドも次第に餌代の負担に喘ぐようになっていった。


そのことを理解した生き物たちは、みんなで金策を練ったらしい。だが、それもうまくはいかなかった。そうして、1人の生き物が「見世物小屋をしよう」と提案したことがきっかけで、みんなで力を合わせて餌代を稼ぐことが始まった。


もちろん、卍先生もダランドも、「雷門との約束」のためにそれを渋った。それはもうとびきり。(この頃はタコ足インコがカタコトで筆談)


やがて熱意に折れた2人は、この浅草奥山の見世物小屋のひとつに、この子たちの出演を打診したらしい。南蛮人と当世画家の2人の提案ともあって、興行師もその気になって話がとんとん拍子に進んだ。


そこから昼夜の2部制で見世物小屋をやっていたらしい。だが、パーさんたちも細かい不満があったが、カタコト筆談では伝えきれず、ヤキモキをしていたと。


「興行潰してマジですいませんでした」


俺は土下座で平謝りをする。預けることを提案したが、確かにこいつらのその先を考え尽くしていなかった。これは俺の落ち度である。挙句の果てにゃ、興行を潰してしまった。俺がひどく落ち込んでいると、伸びている大滝松の脇からのそりと壮年の男が立ち上がった。


「ったく聞いてりゃ世話ねぇな、わけえの。お松をのしたとこは感心したが、細けえことに気が配れねえんじゃ無粋な狼藉者よ、ナァ」


この男は、そういえば町田の親分さんと言われていたか。ここの見世物小屋の主人かな。俺は面目ねえと頭を下げる。


卍先生が「ッエ!?」と声を上げた。


「よく見たら浅草の大親分さんじゃん……雷さん、ここら辺を仕切ってる大親分さんだよ……」

「……ぇえ……」

「んで、オレの島で暴れたってこたぁ、オレのメンツも潰したってことになるが、いいのか?わけぇの。面目ねえで済むと思うかぃ」


あ、やべぇ。さっきのイケおじ感が全くなくなって、ガチの侠客の凄みを出しとる。つい勢いでやばい人に喧嘩売っちまってる?


俺が内心の震えを抑えて、睨みを跳ね返すように絞り出す。


「……親分さんのメンツを潰したとはとんでもねぇ。こいつは内輪の揉め事。」

「ほぅ、一丁前に言うじゃねぇか。だがな、はいさいですか、と言って帰るワケにゃいかねえんだよオメェさん。ここらを仕切ってるモンとしてな。……落とし前つけてもらおうか、大前田の倅」

「なっ……なぜそれを」

「ここいらで暴れまわってりゃ嫌でも耳に入るぜ。ちよわいと我が物顔で調子に乗りすぎなんじゃあねぇか?その天狗の面の鼻柱ごと俺が叩き折ってやらぁ」


親分が袖捲りをしつつ俺の方に歩み寄ってくる。俺のしでかしたこととは言え、侠客の端くれ。そこまで言うんだったら、俺も拳でケリつけようじゃねぇか。


大滝松をのした時より、遥かに弱っちい拳をフルフルと握りしめて俺も親分に歩み寄る。


2人の距離が互いに2歩の間合いになった時、親分がニヤリと笑った。俺も強がってニヤリと笑う。そして、


「ちょっおおっと!!!待ったぁ!!!!!」


と威勢のいい声が、小屋の入り口から聞こえる。誰だと振り返る間も無く、俺と親分の間に勢いよく走り込んできた背の高い……


「お、お蝶?」


お蝶は両手を俺たちの前に出すと、「これはアタシが預かったぁ!」と言った。さすがに臨戦態勢であった親分も肩透かしを食らったように、「いやいや……」と首を振るう。


「幡随院の嬢ちゃん、さすがにコイツァ」

「いやわかってる。親分、ここに割って入るのはちげぇのはわかってるけども!」

「だったら」

「それでも!預からせてくれ!浅草のおじちゃん!」


お蝶は、親分をじっと見つめる。親分は、ハァとため息をつくと、まったく大人になったもんだ、と握った拳を解いた。






「貸しイチだからね、雷門」

「ぁあ、悪かった、助かったよ」


お蝶と、さっき起こした大滝松と連れ立って見世物小屋から出ると、黒い人だかりができていた。先程逃げ出した町方もいるが、その前面に立って、今にも乗り込もうとしているガラの悪い連中がいる。


「親分!」「ご無事ですかい」「いま、駆けつけてきたとこでサぁ!」


そういうと浅草の親分の周りに駆け寄った。親分は「んな大層な真似してんじゃねぇ」と怒鳴りつけているが、満更でもなさそうだった。俺は肩を貸してる大滝松関に「すまねぇな」と詫びた。


「いや、こちらこそ。聞けば勘違いからとのこと、俺もいきり立ってしまったしな。…..それに、素人の町方と侮った俺も悪い。」


大滝松関は深く肩を落とした。

これが知れたら部屋の親方にこっぴどく叱られるだろうな、とぼやいている。大滝松関と共に俺も謝りに行かないとな、と考えていると、親分がお蝶が俺の間に立ち、人だかりに向けて大声を出した。


「騒がせてすまなかったな!ちょいと興業の予行に手違いがあった!また仕切り直すから、許してくんな!」


それを聞き、町民たちも「なんでぇ予行かい親分!」「びっくりしたじゃねぇか!」と笑いながら去っていった。一言でこの場を治めるとは。


大親分と言われているだけはあるな、と俺も驚いていると、親分が俺の方に向きながら、「そんで、どうやって興業仕切り直すかはおめぇさんが考えろよ」とコソコソ言ってきた。……いや、そこ考えてないのかよオッサン。とジト目を送ると、殺意のこもった睨みをいただきました。へい。


ぶち壊した犯人は僕なのでやらせていただきます。




 

「んで、オメェさんの落とし前ってのはこういうことかい、大前田のせがれ」

「これでもまだってんなら他にも考えるぜ、町田の親分。」


……いや、十分さね。と親分が見据える先には、大きく「熊男と三役の大相撲浅草場所」と書いてあり、その周りには人だかりができていた。


見世物小屋は連日の満員で、出待ちも溢れている。親分は満足そうに、頷くとよし、打ち上げでも行くか!と俺の肩をバン!と叩く。


「いてぇ……」


昨日の傷が痛む。既に俺はボロボロだった。この興行を組むために、まず大滝松の部屋の親方のところに詫びに行った。めちゃくちゃ怒られるかと思って首をすくめてたら、「ウチの部屋のもんに手ェ出しやがって!」じゃなく「ウチの看板張り倒すほどの男!稽古してくれ!」と叫ばれて、そっからずっと部屋の相撲取りたちと稽古三昧。


大滝松をはっ倒したのは火事場の馬鹿力だって、説明しても信じてもらえず、素人のヒョロもやしの俺は永遠いじめられていた。なんなんあれ。お陰でボロボロになった。


そのうち、身代わりとしてパーくんを差し出すから!と言ったら、部屋の親方も乗り気になった。

なんでも、「熊に勝てるようになりゃ、人間の相撲取りなんざ目じゃない」らしい。


それはそうだわ。それなら、その稽古を興行にしちまえばいいじゃねぇか!熊のパーくんは運動が好きだし。

そして俺はボロボロの体を引きずり、ほうぼうを駆け回って興行の準備をしたってわけ。



興行が成功した晩に、総員で浅草の大店をひとつ貸し切って、町田の親方と打ち上げが始まった。俺が「手打ちみたいな?」とおっかなびっくり聞くと、親方は「そんなもん気にしてねぇよ」と笑っていた。親分、最高かよ。


関取衆も町奴衆も、ダランドたちや手伝ってくれた幡随院一家も、酒をひっくり返し、飲んで踊ってと遊びくれた。熊のパーさんは機嫌をよくしたのか、玉乗りまで始めて、興行師たちに激しく勧誘されていた。あの子、器用に生き延びるな。お母さん安心です。


俺は騒ぎ疲れて寝てしまった三郎を、幡随院一家の若い衆に託すと、お蝶と町田の親分が呑んでいる卓に座り込んだ。



「ったく、ヒステリックババアみたいに暴れやがって」


開口一番お蝶に鋭く刺されたので、悪かったな、と謝る。取りなしてくれたのはお蝶だし、頭は上がらない。


「だろ?この借りはおっきいんだからな!」

「へい」

「そもそもアンタがこのゲーム始めてからずっとアタシ面倒見てるよね!?」

「へい」

「まったくアンタはアタシがいないとダメなんだからね!」

「……へい?」

「だからもうアタシのとこnヌワァッッッッ!!!」


パーさんの乗った大玉は、俺たちの卓を直撃し、お蝶はゴロゴロと畳の端に飛ばされていった。ちゃっかりお猪口と徳利を抱えていた町田の親分は、ゲラゲラ笑いながら青いなぁと言った。俺はそれを見て、親分はすげぇなぁと漠然と思った。







宴もたけなわというときに、貸し切っていた店の戸口がガラリと開く。てんでに酔いつぶれていた面々は、

遅れて仲間が来た、という風に特に気にしていなかったが、シラフの俺は何の気なしに戸口に顔を向けた。


そこにはなかなかに恰幅のいい老人が、御供を一人従えて、佇んでいた。

眼光はイヌワシのごとく鋭い。狂乱に乗じて腹踊りをしている町田の親分のとこの若衆を鼻で笑うとスルスルと板の間に上がってきた。

町田の親分は少し離れた縁側で、ひとりしっぽりと飲んでいたが、戸口から入ってきた老人を視界にいれると、どう猛に笑った。


「へぇ珍しいじゃねぇか」


酔っ払いどもの喧騒に混じって、俺の耳にはその声がひどく物騒に、ハッキリと聞こえた。

老人は、髭のない綺麗な肌色を縁側に晒す。親分は、傍にいた店の者に「猪口をもうひとつくれるかい」と頼むと、遠慮なしにドッカリと縁側に腰掛けた老人にさらに声をかけた。


「どういう風の吹き回しでぇ」

「どうもうこうもねぇだろう、町田」

「さぁて、なんかしたかしらね」


そらとぼけるんじゃねぇよ、と老人は睨みを濃くした。途端、老人は俺の方を指さし、アイツだろうと町田の親分に問う。


「あのガキがどうしたよ」

「しらばっくれるんじゃねぇ、大前田のセガレだってのは割れてんだよ」

「ほーう」

「あのクソガキをいっぺん焼き入れると話してたろうが町田。こんなとこで、幡随院のじゃじゃ馬と仲良く飲んでんじゃねぇよ、キッチリ落とし前付けたんだろうな」

「大人げねぇな、おめぇさんもジジイだろうが、丸くなれよ」


そのころには、俺はすぐに逃げれるように帯を締め直していた。話を盗み聞く限り、俺はどうやらこの老人に恨みを買っているらしい。販売した覚えがない初心者プレイヤーなんだが、この老NPCは遠くからでもわかるほど、静かに青筋を立てていた。


「そんなに言うなら、アイツ呼んで来いよ」

「けっ……オイ、大前田ァ、聞いてんのは分かってんだよ、こっち来い」


俺は心底帰ろうかと思ったんだが、ここで逃げても面倒なことになりそうだったので、履きかけた草履を脱いでおずおずと進み出る。

老人は、今にも殴りたいが僅かながらの理性で押しとどめようとしている、そんな感じだった。


「へい……親分、こちらの御仁は」

「アタシが車屋だよ、見たらわかんだろ」


いや、見てもわかったらこうなってねぇよ。が、俺は学び成長したのだ。すぐに喧嘩腰にならず、早とちりをしないこと。これは大事なことだ。俺は自分で何をやらかしたかをグルグルと考えながら、ゆっくりと正座をしつつ、頭を下げる。


「車屋の親分さん、お初にお目にかかります。雷門と発します、以後お見知りおきを」

「お見知りおきも糞もあるかってんだ、この浅草くんだりで、よそ者が雷門なんざ、名乗りやがって」

「おい、車屋。話はそこじゃねぇだろう」

「ちっ……オイ、ライモンとやら。テメェがプレイヤーっていうけったいなモンだってのは知ってんだ。だがよ、この江戸の掟まで知らねぇとは言わせねぇぞ。好き勝手しやがって」

「……あの話が見えねぇんですが……」


おい町田ァ!テメェこいつになんも言ってねぇのか!と、静かな怒りが飛んだ。町田の親分は涼しい顔で、御猪口を差し出す。


「そうカッカすんな車屋。」

「うるせぇ、こいつのせいで俺はあの房総の飯岡の足止めに回ってんじゃねぇか!!!!」

「……?」


俺がポカンとしていると、いつのまにか静かになっていた宴会場の奥から、パーさんに抱えられたお蝶が来た。熊に抱っこされてるってどうなの。でも目が据わってて怖い。


「どういうことだよ車屋の親父」

「長兵衛んとこのじゃじゃ馬がよ、テメェもその片棒担いんでんだからな……」

「話が見えねえよ親父」


おい、町田、説明しろぉい!と車屋と名乗った老人が叫ぶと、ため息をつきながら町田の親分が話そうとした時、外でワーワーと揉める声がしたあと静かになる。俺たちは顔を見合わせて、腰を浮かせた。その途端、ガラリと戸口が開く。


「まったく、車屋のオジキも来てるなんて聞いてませんよ、詫びるのが遅れてしまって申し訳ない」


そう言って、顔を出したのは。


「あれ、新場の親分。」「え、にいちゃん?」


車屋よりもさらに恰幅の良い腹をのっそりと揺らしながら、頭をかいて戸を屈んで入ってきたのは新場の親分だった。そして、その後ろからDスラ先輩も一緒に入ってくる。


「うぇっ……!?……おいおい江戸奴の三王が揃い踏みじゃんか……最悪な飲み会に来ちまった気がする……」と言いながら先輩は気配をどうにか消そうとしている。全然消せてないけど。俺は必死に先輩助けて、と送るが口笛を吹きつつ無視された。あの野郎。あと三王ってなんだよ。


「で、にいちゃん、どうしたんだよこんなとこに。」

「いや、アタシぁ、ライさんに用事があってね。町衆に聞いたら浅草のここの飲み屋にいるって聞いたから来てみましたが……まさか町田の親分さんと、車屋のオジキもいるなんて」


あなたもですよ、お蝶。と新場の親分は言う。そして、車屋に向き合って深々と頭を下げた。


「この度はウチが不甲斐ないばかりにオジキに迷惑かけやした。誠に面目ねぇ次第でござい」


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ