表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友……では、ない  作者: 秋月 忍
外伝 室長編 
16/16

終章

 部屋に戻ろうとしたら、入り口でマルダに呼び止められた。

 フェルダ公爵とサナデル皇子が、私に話があるということで、応接室で待っているという話だった。

 迷ったが、二人を私の部屋へと案内する。ルワンには、入り口で待って、レムスたちが来たら、私の部屋に来るようにと頼んだ。

 応接室よりも、結論的に言えば、研究室の方が人目を引かない。

 公爵とサナデル皇子の表情は、当然と言うべきか、硬かった。

 研究室は、貴賓を迎え入れるようにはなっていないが、部外者が立ち入ることはない。

「魔光蟲は、すべて捕虫しました」

「そうか。よかった」

 武骨な木の椅子に腰かけながら、公爵は心から安堵したようだった。

「話は全て公爵から聞いた。厄介なことだな」

 皇子は前置きを省き、本題に入る。

「まったくです。魔光蟲自体は、珍しくもなんともない、というところが困ったことで」

 私はため息をついた。

「父上には、報告せねばならないが、ルバトに知られるとやっかいだ」

「そうですね」

 皇子本人もそうだが、ルバト皇子周辺の人間はとにかく血の気が多い。

 国家事業として行うなら、まだ良いが、『勝手に』研究を始めないとも限らない。

「幸い、というべきかレーゲナスの森は、フェルダ公爵領の管轄にある。こちらの目は届きやすい」

「しかし、あまりにも露骨に警備するのも、目立ちます」

 人の噂に戸は建てられない。警備を強化すれば、当然、その情報はどこかで漏れる。

「何もなかったことにはできないのだろうか?」

 フェルダ公爵が苦し気に呟く。

「どうでしょう。たとえ、今回は乗り切ったとして。何も手を打たなければ、また、誰かが同じことを試みるかもしれません」

 魔光蟲を間近でみたい。そんな、要求は、ずいぶん昔からあった。

 何度も何度も試みられ、失敗していた。それでもあきらめきれずに挑戦したというのは、フェルダ公爵自身なのだ。同じような願望を抱く人間がいない保証はない。

「最終的には陛下の判断を待たないといけませんが、今いる魔光蟲についてはいかがしましょう?」

 既に魔存器に捕らえた分はともかくとて、公爵の屋敷にはかなりの数がいる。厳重に保管しているとはいえ、事故が起こる可能性もあるし、また、機密が漏れる可能性だってある。

「できれば、レーゲナスの森に返す、もしくは森のそばに隠すのが賢明かと」

「そうだな」

 サナデル皇子も私の意見に同意する。

「部下を同行させます。とりあえず、できるだけ秘密裏に、話を進めませんと」

 最終的にどうするかを決めるのは、魔術師である私の仕事ではない。

 だが、その判断基準であるものを積み上げていくことは、魔術師にしかできないことだ。

「なんにせよ、大変なことになるな」

 サナデル皇子が大きくため息をついた。




 その後。会議が立て込み、とにかく忙しかった。家にもほとんど帰れない日々が続いた。

 ようやく、今後の方針が決まり、レムスとジェシカを呼び戻すことができたのは、二人を送り出してから十日たっていた。

「と、いうことで、戻って参りました」

 レーゲナスの森から呼び戻した二人を見て、私はほっとした。

 二人の表情が柔らかく、雰囲気が甘やかになっている。

「こんな大変な時期に恐縮ですが、俺達、婚約しました」

「室長には、お見合いの話をすすめて頂いていたのに、申し訳ございません。先方にも、なんとお詫びしたら良いか……」

 私は苦笑するしかない。

 二人とも私が驚くと思い込んでいる。

「言っておくが、見合い相手なんぞおらんぞ」

「え?」

「もっとも、十日もの間、二人で出張して、何事もなかったら、探すつもりだったが」

 二人して、キョトンとしている。真面目に心を秘めていたつもりだったのだろう。

「お前たちを親友と思っていたのは、お前たちだけだよ」

 私は肩をすくめた。

「何にしても仕事が溜まっている。イチャついてきた分、働いてもらうからな」

「はい」

 二人の顔が幸せそうに朱に染まる。

 私は、書類の束を取り出したのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ