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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
内戦
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7.琴博桜月

 リユさんが我殿さんの名前を出すなり場の温度が急激に下がった。それどころか、どこからかパキパキと何かが凍っていく音が聞こえ始めて、近くの地面やら木やらは殆ど凍りついていた。


「ちょっ、綾!?」

「……ッ、ごめん」


 だから雨宮雪乃の声で猫神綾が我にかえってくれたのはありがたいと思う。名前が出ただけでこの反応ってまさか……?


「知ってるかしら? なんて聞いたけど、記憶が戻ってない子はその辺も曖昧だろうから私から大体伝えてしまうわね。そもそも、犯人までは分かってないことがほとんどかしら?

 まずさっきまで話してたであろう猫神ちゃんの話だけど……単刀直入に言うと、あんなことをしやがったのが我殿雹狼よ。その辺は猫神ちゃんも把握してるのね?」

「うん、大丈夫」


 リユさんに話を振られると、猫神綾はにっこりと笑って答えた。その笑みに僕は恐怖心を抱かずにはいられない。どうしたらこんなに殺意のこもった、凍るような笑い方が出来るのだろうか。確かに、それ相応のことをされているわけだけど。この笑顔を見てしまうと、僕なんて比じゃないな、なんて思ってしまう。


「さて、次に桜月君、あなたのことよ」

「え?」


 次にこっちに話が飛んでくるとは思ってもなくて変な声が出た。

 でも、このタイミングで話が来るなんて理由は一つしかない。でもまさか。まさかまさかまさか!


「桜月君、あなたの一家を虐殺したのは我殿よ。荊がそれを知っている」

「……ッ!」


……なるほど。なるほど、なるほど。そういうことか。じゃあ今までのあれもこれも全部説明がつく。分かってしまう。

 嘘誠院音無を恨むように、世界を滅ぼした原因を僕に流したのも、嘘誠院音無を殺すことが指令だと伝えてきたのも全部、全部あのクソッタレ眼鏡がやったことだ。あのクソッタレ眼鏡がこの状況を作り上げてきた。

 やっと話が見えてきた。これはつまり──つまり、あのクソッタレ眼鏡をぶち殺すという話で、僕はやっと復讐すべき正しい相手を教えられたってわけだ。

「次、雨宮ちゃん姉妹。きっと自分達で把握してると思うけど──」そして、因縁は終わらない。僕だけじゃない。猫神綾だけでもない。「──それから昼夜ちゃんズ。あなたたち二人もそう」


「我殿はあなたたちの故郷を滅ぼし、家族を殺し、そしてあなたたちを殺した」


 クソッタレ眼鏡は、各世界で出現し、各世界で因縁を作り上げてきていた。

 だけどこうして分かったことが増えていくと、どうしても分からない疑問も生まれてしまう。幾つもの世界が存在していて、僕たち……否、彼らがてんでバラバラの世界からやってきているのなら、じゃあ我殿はどうやってその各世界でいろいろとやらかしてきたんだ? 世界から世界へ移動するなんてそう簡単に出来ることではないはず。それをただの人間に出来る方法なんてあるのか?


「さて……。ここできっとみんな疑問が浮かんだだらうから、その答えとなるものを先にいっておくわね。

 我殿は、()()()()()()


…………?

 人間ではない。確かに、人間が出来る技ではない。でも、じゃあだったらなんなんだ? あのクソッタレが神様だなんてオチは流石に無いだろうし……。


「はぁん、そういうことか」

「どうされました、稲荷様?」

「確認するが、我殿ってあの真っ黒い眼鏡のことだよな?」


 理解が追い付かずほぼ全員が一回首を傾げようとしたところで黒岩暁──今は稲荷様だったか──が鼻で笑って言った。それに司令官が反応しつつ黒岩暁の側へよる。ねぇ、司令官はいつの間にソイツになついたの?


「人間じゃない。『神の力』を求めるくらいなんだから神でもない。だけど神にしかできないようなことをやってのける。これだけ条件があれば簡単だ。あの眼鏡は『神になれなかった存在』。なり損ないっつーことだな」

「ええ、大正解よ」


 神になれなかった存在。

 なり損ない。

 だから世界間を移動するなんて芸当をこなせて、『神の力』なんてものを求めている。なれなかったから、手にすることが出来なかったから、犠牲を積み重ねて力を得ようと。

 その力の養分となり得る僕たちはそういった経緯で我殿に殺された。そういうことらしい。

 まったく、ふざけた話だ。


「元は仁王君のような次期候補としての存在だったようだけど、何らかの理由でその資格が無くなったみたいね 。まあ……分からなくもないじゃない?」


 リユさんは我殿についてそう締め括った。確かに、分からなくもない。あんなやつが神になった日には世界が破綻する。戸垂田小坂ですら滅ぼしたぐらいなんだから。

 さて、リユさんがこうやって掘り下げてクソッタレの話に時間を割いたということは……もうこれからの目的は分かりきってるね。言われなくとも僕なんかは率先してやるけど。


「お願いがあるの。あなたたちの手で、我殿を()()してほしい」


 抹消しろとか殺せとか言わないのは、そうすることが出来ない可能性があるからだろうか。なり損ないとはいえ、ベースは神なんだから人の手で存在を消せるかなんて分からないもんね。

 でも、リユさん──否、荊様がそう指示するというのは、あのクソッタレが更に重大なことをするってことなのか? 確かに、『神の力』を手に入れたいだなんだって色々やらかしているわけだけど……。


「仁王君に特別な力があるように、彼もまた特別な力を持っている──『創造主の糸(マリオネット)』と呼ばれているんだけどね。端的に言えば、誰であろうと、なんであろうと、一度術をかけてしまえば永遠に我殿が操ることが出来る能力よ。荊を操ることは流石に出来ないみたいだけど、例えば……嘘誠院狂偽を操ることは出来る」


 それは決定的な理由だった。

 嘘誠院狂偽を操ることが出来る。荊様すら凌駕して、現職の神の力をぶっちぎって、世界を滅ぼせる力を持った彼を我が物にすることが出来る。

 それは例え彼に戦闘能力がなかったとしても、十分迅速に彼を始末しなければならない理由だった。

 こうしてリユさんと荊様の話は終わり、二人は森から去っていった。なんでも、『次にすべきこと』の為に準備をしなければいけないらしい。ちなみに、その『次にすべきこと』を指示したのは源氏蛍仁王なのだとか。前に荊様がこの少年を呼んだのは『すべきこと』を教えてもらうためなのかもしれなかった。神レベルのやりとりだから全部憶測で語るしか無いわけだけど。


「そんじゃ……神様の話が終わったし、今度は俺の話でも聞いてもらうかな。オトの話や」


 流れた沈黙を破ったのは囚我先生だった。まだなにか嘘誠院音無がやらかしているのだろうか。もう僕としては彼の話なんて一ミリも聞きたくないんだけど。もう、うんざりだ。


「結論から言うと、オトはそろそろ狂偽を召喚獣として従えることができなくなる。今はまだギリギリ保っとるが、そのうち狂偽にかけた術式が壊れる」


 それはつまるところ、魔王の降臨を意味していた。

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