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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
内戦
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6.戸垂田小坂

 自分がこの世界を滅ぼした張本人だと思い出したのはついさっきのことだった。それまでは、自分は普通の人間だと思い込んでいた。知らなかったんだ。否、忘れていたんだ。

 音無がなにやらぶっぱなしてくれたお陰で俺は吹っ飛ばされ、石碑に頭を強打した。そして、記憶が戻った。

 ショック療法で記憶が戻ってきた、なんてことではない。この石碑に俺の記憶が眠っていたんだ。

 もっと言えば、この石碑の下にはきっと、俺が神様だった頃の社や神体が眠っているはずだ。そう、今全員が集まっているこの場所は、かつて俺が祀られていた神社だったんだ。

 最初は世界を統べる神様だったわけじゃなく、ポジション的には祀られていたであろう時の稲荷様(?)の方が近いと思う。『悪いところを良くしてくれる』『幽霊ですら足が生えてもう一度走り回れるようになる』。そんな医療の神様として俺は祀られていた。どうしてそんな信じられ方をしたのかといえば、それは神様になる前、人間として生きていた頃の所業がこうしたわけだけど、まあそれはおいておこう。大昔の話だ。


 今から十年ほど前の話。

 当時の音無は、愛されない子どもだった。

 どういった経緯(いきさつ)で、何がどう起こって音無があんな目にあっていたのかはわからない。俺にわかるのは、音無はいつも追い出され、ひとりぼっちで泣いていたということだけ。

 そんな音無の逃げ場がきっと、俺の社だったのだと思う。

 雨風凌げる俺の社で音無は隅っこにうずくまって泣いていた。それがしばらく続いて、その姿が見ていられなくなって、俺は音無の前に姿を現した。せめて音無がひとりぼっちじゃなくなるようにと、遊び相手になりたかったんだ。その記憶は俺が消えたことで音無から消えてしまったのかもしれないが。

 いつしか音無は俺のところに来なくなった。どうしてなのか、その理由は土地神でしかない俺には全く分からなかった。そして、音無がいなくなると同時に俺は神としての力を失い、消えようとしていた。信仰がなくなると力を失って消えるって本当なんだぜ。

 ほぼ俺が消えていたある日のことだった。曖昧になりつつあった俺の意識が突然覚醒し、気付いたときには俺はこの世界を統べる神へと謎のランクアップを果たしていた。俺の前任が多分丸投げしたんだと思う。それが何故俺だったのかは分からないが。

 世界を統べる神となった俺は、この世界のすべてを見通せるようになっていた。何が起こっているのか、これからどうなるのか。その全てを記しながら、人間の営みを見守ることが俺の仕事だった。

 そして、俺はかつての少年を見つけることになる。

 音無は嘘誠院家を正式に追い出され、一人の科学者に実験材料として売り飛ばされていた。でも、そこで音無は嘘誠院家よりも幸せそうな生活を送っていた。だから、その時はそれでよかったんだと見守るだけで留まった。特に手を出してしまいたくなる衝動もなかった。本当に、これっぽっちもなかったんだ。

 だが運命の日は訪れる。

 科学者のところで召喚術を学んでいた音無は、自分の人生を不幸にさせた元凶である兄を従わせることを思い付いてしまう。兄が人間ですらなくなってしまえば。自分がそれを従えて、思い通りに操れるようになれば。幼い頃から抱いていた暗い感情は、知識を得たことで急速に成長していった。

 しかし現実というのは本当に甘くはない。

 音無のその術が失敗してしまうのは目に見えていた。むしろ、音無はそれをすることで命を落としてしまうことが俺にはわかってしまった。絶対に成功しないことが、世界での出来事として確定してしまっていたんだ。

 俺はここで諦めるべきだった。見なかったことにすればよかった。でも、どうしてもそれが出来なかった。神としてあるまじき、私情がわいてしまった。

 ()()をすればどうなるのか、当然のことながら分かっていた。だが、一度消えようとしていた身だ。今さら消えるとかどうとか、そういうのはどうでもよかった。むしろ、幼い頃から見守っていた少年に、報いのひとつでもくれてやれれば本望だと思っていた。

 だから俺は手を出した。

 これから行われる術が成功するように。上手くいくように。神としてもてる力を全て使って、運命を無理矢理ねじ曲げた。

 その後どうなったのかはわからない。俺は結末を見ることなく、ルールに反した罰として闇に飲まれて消えていった。でも、後悔はなかった。


 さて、こうして消えたはずの俺だったが、どういうわけか人間としてまた目覚めることになる。ただ、神としての記憶は一つもなく、祀られていた頃の記憶も無くなっていた。俺に残されたのは祀られる更に前、人間として死ぬ前の人間だった頃の俺。しかも十代の記憶と、今家として住んでいるあの土地だけだった。

 力もなにもない。神だった頃の力は全て世界に没収されたのだろう。今残っているのは多分、その残りカスだ。


「……と、まあ、こんな感じだ。俺がこの世界の記録に残るわけがないんだから、アンタが分からないのも当然だな」


 全てを話し終えて後任者に目をやる。壱獄煉荊はじっと目を瞑っていて、仁王は真っ直ぐに俺のことを見ていた。俺みたいになるなとは言わない。ただ、力を振るえばどうなるかだけはわかってた方がいいよな。

……さて。

 ここまで話した以上、俺には向き合わなきゃいけないやつがいるよな。今更、どう償えるかもわかんねぇけど。


「これが真相だ。だから、恨むなら俺にしてくれ。俺が勝手にやったことなんだ」


 俺は琴博桜月の前に立って頭を下げた。向き合わなきゃいけない、なんて言いつつも顔を合わせることが出来ない。どんな罵声が飛んでくるかもわからない。ただ、今殺されるのだけは勘弁だな……。


「……っは、元神様に頭を下げてもらえるなんて僕も偉くなったもんだね」

「…………」

「安心しなよ、もう世界を滅ぼしたとかそういう話は僕にとってどうだっていいんだ。だから君が嘘誠院音無への愛でどうこうしたとか聞いても正直どうだっていい」


 それよりも大事なことがある、とシニカルに笑って桜月は言う。

……? どういうことだ? こいつの家族って世界が滅んだからみんな死んだんじゃなかったのか? だから、病的なまでに音無を恨んでたんじゃ……


「そうね。じゃあ、これからの話をするわね。ここからが本題なの」


 俺たちのやり取りを一通り見守ると、風見リユがまた口を開いた。ああ、未来に関することを神が口出しできるわけがないよな。


「まずは情報交換から始めるわね。ここにいるみんなは、『我殿雹狼』について、どのくらい知ってるかしら?」

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