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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
乱戦
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9.戸垂田小坂

 絶対に一人にならないことを条件に猫神が出歩くことを許可して、俺たちは二手に別れて森に入った。何処に誰がいるのかはさっぱり分からないが、“組織”の連中に囲まれてる以上単独で行動してるやつと合流するのに越したことはない。“組織”の連中の狙いが何なのかイマイチはっきりしない以上、全員が危険なのだから。


「とりあえずまずは音無を探すところからだよな……」

「ですね。お姉ちゃんに狙われたらひとたまりもないですし……」


 空美は神妙な表情で頷いた。

 空美の言うとおり、一人でいるところを海菜に襲われれば命の保証はないだろう。というか誰が相手でもあんなん無理だろ。なんでも斬れるって相当だからな。あんときは油断してくれまくってくれたからどうにかなったけど、二度とあんな手通用しないだろうし……。

 あー、弱点を指摘するのはやめておいた方がよかったかもしれねぇな。


「きっと、初めて指摘されたと思います。お姉ちゃん、そんなの関係なしに強いから……」


 ちょっと誇らしげな空美。やっぱ敵対してても姉妹だしな。姉ちゃんが強くてかっこいいってのは自慢なんだろうな。

 さて──猫神が正しければ、このまま真っ直ぐ行けば音無が居る筈。“組織”の連中に先を越される前に合流しないとな。走ろう。悠長に歩いてる場合ではない。


「走るぞ」

「えっ? あ、はい!」


 この森には確か、昔神社だったところがあった筈。そのため、森の真ん中はそこそこ整備がされていて走りやすくなってる。とはいえ暫く放置されていたわけだから、荒れてるには荒れてるんだけどな。

 でも、木々が乱立してる訳じゃなく、こうやって一本の道として出来上がってるんだから他の方角にいくよりも楽だろう。さて、どこまで行けば音無に合流できるんだ?

 考えながら、俺たちは丁寧に並べられた木々の間の一本道をただひたすらに駆け抜ける。すると、いつからか透き通った笛の音が聞こえてくるようになった。


「……っ、小坂さん 」

「ああ、お出迎えみたいだな」


 笛の音が大きくなると共に現れたのは一本の大木。この木が道のど真ん中にあるっつーのはどう見ても不自然だよな。

 その一番太い枝には一人の……あれは女か? それとも男なのか? まあ、とにかく人がいた。そいつが篠笛を持ってて未だに吹き続けてる。

 そして何よりインパクトが強いのが、そいつが乗っかってる大木。これがなんと笛の音に合わせて、まるで生き物のように動いているのだ。その太い枝を腕のように使って降り下ろされてしまえば俺たちはひとたまりもないだろう。どうする? どうやってこいつを切り抜ける?


「あー、待って待って! 今降りるから!」


 隠し持っているメスに手を伸ばした、その瞬間にそいつは突然笛を吹くのをやめて、慌てたようにそう言って木から飛び降りた。え? 降りちゃうのか?


「こんにちは!」

「…………」

「…………」

「元気ないなー、こーんにっちはー! さんはいっ」

「こ、こんにちはー……?」


 なんだこいつ。どんなノリだよ。俺らにどんなリアクションを求めてるんだよ。空美に助けを求めてみたけど空美も戸惑ってるし……どうしてくれるんだこの空気。


「凄くピリピリしてるみたいだから和ませようと思ったんだけど……ダメだったみたいだね? まあいいや、指揮官お久しぶりです」

「お、お久しぶりです……」

「それから、戸垂田(へたれた)小坂(こさか)くんだよね? 初めまして。俺は風見(かざみ)(じん)。一応“組織”やってます」

「お、おう……」


 手を差し出されたのでそのまま流されて握手までしてしまった。一応俺たち敵対してる立場だよな? なんでこんなにフレンドリーなんだ、こいつ。


「親しみを込めて君のことは今からプー君と呼ぶね! プー君!」

「本っ当になんでそんなにフレンドリーなんだよ! っていうかどこから出てきたプー!」

「え? ジャージのブランド?」

「俺を構成する要素はジャージかよ!」


 確かにジャージばっか着てるけどよ。持ってる服ジャージがほとんどだけどよ。でもだからってイコール俺にはならないだろ。

 そもそも親しみを込めた呼び名がプー君ってなんだよ。どんなネーミングだよ。まず何を考えてるんだこいつ。敵対してるのに親しみを込める意味はあるのか? 真意が全く読めない。


「俺のことが気になる?」


 俺の心を読んだかのように風はこちらを向いてふふっと微笑んだ。その顔がいい意味で(何がいい意味なんだ?)女っぽくて、不覚にもドキッとしてしまった(本当に不覚だ)。


「俺の目的はね、本当に君たちと仲良くなることなんだよ。俺たちが戦う必要は無いんだ。むしろ、協力しなきゃいけない。

 嘘だと思うならそのメスで俺を刺したって構わないよ。俺は絶対に抵抗しない」

「…………」


 風の目は本気だった。本当に刺されたって構わないと訴えていた。抵抗しないのも本当だろう。戦意が皆無であることをとにかく訴えたいみたいだ。


「……わかった、詳しい話を聞かせてくれ」


 俺は一回空美と顔を見合わせて、それから頷いて風の話を聞くことにした。戦う必要はない。むしろ協力しなきゃいけない。今の状況とは真逆のことを言うこいつは、一体何を知ってるんだ?

 戦う必要はないと言う人物は初めてじゃない。二人目だ。今俺のとなりに居る空美が、殺す必要のない音無を殺すことに抵抗を覚えて逃げ出した一人目なのだから。


「元々、“組織”としての目的は『嘘誠院狂偽の力を弱めるために嘘誠院音無と協力すること』だったはずなんだ。なのに、それを誰かが『嘘誠院音無を殺して存在を抹消すること』にすり替えてる。さて問題です。このすり替えによって何が起こるでしょう」

「……まあ、普通に考えりゃすり替えた奴が何らかの得をするんだよな?」

「うん。じゃあ、次にどんな得をするのか考えてみよう」


 言いながら風は歩き出した。ただ突っ立っているのでは時間が惜しいらしい。

 ちなみに、歩いた先に居るのはチャイナ娘と海菜らしい。その二人が戦ってる中に入ってくのか……? 流石にそんなことはないよな。

 さて、それよりも問いの答えだ。

 すり替えた奴が一体どんな得をするのか。音無を殺してしまうことで生じること。まず、何故音無なのか。それは音無の兄ちゃんがとんでもねー力を持ってるからで、その兄ちゃんが音無の召喚獣だからだ。

 今のところ、音無を殺せば召喚獣である兄ちゃんも一緒に死ぬとされてる。が、この情報がすり替えられている。

 だとしたら考えられるのはひとつ。音無を殺すことで起こるのは、召喚獣である兄ちゃんが自由になること。

 そして、自由になった兄ちゃんをなんとか騙して仲間にでも率いれてその力を手にすることが出来たとすれば。


「……ものすごい観察力と頭の回転だね。司令官が嫌がるわけだよ」


 俺の答えは概ねあっていたらしい。風は小さくため息をついてそう言った。なんだよ、俺嫌がられてるのかよ。


「世界を滅ぼせるレベルの力を持った奴を手駒に加える……ねぇ。世界でも掌握してぇのかな」

「……あッ!」

「おう!? ど、どうしたんだ空美」


 走ってる最中に突然大声だして立ち止まったらあぶねぇし心臓に悪いくらい驚くんだが。急に止まるのも心臓に悪いんだぞ。


「も、もしかして、その、犯人って……」


 なんて俺の問いかけを華麗にスルーして、空美は目を見開いて風に言う。

 風は諦めたように頷いた。


「そ。多分、雹狼(ひょうろう)さん」


 雹狼。

 その名前をどこかで聞いた覚えがある。確か、“組織”の第三部隊長とかなんとか空美が言ってたような──


「──神の力?」


 そういえば、そんな言葉が空美がまとめたホワイトボードに書かれていた気がする。神の力がほしい、と。音無の兄ちゃんが持つ力が神の力なのか? そもそもなんで神の力がほしいのか。本当に世界を掌握するつもりか。

 ああ、そういえばこの世界は滅んでいて、仮の神が建て直しを図っている真っ只中なんだったか?


「……はっ、この世界の神にでもなるつもりかよ」


 誰かを殺してまで力を手に入れて神になろうとする奴が創る世界なんざロクなもんじゃねぇだろうな。


「……だってよ、片目娘」

「ええ、私が愚かだったようです」


 そこまで考えたところで声がした。見てみれば、戦ってる筈のチャイナ娘と海菜が随分打ち解けた様子で立っていた。何故か海菜がチャイナ娘に抱きついていて、チャイナ娘はその頭を撫でている。どんな状況だよ。何が起きたんだよ。

 そもそもチャイナ娘は何故か全身に薄く炎をまとっていて、頭には耳のような形をした、背には九本の尾のような形をした、炎がそれぞれくっついている。まるで狐みたいだ。あとなんな口調が違う。


「さ、妹様のお出ましだ。俺の言ったことは覚えてるな?」

「勿論です、稲荷(いなり)様。色々とありがとうございました」


 俺たちの姿を見ると、チャイナ娘はそう言って海菜に離れるよう促した。そしてそれを素直に頷いて、丁寧なお辞儀までする海菜。くるりと一回転すると今度は空美に駆け寄り「私が悪かった」と頭を下げた。本当に何が起きたんだ。


「よう、ジャージ君。久し振りだな。俺様のこと覚えてるか? いや、覚えてないよな。あんときの俺様は色んな奴が混ざってる状態だったしな」

「……誰だお前」

「おー? 俺様に向かってお前とか言っちゃうー? 言っちゃったー? ま、いいんだけどさ。俺様器のでかいことには定評があるからな!」


 チャイナ娘の姿をしたそいつはよくわからないことをぺらぺらと喋る。いつもの口調が出てこない分違和感がものすごい。本当に誰なんだよお前。


「俺様はまあ、色々あって暁ん中に宿った神様だ。稲荷様と呼びな! そんで暁のことは暁って呼びな!」


 神様? こいつが?

 稲荷ってことは狐か。だからその姿なのか。それはいいんだけど。いいんだけど……いや、深く考えるのはやめよう。情報量が多すぎて頭がパンクしそうだ。えーっと、こいつら戦ってないし次はどうしたらいいんだ?

 チラッと風を見てみる。


「……とりあえず戻ろっか」


 お前も困ってんじゃねぇよ。お前が俺たちをここに連れてきたんだろうが。戻るっていうなら戻るけどさ。

 なんか物凄く曖昧に戦いが終わったわけだが、本当にこの後どうするんだろうな。神の力争奪戦でもはじまんのか? 俺はごめんだぞそんなの。要らねぇし。

 とりあえずは一刻も早く情報を整理してぇな。頭の中がごちゃごちゃしてて気持ち悪い。

 自称神様が出てきたわけだが、じゃあ暁がこの世界の仮の神様なのか? それはなんか、違う気がする。ってことは八百万の神様よろしく他にも色々神様がいるのか。

 音無の兄ちゃんの力を手にすることがイコールで神の力を手にすることだとしたら、じゃあ音無の兄ちゃんは神様なのかって話になるんだけどそれも違うよな。というか、音無の兄ちゃんの力が神の力だったらそれを扱える立場である音無が神の力を手にしてることになっちまう。なんかそれも違うだろ。

 あー、いっそのこと仮の神様とやらが出て来て状況を説明してくれ! 神様ならわかるだろ!

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