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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
激戦
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10.とある観察者の報告

 九十(くとお)涙目(なみだめ)、十六歳。

 月明家の分家、九十家の長女。

 怖目とは双子で、語尾に「ッス」がつく方が涙目である。

 九十涙目は戦闘中であろうとよく喋る。ノリも大分軽いため、相手には緊張感がないとよく思われるようだ。


 九十(くとお)怖目(おそれめ)、十六歳。

 月明家の分家、九十家の次女。

 涙目とは双子で、語尾に「ッス」がつかない方が怖目である。

 涙目とは対称的に、怖目は戦闘中にあまり喋らない。

 九十姉妹は呪術を得意とするが、その術のほとんどを喋らない怖目が行っているものと思われる。


 我殿(がでん)雹狼(ひょうろう)、三十一歳。

 真っ黒なスーツに真っ黒なロングコートを着ているため、死神のようだと評されている男。昼夜空美や源氏蛍仁王にはおじさん呼ばわりをされている。

 雨宮雪乃、雨宮気流子となんらかの関係があるようだが詳細は不明である。

 昼夜空美が心の底から『分からない』と評する第三部隊の隊長を務めている。



 想定通り争いは激化した。そして、想定以上の結果をもたらすことになった。


 昼夜空美が動き出したのを合図に、“組織”の広間にて対峙した各々が一斉に動き出した。

 嘘誠院音無と『Alice』。

 月明葉折と月明甲骨、月明五樹。

 昼夜空美と昼夜海菜。

 黒岩暁と九十涙目、九十怖目。

 雨宮雪乃、猫神綾と九十九雷。

 各々が各々の理由をもって戦う。それは生き残りを賭けた戦いであり、守るための戦いであり、命令を遂行するための戦いであり、記憶に残る悪夢との戦いであった。


 以前の戦いで、『Alice』を倒すことが困難であることを学んでいた嘘誠院音無は、『Alice』の身体を破壊して時間を稼ぎながら、倒す方法を探す道を選んだ。そして『Alice』の腕を切り落とすことに成功する。

 すると、切り落とされた腕はひとりでに動き出し、嘘誠院音無の腹部に刺さった。侵入してきた、と表現した方が適切だろうか。

 不思議なことに、そうされても嘘誠院音無が腹部から出血することはなかった。そして、それは『嘘誠院音無の召喚獣を無理矢理引っ張り出すための術』だったのだと『Alice』は告げる。

 その後、嘘誠院音無の前に召喚獣である嘘誠院狂偽が現れる。

 嘘誠院狂偽は顔の半分をピエロのような仮面で覆っており、嘘誠院音無に対する兄としての記憶はなくなっているようだった。力は十二分にあり、『Alice』の用意した大量の人形を軽々と蹴散らしている。

 こうして、嘘誠院音無は兄への劣等感を思い出し、苛まれながら戦うことになる。


 一方、黒岩暁は九十涙目、九十怖目の二人と戦い始めていた。

 その戦闘は緊張感の無い会話から始まったが、一切の隙を見せない黒岩暁は九十姉妹がこっそりと用意した札を全て焼き払うことに成功する。それと同時に、何かをさせる隙を与えず黒岩暁は九十姉妹を乱打する。相手の能力が分からない以上、何かをされる前に倒してしまえばいいと考えたようだ。

 また、黒岩暁の近くでは昼夜空美と昼夜海菜が戦っており、昼夜空美は自身の能力を広間全体に使うことで、他人の術の再利用を始める。どうやら、なんでも斬り捨てられる昼夜海菜への対抗策として手数を増やす作戦に出たようだ。

 更に、昼夜空美は兄の格闘術を真似たものを使うことで昼夜海菜を驚愕させる。

 こうして術の再利用と兄の格闘術で昼夜海菜を抑える昼夜空美だったが、ふとしたときに黒岩暁の異変に気付く。

 それは、九十姉妹の呪術によって、徐々に身体の至る部分が動かなくなっていく姿だった。

 黒岩暁のそんな姿に気をとられてしまった昼夜空美は昼夜海菜にマウントをとられてしまう。だが、『姉を傷つける』という覚悟を決めることでなんとか体制を建て直すことに成功した。

 しかしその間に黒岩暁は九十姉妹に痛恨の一撃を受けてしまう。


 月明葉折は弟である月明甲骨、月明五樹と戦っていた。

 双子は月明葉折に“組織”或いは月明家に戻ってくるよう促すが、月明葉折はそれを頑なに拒絶する。どうやら月明家に実験動物として使われることが原因のようだ。

 兄弟で力量に差があるらしく、戦いは月明葉折が優勢のまま進む。だが、月明家によって投与された薬が切れてしまうことで、形勢は一気に逆転した。

 月明葉折は薬の副作用である幻覚によって潰されていく。


 月明葉折の近くで戦っていた嘘誠院音無は、そんな異変に気が付いたようだ。嘘誠院音無は魔力のほとんどを消費して『Alice』の全身を木っ端微塵に砕くと、月明葉折の元へと駆け寄る。だが、すぐさま月明甲骨の術を経由して復活した『Alice』によって四肢を貫かれ、ほぼ戦闘不能の状態に陥ってしまう。

 そこで嘘誠院音無はせめて『Alice』だけでも道連れにしようと最後の切り札を使う。それは、相手の魂を消滅させる術だった。


 貫かれた四肢と、使い勝手の悪い切り札のお陰で動けなくなった嘘誠院音無は、今が好機と昼夜海菜に襲われる。だが、嘘誠院音無は無事だった。

 代わりに、嘘誠院音無を庇った猫神綾が昼夜海菜の日本刀に貫かれ、地に伏した。


 その様子を全て見守っていたのが、雨宮雪乃によって隔離されていた戸垂田小坂である。

 戸垂田小坂、雨宮気流子、源氏蛍仁王は雨宮雪乃が作ったドームの中で戦闘を見守っていた。すると、そこへ『Alice』の人形相手に暴れまわっていた嘘誠院狂偽が現れる。

 嘘誠院狂偽と会話をすることで、戸垂田小坂は嘘誠院狂偽の異常性に気が付いたようである。その証拠に、「こんな奴、視界にいれたくねぇよ」と胸中でぼやいている。

 会話の途中で嘘誠院狂偽の仮面の半分が割れる。戸垂田小坂はその変化には気付いたが、それが何を意味するかまではわからなかったようである。嘘誠院狂偽はそれを合図にドームの前から去り、嘘誠院音無の元へと向かう。

 嘘誠院狂偽と入れ違いにやって来たのが昼夜空美と黒岩暁である。痛恨の一撃を受けた黒岩暁は肌が真っ黒に焦げていた。

 それを見るなり戸垂田小坂は治療を始めようとするが、源氏蛍仁王に止められる。そして、源氏蛍仁王が黒岩暁の治療を担当した。

 治療が始まると同時に、昼夜空美は叫びながらドームの外へ戻っていく。どうやらそれには雨宮気流子も同行したようだ。

 二人が外に出たことで、戸垂田小坂は猫神綾が嘘誠院音無を庇い、致命傷を負った瞬間を目撃することになる。


 猫神綾と嘘誠院音無を昼夜空美がドームの中へ運ぶと、すぐさま二人の治療が開始される。

 猫神綾を戸垂田小坂、嘘誠院音無を源氏蛍仁王が担当した。

 戦場に取り残された雨宮雪乃は、親友が致命傷を負ったことへの怒りを露にする。そして、武器を失った昼夜海菜を追い詰めていく。

 トドメを刺そうとしたとき、雨宮雪乃は戻ってきた昼夜空美に邪魔をされる。そして、雨宮気流子が帰ることを提案するが、雨宮雪乃はそれを拒絶する。それどころか雨宮気流子の話に聞く耳を持たず、隠れていた第三部隊を挑発し、第三部隊と戦い始める。


 雨宮気流子に第三部隊長である我殿雹狼が近付くと、雨宮雪乃の動きは一気に止まる。その隙に毒の塗られた針を刺されてしまった。更に、雨宮気流子の髪飾りの一つを奪われ、砕かれてしまう。

 雨宮気流子の髪飾りは雨宮雪乃が作り上げた封印であり、それを砕かれることで反動を受け、雨宮雪乃は倒れてしまう。

 我殿雹狼は、昼夜空美の「何が目的か」という質問に対し、「神の力を手にすること」と答える。と、同時に、封印を半分解かれた雨宮気流子に思い切り蹴り飛ばされる。


 我殿雹狼が近くに来ない内にと、雨宮気流子と昼夜空美は雨宮雪乃をつれてドームへと戻る。

 雨宮雪乃が倒れたことで、ドームが消滅していることを危惧していたが、それは杞憂に終わった。だが、それはドームの中心に立つ謎の少女が消えないようにしていたからであった。

 謎の少女は、限界を迎えてもなお猫神綾を救おうとする戸垂田小坂を止めるよう、昼夜空美に促すが、昼夜空美は動かない。すると、謎の少女はそれに気を良くしたのか「お姉ちゃんをよろしくね」という言葉を残し、今回だけだからと宣言して、ドームの中にいた全員を嘘誠院音無の家へ帰還させた。



 さて、今回の戦闘で大きな疑問が残った。

 猫神綾が憎しみをぶつけ、月明葉折が全てを察することになった原因の九十九雷の行方。そして、謎の少女の正体。

 だが彼らはこの疑問を気にしている場合ではない。それよりもまず、一刻も早く傷を癒さなければならない。

 戦争はまだ終わってなどいないのだから。

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