表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
激戦
PR
60/104

9.昼夜空美

 我殿(がでん)雹狼(ひょうろう)

 死神のような真っ黒な衣服を身に纏うおじさんで、第三部隊を率いる部隊長。だけど、第三部隊のことはあまり知られておらず、私も彼らのことがよくわかりません。

 何人いるのかも。

 何に特化しているのかも。

 分かるのは、その部隊長を勤めるのが我殿さんだけ、ということです。

 だから、雪乃さんが相手をしている人数がとても多かったことに、素直に驚いてしまいました。そして、余計にわからなくなってしまいました。

 銃を持っている、ということは戦闘に特化していると言うわけではないことを示します。武器の火力に頼るわけですから。でも、特化していないのに戦闘に参加するのはどういう意図があってのことなのでしょうか。わかりません。全くわかりません。

 そのせいなのでしょうか。私は、この人が出てきたとき、この人を攻撃できないでいました。“組織”の一員として、ブレーキが掛かってしまったのでしょうか。もう私は“組織”を裏切った立場で、我殿さんは敵なのに。

 私がやっと状況を正しく把握できたのは、気流子さんの「来ないで!」と叫ぶ余裕の無い声を聞いてからでした。


「妹に触るなぁぁぁぁッ!!」

「おっと、危ないお嬢さんですねぇ。身体の具合はいかがですか?」


 先程まで鮮やかに暴れまわっていた雪乃さんも、気流子さんの声を聞くと血相を変えて我殿さんへ殴りかかります。だけどその動きには違和感があって。

 雪乃さんは、その拳を受け止められると、ぐるりと一回転させられ、そのまま地面に倒されました。その一連の動きがあまりに優しく、静かだったせいでしょう。うつ伏せに倒された雪乃さんは最初に何が起こったか理解できないような表情を浮かべ、次に苦悶の表情を浮かべました。私にはそれが何を意味しているのか分かりません。猫さんのように心が読めたら良かったんですけどね。

 ただ、あまり雨宮姉妹と我殿さんを接触させては行けないような気がして、私は我殿さんの気をこちらに引くことにしました。その間に気流子さんが逃げられれば、と思ったのです。


「あ、あなたが……ここに、なんのようですか?」

「いえ、特に意味はないんですけどね。たまたま、偶然、戦闘特化の第一部隊の皆さんが手こずっていると伺ったものですから、ねぇ?」


 そう言って我殿さんはニタニタと笑いながら、私の方を向きました。そして何かをとりだし、私の方へ差し出します。それは小さな赤い四角の物体でした。何をしたいのかさっぱりです。


「なんですか? これ……髪飾り……?」

「それは! か、えせぇぇぇぇッ!!」

「気流子さん!?」


 私が戸惑っていると、突然気流子さんが叫びながら我殿さんに掴みかかりました。でもそれは残念ながらかわされてしまって、べちゃりと気流子さんは我殿さんの後ろに倒れるように着地しました。よく見れば、その前髪にはいつもついている髪飾りの片方がありません。

 でも、何故髪飾りひとつであんなに必死なのでしょう? 我殿さんも我殿さんで、あんなに楽しそうですし……。ただの髪飾りで? 頭がおかしいんじゃないでしょうか。


「なぁに、ちょっとしたお手伝いですよ」


 なんて私が考えていることなど知る由もなく、我殿さんは小さなナイフを取り出すとそれを思い切り髪飾りに突き刺し、髪飾りを砕き割りました。

 その瞬間、雪乃さんが突然叫びながら苦しみ始めます。


「せ、雪乃さん……?」

「心配しないでも大丈夫ですよ。彼女はがんじがらめにしていた封印の反動を受けただけですから。自業自得ってやつですよ。……ふふ、そんなことより、彼女の方が大事ですよ。やっと窮屈な封印から解放して差し上げたんですから……気分はどうです? 少しはスッキリしたんじゃないですか? ああ、待っててくださいね。今、もう片方の封印も破壊して差し上げますよ」


 ベラベラと、うっとりとした表情で我殿さんは語りました。その姿をおぞましいと表現する以外になんというのか、私には分かりません。

「我殿さん――」その気持ち悪さに、恐怖を覚えながら私は思わず問います。「――貴方は一体、何が目的なんですか?」


「目的、ですか。そんなの」


 決まっているじゃないですか、と我殿さんは一瞬真顔になり、一歩私に近寄って、気持ち悪いほどの笑みを浮かべて言いました。


「神の力を手に入れることですよ」


 その言葉の最後の方はほとんど聞き取れませんでした。言い終わるちょっと前ぐらいに、我殿さんの身体は頭から勢いよく飛んでいったからです。


「知ったこっちゃあ、無いんだよ!」


 我殿さんが飛んで行った原因。我殿さんの顔面に思い切り蹴りを喰らわせてぶっ飛ばした気流子さんはそう吐き捨てるように言って着地をしました。

 気流子さん? 多分、気流子さんです。

 私よりも低かった身長が高くなって、髪の毛も若干伸びているけれど。顔立ちとか体つきとか、色々と少しだけ成長したように見えるけれど。


「空美ちゃん! お姉ちゃん連れて早く戻ろ!」


 そうやって私に叫ぶ声は変わっていないし、苦しそうに呼吸を繰り返す雪乃さんへの態度も変わっていません。きっと気流子さんで間違いないでしょう。どうして急に成長したのかさっぱりわかりませんが。


「早くしないとみんなが危険なんだよ!」

「皆さんが……? どうして」

「多分、お姉ちゃんのドームが無くなってる」


 あ、と思わず声が漏れました。

 幻術は精神が安定していないと使うことが出来ないのです。そして、今の雪乃さんが安定した精神を持っているとはとても思えません。それどころか、術を使えるほどの余裕がありません。

 猫さんと雪乃さんが二人で相手をしていた雷さんが簡単に動けなくなるとは思えません。“組織”の他の人間が新たに出てこないとも限りませんし、よく分からない第三部隊の人間がこれだけだとも限らないのです。

 気流子さんの一言でようやくそれに気づいた私は、即座に気流子さんと雪乃さんをつれて皆さんの要るところへ『空間移動(テレポート)』をしました。


「やぁ、思ってたよりも遅かったね」


 結論だけ言うと、皆さんは無事でした。それだけではなく、雪乃さんの幻術で出来たドームは壊れていませんでした。でも、それは雪乃さんの幻術が解けなかったわけではありません。


「……だぁれ? 空美ちゃんのお友だち?」

「いえ……私は知りません」


 ドームの中心で、戻ってきた私たちに真っ先に声を掛けた人物。それは私よりも、そして急に成長してしまう前の気流子さんよりも恐らく背の低い、仁王くんほどの年齢の、黒髪の少女でした。

 その髪型はひどくアシンメトリーで、右側は前髪まで全部まとめて一つに縛り、サイドテールにしているというのに、左側は前髪も後髪も全部下ろしていました。すごく中途半端な印象があります。


「んー……あたしのことはどうだっていいからさ、そこのお兄ちゃんをとめてあげてくれない?」


 少女はそう言って右を指して困ったように言いました。その顔が誰かににているような気がしたのですが、いまいち分かりません。

 少女が指した先には右手の甲で鼻の辺りを押さえながら左手を横たわった猫さんに向ける小坂さんの姿がありました。


「るっせ、え……ッ! 絶対(ぜってー)に、死なせるわけ、に……いかねえ、ん、だよ……ッ」


 息も絶え絶えに小坂さんは言います。そのとき一瞬離した右手の隙間から、赤い滴が垂れるのが見えました。恐らくそれは鼻血で、小坂さんは限界を越えて魔力を酷使しているということになります。

 このままでは、小坂さんまで危ない。

 でも、だからと言って、それを止めることはできません。私だって……私だって、猫さんを助けたい。

 死なせたくなんか、ありません。


「……しょーがないなー。今回だけだかんね」


 動かない私を見ると、少女は()()()()()ため息をつきました。そして大きく一歩踏み出して仙人さんの身体を跨ぐと私の目の前までやって来ます。


「忘れ物はないね? あったとしてもあたしはしーらないっと。……それじゃあ、()()()()()をよろしくね」


 そう言いながら少女は私の肩に右手を置き、微笑みました。それから、恐らく『空間移動(テレポート)』と唱えたと思います。残念ながら確証を持つことが出来ませんが。

 何故なら、次の瞬間、少女は私たちの前から消えてしまったから。

 いいえ、これでは語弊があります。

 正しくは、次の瞬間、私たちはあの場所、“組織”の広間から消え、音無さんの家のリビングに移動をしたから。

 この現象は私の能力によるはずのもので、猫さんの協力なしには起こり得ないものでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ