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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
激戦
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2.黒岩暁

 お姉ちゃんは私が止める、と宣言して空美とその姉は向かい合ったまま動かなくなったですだ。動くに動けないってことですだかな?

 音無はいつだか見たあのクソ女とやりあってるですだし、変態も男の方の双子となにやら揉めてるらしいですだ。猫神と嘘つきは相変わらず気持ち悪い女(九十九雷とかいったですだかな?)を殴り倒すことに専念しているし、消去法で儂は余った女の方の双子の相手をすることになったですだ。つーかこの“組織”双子多いですだな?


「はぁー、よりによってアンタが相手ッスか。勘弁してほしいッス」

「なんだったら見逃してくれてもいいですだよ」

「流石にそうはいかねえッス」

「ですだよなぁ」


 儂と双子の片割れは向かい合いながらそんな会話をする。緊張感の欠片もねぇですだな。ふむ……しかしまあ、分かってたこととはいえ、儂たちの情報って“組織”側にだだ漏れなんですだなぁ。だからこそ、目の前のこいつはこんなに嫌な顔をしているんだろうですだしな。


「一応自己紹介しておくと、ウチらは月明家の分家、九十(くとお)家の長女と次女ッス。ウチは長女の方の涙目(なみだめ)ッスから、名前だけでも覚えてってほしいッスよ。ちなみに、さっき指揮官にすっ飛ばされた方が次女の怖目(おそれめ)ッス」

「……なんっつーか、すっげー名前ですだなぁ……」

「名前のことはいじっちゃダメってママに習わなかったッスか? 結構気にしてるんッスよ!」

「ママ、ですだか。生憎覚えがないですだなぁ」


 儂を育ててくれたのは白い髭の生えた長老ですだしな。なんて、そんなことはどうでもいいですだな。なんかこう、変に丁寧な自己紹介をされると気が抜けちまうですだ。それだけじゃないですだな。コイツらの妙な緊張感の無さが調子を狂わせてくるですだ。全くこれから戦うっていうコンディションに持ってけねーですだよ。緊張感が無さすぎて即死させられても文句言えねぇですだ。


「怖いですだなぁ……おっと、それ以上近付くんじゃねーですだよ」

「あ、気付いちゃったッスか?」

「当たり前ですだ。命に関わるですだからな」

「涙目、ダメだ。私も気づかれたよ」


 儂を挟み込むように立ちながら手をあげる二人。その手にコッソリと握られていた紙切れには既に焼けたような穴が空いているですだ。なんてったって、儂が今焼いて空けたんですだからな。


「札は見えた瞬間に焼き払えって幼い頃に教わったですだからな」

「どんな教育ッスか!?」

「ククク、嘘ですだ。でも、持ってる札は全部灰にさせて貰うですだよ! 『シュヴェルマー』!!」


 そう儂が唱えれば、たちまち双子の身体を小さな火花が飛び交って包んでいくですだ。その小さな花火は大したダメージを与えることは出来ねぇですだが、その代わりに身体中の燃やしやすいものに点火して燃やしてってくれるですだ。例えば、身体のどこかに隠した札とか。

 その火花に二人が狼狽えている隙に、儂は思い切り後退し横に跳躍、着地の瞬間の勢いを利用して思い切り床を蹴って加速しながら片割れの背後に回り込む。そして、勢いを殺さないように、むしろクルクルと身体を回転させて、更に加速させた拳を思い切りガラ空きの背中にぶちこんだですだ。


「あが……ッ!?」

「オルァッ!!」


 勿論それだけで終わらせるわけがねぇですだ。

 反りながら前に飛んでいく片割れを今度はハイキックで蹴り飛ばす。殴った時点で動いていたんだから、蹴れば簡単に吹っ飛ぶですだ。片割れはもう片方を巻き込んで、気持ちいいほど勢いよく壁にぶち当たっていったですだ。

 さて……次はどうしてやろうですだか。

 コイツらの能力がよく分からん以上、何かをさせる前に殴り続けて気絶させるのが最善策だと儂は思うんですだよな。

 やられる前にやれ。

 いい言葉ですだ。


「っ、仙人さん!」

「む? 空美ですだな?」


 そんな儂の背中にぶつかってきた小さな背中と、何時もとは違ったハキハキとした声。

 やや息の弾んだ空美は、背中合わせのままこんなことを儂にお願いしてきたですだ。


「出来ることなら、この部屋とか何も気にせずに魔法も乱発してもらえませんか?」

「いいんですだか?」

「はい、そっちの方がありがたいです」


 ふむ、天井が崩れたらあぶねぇとか思ってぶっぱなすのは控えようと思っていたですだが……良いって言うんだから良いんですだよな? 何を企んでるのかちっともわかんねーですだが、空美の姉に対抗するためとあらば協力を惜しまないわけがねーですだな。儂にはアイツを倒す手段がわかんねーですだし。


「じゃあ派手にいくですだよ!」

「ちょ……っ、少、しぐらい、待てッス……!!」

「待つわけねーですだ! 『メテオ』!」

「『循環空間(サイクルワールド)』!」


 タンマをかける声を聞くわけもなく、思い切り魔力を頭上に向ける。すると巨大な燃える岩の塊が現れて、決して遅くはない速度で、壁際でフラつく双子めがけて落ちていったですだ。

 その後双子がどうなったのかは知らないですだ。岩に阻まれてその姿なんか見えるわけが無いですだからな。……と、思っていたんですだが。

 床に着いた瞬間だと思うですだ。儂の放った岩は突然姿を消し、今度は儂の背後から降り始めた。


「うおぉ!?」


 ただ、それは儂に向かってるわけではない。岩の向く先は空美の姉だったですだ。


「……こそこそ話していると思ったらこう言うことか。無駄なことを」

「無駄かどうかはこれから分かるよ」

「これからなど無い。この程度、全て切り伏せる」


 儂の背後で二人がそんなやり取りを交わし、儂の再利用された『メテオ』は空美姉に呆気なく粉々に斬られて消えていったですだ。やっぱり一筋縄じゃいかねぇですだな。

 しかしまあ、そんな二人のやり取りに気をとられてる場合でも無いですだな。儂は儂の、目の前の相手をまずはどうにかしなきゃなんねぇですだ。


「クッソ……おもっきしぶちこみやがったッスな……!」

「代わりと言っちゃなんだけど、 仕返し(それ)は取っておいてくれ」

「あん?」


 ゾンビのような不自然な動きで立ち上がる双子。なんか段々あの気持ち悪い女に似てきたですだよ? 不気味すぎるですだな……。

 とか思ってるのも束の間、さっきまであんまりしゃべってなかった方の片割れが儂を指差すと、突然儂の身体がガクンと傾いたですだ。

 そして、気づいた頃にはもう遅く、儂の右足には全く力が入らなくなっていたですだ。

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