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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
激戦
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1.嘘誠院音無

 僕たちは今、窮地に立たされているのかもしれない。

 いや、かもしれないじゃない。窮地だ。余裕で窮地にたたされてる。崖っぷちだ。なんでこう、一人出てきたらズルズル芋づる式に“組織”側の人が出てくるんだろう。ここが“組織”内だからっていうのは置いといてもおかしいと思う。そんなすぐに広間って分かるものなのだろうか。

 広間に入った瞬間に仙人さんが爆発して、猫さんの様子がおかしくなって、葉折君の様子もおかしくて、天井から三人増えて、空美さんのお姉さんと他二人も増えてきて。

 僕たちにどうしろと言うのだろ。

 いや、何を言われようと、もう戦うしかないんだけれども。しかも、そもそもの話をしてしまえば僕のせいでこうなっているのだけれど。

 そう、全ては僕のせいなのだ。きっと僕さえいなければ小坂君も気流子さんも仁王君も誘拐されることはなかったし、こんなところに乗り込むこともなかった。猫さんや葉折君の様子が急におかしくなることもなかったし、こうして囲まれることもなかった。

 僕が悪いんだ。僕さえいなければこんなことにはなってなかったんだ。そんなことは分かってる。分かってるんだ。

 でも、だからといって、いなければ良かったとはいえ、それでも、簡単に「ハイそうですか」なんて言って死ぬことはできない。出来るわけが無いじゃないか。兄さんのせいでまた全てを諦めなきゃいけないなんて嫌だ。何のために僕は()()()()()までしたんだ。

 僕はまだ、生きていたい。


「『悪戯空間(トリック・トリック)』!」


 一瞬の静寂を切り裂いたのは、そんな空美さんの声だった。そして、一瞬の内に空美さんのお姉さんと、仙人さんたちの前にいた双子の片割れが入れ替わった。


「……それでも邪魔をするのか、空美」

「当たり前でしょ。お姉ちゃんは、私が止める」

「やれるものならやってみろ」


 よく似た二人の顔が向かい合う。あんなに戦うことを止めていた空美さんが真っ先に戦うことを決意していた。これはもう、逃れることはできない。そして、それが切っ掛けとなり一斉にアリスさんと双子たち、そして奇妙な動きの九十九雷さんが動き出した。それならばと、当然僕たちも動き出す。

 動かなければ殺されてしまう。生きるためには戦うしかない。僕には、それしか残されていない。


「嘘誠院音無君! アタシの想いを受け取って!! なーんちゃって!」

「なんちゃってされなくてもお断りですけど、ね! 『回宙刃(ジャグリングナイフ)』!」

「少しくらい考えてくれてもいいんじゃないの?」


 地を蹴り、飛ぶように僕に向かって突進してきたアリスさんを、僕は五本のナイフで迎え撃つ。視界が一瞬の歪んだけれど気にしない。アリスさんが僕にたどり着く前にナイフを放ち、僕にたどり着いた頃には二本がアリスさんのナイフを受け止め、二本が両肩を貫き、もう一本がその細い首を向いた。


「容赦がないのね。アタシじゃなかったら大惨事って分かってる? ねえ、貴方には情ってものがないの?」

「貴方だからこうするんですよ」


 もっと言えば、自分を殺そうとしている相手に情なんて沸くわけがないのだけれど。

 前に襲われたときにこういった物理攻撃が何の意味もなさないのがよく分かった。だから、いま僕がナイフを突き立てたのだって正直なことを言えば無駄だ。ダメージは全く無い。だけど、こうでもしないとこちらが手数に負けてしまうのだ。こうやって間接を破壊して攻撃を封じていかないと、訳のわからない角度から思わぬ反撃を喰らってしまう。

 さて、今回こそはアリスさんに有効な手を見付けなければ。

 首に向けたナイフでアリスさんの首を貫くと、両肩のナイフを動かして完全に肩を破壊する。それは呆気ないほど上手く行き、切断された腕がぼとりと落ちた。だが血は出ない。彼女は人間ではないから。そして間違いなく、アリスさんはこの腕を再生する。その前に距離をとって、次の攻撃に備えつつ全身を一気に砕く準備をしなくては。

 僕はそう思い、一旦アリスさんから距離をとるため後ろに跳んだ。


「ざーんねん、でしたー……」

「えっ?」


 その時、ぼとりと落ちたアリスさんの右腕が動くのが見えた。そして、気づけば僕は腹部を貫かれているような激痛に襲われていた。


「ぐ、あぁ……ッ!!」


 腹から腕が生えてる?

 ちがう、腕が腹に刺さってる。

 なんで腕が? なんで動いた? 遠隔操作が可能なタイプだったのか?

 分からない。何をしたのかすらも分からない。分かるのは痛みだけだ。そう思ったら急に痛くなってきた。脳が激痛をしっかりと認知してしまった。

 痛い。痛い痛い痛い痛い!


「んーと? 次は発動をさせてー……」

「……ッ!? ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 ゴリゴリと体内が抉られていく音がする。自分のものかも分からない絶叫が聞こえる。痛くて痛くて痛くて、何が何で何なのかすら分からなくなっていく。まるで自分がバラバラになるような、自分から何かを引きずり出されていくような、それなのに身体と精神はすっかり乖離してしまって余計に訳がわからなくなる。痛い。自己防衛のためとはいえ余りいいとは思えない。痛い。


「はい、これでオッケーだね。生きてるー?」

「っは、っは……ッ」


 恐らくそれはほんの少しの出来事だったのかもしれないけど、僕にとっては永遠に思えるような長い激痛が続いて、それがようやく終わると、荒い故旧を繰り返しながらがくりと膝をついてしまった。上手く力が入らない。元々病み上がり状態だったのもあってコンディションは最悪だ。

 ただ、不思議なことに僕の視界には赤い液体が現れなかった。確かに腹を貫かれたはずなのに、触ってみればその傷すらない。あんなに激痛が駆け回っていたのに。


「なに、を……したんです、か?」

「んー? これは君の召喚獣を無理矢理引っ張り出すための術……だったかな? アタシもよく分かんないんだけど、召喚獣の程度を見るために引っ張り出してきてほしかったんだって」

「召喚獣……」


 僕の召喚獣を無理矢理引っ張り出す。それはつまり、僕の兄さんが再び僕の目の前に現れるということ。

 嘘誠院(きょせいいん)狂偽(きょうぎ)。何でも出来て、皆に愛されていた、僕の大嫌いで、今でも憎い、召喚獣となって僕の中に消えていった兄さん。

 目を少し横に向ければ、そこには見覚えのあるパンツを穿いた足があって、それだけで少し呼吸が辛くなった。意識して自分を落ち着かせないと過呼吸に陥りそうだ。


「……兄さん」


 立ち上がりながら、でも俯いて呼び掛ける。心臓がバクバクと暴れているが、向き合わないわけにはいかない。今はそんなことよりもアリスさんをどうにかしなきゃならないのだから。そのためにもまずはコミュニケーションを。

 なるべく感情を殺した上で、僕はやっとその顔を見た。


「……? 音無様、私の名は『ニイサン』ではなく『キョウギ』と御呼びください」


 兄さんはそう言うと僕に跪き「ご命令を」なんて言った。

 久し振りに見たその顔の半分はピエロのような仮面で覆われている。たったそれだけなのに、それ以外は全部あの日のままの兄さんなのに、何もかもが違うような気がした。そして、僕のせいで嘘誠院狂偽という人間は居なくなってしまったんだと、やっと分かった。

 それはずっと望んでいたはずのことなのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。


「感動の再会……ってワケじゃない、と。じゃ、そろそろいいかなー? たっぷり楽しませてよね!」


 そんな僕たち兄弟の再会を律儀にも待っていてくれたアリスさんは、そう言うとあの日も作っていた土人形を五体も繰り出し、全部で六体が鋭い刃をもって襲い掛かってきた。

 が、次の瞬間、それらは全て弾き返され、後ろに飛んでいた。音もなく、とても静かだったのに、とても激しく爆発が起こったようだった。


「あは」


 五体の土人形が一瞬で粉々になる。その一瞬の間に右半身が吹っ飛び大きく抉れたアリスさんは乾いた笑みを浮かべていた。


「まずは全力で音無様をお守り致します」

「やってみなよ召喚獣の分際で! 『ゴーレム・パレード』!」


 その全てを一瞬の、ほんの少しの動作でやり遂げた兄さんはそう言って僕とアリスさんの間に立ち、アリスさんはそんな兄さんに何十体もの土人形を繰り出した。それは絶えることなく兄さんに向かっていき、そのうち土で覆いつくしてしまいそうだ。


「音無様、少々お待ちいただけますか」


 そんな土人形たちに臆することなく、兄さんは僕にそう言って微笑んだ。

 僕はまた、兄さんとの違いを突きつけられ、思い知らされた。

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