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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
初戦
51/104

10.とある観察者の報告

 昼夜(ちゅうや)海菜(しいな)、十二歳。

 昼夜(ちゅうや)空美(そらみ)の双子の姉であり、“組織”にて司令官を務める第一部隊の隊長である。

 常にその身長にそぐわない日本刀を持ち歩いており、能力を発動させるための道具として使っている。

 また、その日本刀は『忌々しいと男』から渡されたもので、柄の部分が別れて小刀が出てくる仕組みとなっている。

『空間を移動させる』能力の昼夜空美とは違い、昼夜海菜は『空間を斬る』能力を持つ。双子で対となっている。


 九十九(つくも)(らい)、年齢不詳。

 月明(つきあかり)葉折(はおり)曰く、月明家の“兵器”。

 顔はほとんど髪で隠しているというのに、身体は殆ど露出している。また、裸足である。

 黒岩(くろいわ)(あかつき)の魔術により作られた岩を簡単に粉砕する力を持つ。

 また、猫神(ねこがみ)(あや)と何らかの関係があるようだ。


 月明(つきあかり)甲骨こうこつ、十四歳。

 月明葉折の弟。月明五樹とは双子であり、月明甲骨の方が兄である。

 月明葉折を『兄者』と呼ぶ。


 月明(つきあかり)五樹(いつき)、十四歳。

 月明葉折の弟。月明甲骨とは双子であり、月明五樹の方が弟である。

 月明葉折を『兄貴』と呼ぶ。



 とうとう彼らは正面からぶつかり合うこととなった。

囚我(とらわれ)先生』に命じられた誘拐が決行されたことに嘘誠院音無側が気付くときにはもう全てが終わっていた。

 高熱で倒れた嘘誠院音無が目覚めると、既に誘拐に気付いた面々が揉めていた。

 直ぐに三人を取り戻すことを主張する雨宮雪乃と黒岩暁。“組織”には行くべきではないと否定する月明葉折。その言い争いに挟まれ困惑する昼夜空美と、言い争いを静めようとする猫神綾。

 状況を掴めないでいた嘘誠院音無は軽い説明を猫神綾に求めると、雨宮雪乃、黒岩暁と同意見の立場となった。

 終わりの見えない言い争い立ったが、困惑し続けていた昼夜空美の申し出により終わることになる。昼夜空美が唯一の手段だったのだ。


 “組織”に乗り込み、三人を取り戻して“組織”から脱出すること。その策を雨宮雪乃が練りすぐさま実行された。

 策の一つとして、黒岩暁はその身に大量の岩と炎を纏い、最後に雨宮雪乃の幻術によってドラゴンとなった。それを猫神綾だけがアカツキドラゴンと称したため、ここでもそう記す。

 昼夜空美の能力で乗り込んだ後、アカツキドラゴンが暴れている間に三人を救いだし、監視を撹乱させて、昼夜空美の能力で逃げる。また、その際に猫神綾が魔力補助を使って昼夜空美の能力の補助、増大をする。これが考えられた策だ。

 その策に対し、月明葉折は自分の必要性があるのかと最後の反抗を見せるが、猫神綾に『嘘誠院音無を守るべき』と諭され反抗を諦める。

 猫神綾が月明葉折の中に見た“組織”への拒絶の感情は一体何を意味するのだろうか。


 一方、戸垂田(へたれた)小坂(こさか)雨宮(あまみや)気流子(けるこ)は“組織”に監禁され、昼夜海菜に要求を突きつけられていた。

 その要求とは則ち、『用意された魔方陣に雨宮気流子の魔力を注ぎ、戸垂田小坂の術を使う』というものである。それがどういう意味を持つのかは不明のままだ。

 戸垂田小坂はその要求を空腹を理由に断る。尚、雨宮気流子は会話すら聞いていなかったようだ。


 ふざけた態度の二人に対し、昼夜海菜は実力行使に出ることにする。が、想定外の事態が起こる。戸垂田小坂が日本刀に対して小さなメスで対抗を始めたのだ。

『昼夜海菜が能力を発動する瞬間に、能力を遮断する術を練り込んだメスを放ちぶつけること』、これが昼夜海菜の能力を無効化する手段であると踏んだ戸垂田小坂はそれを実行に移し見事、成功する。更に、魔力同士の衝突を起こさせることにより、昼夜海菜に一時的な麻痺を与えることにも成功した。

 ほんの少しのやり取りで昼夜海菜の能力とその弱点を暴き、攻略の方法まで見付けてしまい、更には“組織”の内部にまで踏み込もうとする戸垂田小坂に、昼夜海菜は不気味さを覚えたようだ。確かに、戸垂田小坂は物分かりが良すぎるだろう。


 そんな戸垂田小坂にひとつ誤算があった。

 昼夜海菜の日本刀に仕込まれた小刀の存在だ。

 直前まで昼夜海菜すら知らなかったその小刀が戸垂田小坂の右肩を貫くことで二人の戦闘は終わりを告げる。

 だが、丁度その時壁を隔てた隣の部屋にアカツキドラゴンらが到着し、猫神綾の読心術により雨宮気流子の叫びが察知される。そして、到着を雨宮雪乃が雨宮気流子へ知らせると、雨宮気流子は魔法を使い壁をぶち破る。

 雨宮気流子が開けた穴を利用すると、アカツキドラゴンは一気に突進し、昼夜海菜との戦闘になった。


 しかし、アカツキドラゴンは戸垂田小坂のように昼夜海菜を攻略できるわけではない。月明葉折と嘘誠院音無も加勢して昼夜海菜を撹乱させようとするが、昼夜海菜の能力の前ではすべて無効となってしまう。

 そんな状況を打破すべく、雨宮雪乃が用意したのは蛙だった。

 幻術で作られた大量の蛙。それが場にいたほぼ全員を混乱に陥れ、そして何より猫神綾を発狂させた。それが何よりも撹乱となったが、それに気づかないままアカツキドラゴンは天井を破り逃げることを選んだ。

 それを確認すると、雨宮雪乃は頭突きで猫神綾の発狂を止める。


 その頃、戸垂田小坂、雨宮気流子とは別枠で拐われていた源氏蛍(げんじぼたる)仁王(におう)は一つの選択をしていた。

『案内役』として付けられていた琴博桜月を広間に行かせないこと。それが源氏蛍仁王の今回における選択であった。

 源氏蛍仁王はその選択をするために、琴博桜月へかくれんぼを持ち掛ける。ここをよく知らないからと嘘をつき、一分のハンデを貰うと、源氏蛍仁王は階段に設置された四階の防火シャッターを下ろすと、一階の反対側の階段へ向かった。

 そして、もう一つの防火シャッターも下ろして引き返そうとしたとき、天井を破って出てきたアカツキドラゴンと対面し、合流することに成功。共に広間へと向かった。


 広間へたどり着いた瞬間、アカツキドラゴンの前に突如現れたのは九十九雷。

 無人と思われていた広間に現れた九十九雷は、アカツキドラゴンを形成する、黒岩暁の強固な岩と炎を一瞬で砕いた。

 その姿に、月明葉折は“組織”に月明家が全面的に関わっていることを察した。そして一つの決意をする。

 一方で猫神綾の様子が急変する。常に笑顔でいたような猫神綾は、九十九雷を見るなりその表情が憎しみで塗りつぶされた。それに唯一気付いた雨宮雪乃は猫神綾を心配し、さっさと九十九雷を封じて脱出することを提案するが失敗。九十九雷には幻術が効かなかった。

 そんなことをしている間に、天井にいつの間にか空いていた穴から『囚我先生』の作品である『Alice』、昼夜空美の脱走の際追いかけていた九十姉妹が飛び降り、戦いに参戦する。

 更には撹乱し、地下に置いてきた昼夜海菜と、月明葉折の弟たちまでもが現れてしまった。


 争いはこれから激化する。

 恐らく、これまでは序章にすぎなかった。これからが本題だ。

 私は、この先にどんな残酷な運命が待っていようと、それを受け止め、記さなければならない。

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