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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
戦略
39/104

8.雨宮雪乃

 久しぶりに綾と話したあと、隣の部屋が妙に騒がしくなった。主に騒がしいのはあの愚妹なのだけれど。

 本当、相変わらず元気そうで何よりだわ。元気よく頭突きまでくれちゃって、本当に嬉しいわ。

 頭を冷やせって何なのよ。大人しくここの住人になれって事だったの? 綾がいるからいいけど……いや、面と向かって話すべきではなかったわ。お陰でひどい話を聞いた。

 認めないわよ、私。


「起きたーっ!?」


 ものすごい勢いで扉が開かれる。そして現れたのは気流子。私を気絶させた張本人。『起きたーっ!?』って……誰のせいでこうなったと思ってるのよ。

 っていうか、さっきまで隣で騒いでたじゃない。なんでこっちにも来るのよ。


「きっと何かを察したんだよ。姉妹愛だねぇ」

「気持ち悪いことを言わないで頂戴」


 綾が笑いながらそんなことを言う。

 何かって何よ。察するってどうやるのよ。一番この愚妹に出来なさそうなことじゃない。


「姉妹愛は否定しないんだね」

「黙って綾」

「ふぇふぇふぇー」


 綾の頬を左右に引っ張る。それでも綾は笑っていた。読心術を使いながら会話をするなんて卑怯よ。プライバシーの侵害だわ。

 そんなことよりも。

 そんなことよりも、だわ。本当になんで気流子はこっちに来たのかしら。用でもなければあのジャージ君は怪我人を寝かせてくれそうなものなのだけれど。

……綾に用があったのかしら?

 私が見つけたあの少年が目を覚ましたとあればその可能性があるわね。綾の力を使って初対面の相手の内側を探るなんてよくあることだから。少年相手にするのもどうかと思うけれど。


「雪乃、難しく考えてるところ悪いけど、そうじゃないみたいだよ」

「え?」

「ご飯の支度のために起きてるかどうかの確認だったみたい。ほら」

「こっさかくーん! 二人とも起きてたから七人分だよ! あ、仙人ちゃんと音無君の分も別でいれてね!」


 本当だ。その証拠に気流子はすぐに踵を返して騒ぎながら何処かへ向かっていった。随分とあのジャージ君になついてるじゃない。あんなヘタレなのに。女顔なのに。


「そんなにヘタレてないよね……?」

「名前からしてヘタレなのよ」


 あとはオーラかしら。なんとなくそんな雰囲気がするのよ。気流子もあのガチホモ乙女もそう呼んでたじゃない。だからヘタレでいいのよ。知らないけど。興味もないけど。


「悪いけど聞こえてるからな」


 そこにひょいと顔を出してジト目で言うヘタジャージ。あら、何しに来たのかしら。昼食の支度をしてくれるんじゃなくて? だから気流子があんなにはしゃいでたんじゃない。空腹のあの子を放置しておくと、何をしでかすかわからないわよ――とは、ご丁寧に言ってあげない。多分もう思い知ってるはずだから。

 となると?


「野菜が無くなったんだ。畑までいってくるから飯はもうちょい待っててくれ」

「はーい。さすがにこの人数だとすぐに無くなっちゃうよね」

「本当にな。バカみたいに食うやつもいるし」


 凄く意外だった。

 え? この家は自給自足してたの? 今までそんな素振り見せなかったじゃない。……いや、私が見ていなかっただけなのね。綾の様子からして畑仕事は日常的に行われているようだし。

 本当になんなのよ、この家。


「因みに聞きたいんだが、葉折は何処にいるか知ってるか? アイツに手伝って貰いたいんだが」

「んー……音無君の部屋かな。ずっと動いてないみたい」

「マジかよ……まあなんだ、ありがとう」


 ナチュラルに思考の流れを読んで居場所を突き止める綾。それを利用するヘタジャージ。随分と読心術も便利な能力になったじゃない。それとも、別の私が知らない何かを使ったとか?

 知り合いから能力を借りてきたなんて話も驚きだし、そもそも魔力補助を使う知り合いがいるなんて話も初耳よ。まず綾に知り合いなんていたの?


「ひどいなぁ、それは追々話すよ」

「ナチュラルに人の心と会話をしないで」


 なにを考えてもダメね。全部筒抜けなんだから。昔からそうだけど。

 相変わらず綾はニコニコと笑っている。私の思考が全部綾に筒抜けなのに対して、私は綾の思考が全く読めない。何も分からないし何も知らない。それはなんか、不平等じゃないか、なんて思うときもある。

 ただ、この親友は割と私に対して正直だしそれなりに話をしてくれるから、そんな不満もすぐに消える。今は言わないってことは、何かあるのね。或いは、綾自身も把握してないんじゃないかしら。便宜上、ああ言ったけれど……なんて、考えすぎかしら?


「ヘ、ヘタレ! どうにかしてくれですだ!」


 突然、家中に響き渡る声が聞こえてくる。もしかしなくても脳筋チャイナね。ということは、音無少年が帰ってきたのかしら。

 これでしばらくご飯はお預けね。気流子が暴れだして全員分食べ尽くさないことを祈るばかりだわ。


「そんなことになっちゃったら、僕が代わりに作ってあげるよ」

「…………」


 そんな事態には絶対にならないよう、気流子にはしっかり釘を刺しておかないといけないようね。

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