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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
戦略
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9.琴博桜月

 アリスさんがボディを大破されて帰ってきた。かと思えば、指揮官が突然姿を消した。九十姉妹曰く逃げられたとかなんとか。

 いやいやいやいや。

 大丈夫なのか? この“組織”。


「思いっきり焼かれたのよ、顔面を! 普通女の子の顔面を思いっきり焼きながら殴る!? 有り得ないんだけど!」


 アリスさんはそうヒステリックに叫ぶ。まあ、確かに普通の人間相手にはそんなことしないと思う。女の子の顔を、って部分にあり得ないと怒りたくなる気持ちもわかる。でもアリスさんだからなぁ……。土人形なんだから、そんなところでキレなくたって、とは思う。


「お陰であのボディもう使えなくなっちゃったじゃないの! 嘘誠院音無君もそれなりに壊してくれちゃったけど、まだ核が生きてたからよかったのよ。なのになんなのあのチャイナのツインテ! 全身丸々破壊されたら核も何もないわよ! ハイト! 核がなくても再生できるボディ作って!」

「ソイツがそれや」

「やだ本当!? ありがとうハイト! 大好きっ!」

「おーおー、もっと言ったってええんやぞ」


 自分の作った人形にデレデレする白衣の男の図というのは、どうしてこうも見苦しいのだろう。気持ち悪い。何らかの狂気を感じる。人の好みは人それぞれだとは思ってるけど無理だ。僕には人それぞれだと言って受け入れることはできない。おぞましすぎる。

 はっきり言って僕は囚我先生が苦手だ。

 大の苦手だ。

 そりゃあもう、用さえなければ絶対に近づかないだろうと断言できる程に。

 何が苦手なのかと言えば、その口調もそうだし、ヘラヘラと笑う顔もそうだし、妙に軽い声色もそうだし、先生らしさなのかなんなのか分からないけど常に着ている白衣もそうだし、可愛い女の子を侍らせたいという思考もそうだし、バカなことを考えながら画期的な発見と発明をしてしまう頭脳もそうだし、あげたら切りがない。何故こんな彼から時雨さんが産み出されたのか未だに謎なくらいに切りがない。

 存在自体が苦手だ。全否定だ。下手したら嘘誠院音無の次に無理かもしれない。いや、嘘誠院音無は僕の中でぶっちぎりダントツの嫌いを通り越した存在なのだけれど。比べようもないのだけれど。

 さて、そんな僕が何故こんなところにいて、更にアリスさんの愚痴を聞いているのかと言えば呼び出されたからだ。

 囚我先生は上司だから、僕たちは従わなければならない。厳密には違うけれど。


「……お前さんら、文句言ったってええんやぞ? 呼び出しといてグダグダしてんなやーってな。まあ、怒られないのは気が楽でエエわぁ。ちょーっとふざけただけでメチャメチャキレる奴もおったからなぁ。短気は損気っちゅーのに、一々カッカすんのって。ほんで……なんやったっけ?」

「知らないよ!!」


 思わず僕は叫んだ。知らないよ。いや、何もないなら帰るよ。帰らせて。これ以上ストレスが溜まっていくのを我慢したくない。


「くくく、そう怒んなって。分かっとる分かっとる、呼び出しといて忘れたなんてアホはしとらん。呼び出したのは他でもない、お前さんらに頼みがあるからや」

「頼み?」

「せや。ちぃっと連れてきて欲しいのがおんねんな。お前さんらが適任だろうから呼び出したんや」


 連れてきてほしい。この“組織”に。

 その発言は中々、中々に平和じゃないものだった。

 この世界には僕たち“組織”と、嘘誠院音無側にいる奴等しか存在しない。他の人間は皆嘘誠院音無のせいで死んでいった。恨み言はおいといて、つまるところ、こっちに連れてこいと言うのは嘘誠院音無側から誘拐してこいと言ってるようなものだ。敵対してる側に敵対してる奴がホイホイ同行してくれるわけがない。

 その適任として僕と風を選んだのが大きな証拠だ。隠密に、確実に、そして素早く誘拐をできるのは僕ら二人ぐらいだろう。指揮官がいればもう少し違ったのだろうけど。


「連れてきてほしいのはコイツらや。何べんも資料見とるだろうから知っとるとは思うが……まあ、ホレ、写真な」


 囚我先生はそう言って僕に三枚の写真を差し出した。僕はそれを無言で受け取り、そこに写っているのが誰なのかを確認する。

 緑髪の少女と、ジャージの男と、茶髪の少年。……へぇ。このラインナップは割と想像してなかった。


「ひとりは荊が直々にお呼びやからな。くれぐれも丁重にせぇよ。特にツッキーは血の気が多いからなぁ」

「……なんでこの子を荊様が」

「さぁ? 荊の考えてることを理解しようたぁ無理な話やんな。でもまぁ、その子がなんなのかはその内分かるやろな」


 分かってるのか分かってないのかよく分からない答えだった。つまり『答える気がない』というのだけはハッキリしたけれど。

 とにかく、僕たちはこの三人を誘拐して、指された一人だけ特別な扱いをすればいい。それ以外は知ることすらしなくていいと。全く、便利なしたっぱだよな。


「荊様のことだから、敢えてそうしてるようにも見えるけどね。そんなにクサらないでよ」

「敢えてこうしてる?」

「そんな感じしない?」

「分かんない」


 囚我先生と別れると、風はそう言って柔和に微笑んだ。悔しいけれどその表情に少し癒されてしまう。

 まあ、理由がどうであれ、何も知らされないとしても、僕は荊様に従うんだけどね。

 荊様は命を助けてくれた、神様のような人だから。

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