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僕ラノ戦争  作者: 影都 千虎
戦略
34/104

3.黒岩暁

「いってくるですだ!」

 儂はそう叫んで、猫神に言われた通り音無をつかんで外に飛び出して、そして音無をぶん投げたですだ。

 もう儂が掴む直前ぐらいから音無の身体は氷を生やしていて、本当にギリギリ間に合っていなかったか間に合っていたかぐらいだったですだな。


「が……あッ、ぐあああああぁぁぁぁッ!!」


 森の中に落ちると音無は悶え苦しみながらまた絶叫する。と、同時に、剣山のように氷と鉄が入り交じったものがその辺の地面から無数に生えてきたですだ。おちおち着地もできねーですだ。木をへし折られたらお仕舞いですだな。


 猫神には相手をしろと言われたですだが、こんなんどうしろって言うんですだか……。

 猫神の氷だけだったら砕くなり溶かすなり出来たかもしれないですだが、そこに鉄まで混ざってきたら難しいですだよ。流石に鉄を溶かす程の炎は使えないと思うですだ。

 全く、なんで猫神も儂を指名したですだかな。あの変態にやらせればこの状況でもテンションMAXで相手をしてたと思うですだよ。儂には無理ですだ。

 確かに、とんでもない魔力量だし溢れだしてるやつもスゲーですだ。

 でも、あんな苦しんでぐっずぐずの状態の音無を前にして「こんなのと戦っていいですだか! くわーっ、ワクワクスッぞ!」とか言うほど儂も鬼畜じゃないし戦闘狂してないですだ。そんなんだったらドン引きですだよ。


「あ……あ、ああああああああッ」

「うわっと!?」


 頭を大きく振ってよろけた音無。その弾みに出てきた氷と鉄の大きな氷柱のようなものが儂のいた木をへし折ったですだ。

 ちょ、お仕舞いって言ったばっかですだよ!


「むぅん!『メテオ』!」

 こんなところで仲間に刺されて死にたくはねーですだよ!


 儂は魔法を発動して自分より下、つまり地面めがけて巨大な燃える岩を落とす。音無に当たらないことを願うばかりですだな。目的はそう、さっきの剣山を折ることですだ。

 目論み通り剣山はばっきばきに折れて、儂はそこに着地をする。さて、これからどうしたものか。


「うう、う、うううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう」


 痛みに悶えながら唸る音無。ふむ……力を無理矢理押さえ込もうとしているですだか? ダメですだ、そんなのしたら儂の二の舞ですだよ。

 なんてったって、儂は衝動と人格を抑えようとして抑えきれなくてあんなことをいつも繰り返していたんだからですだな。


「音無、よく聞けですだ」

「あ……ッ、な、に……」


 どろりと濁った瞳がこちらを向いた。うんうん、そーとーやばそうですだが、聞く耳があっただけでもよかったですだ。

 音無の前に立ち、手の上で炎と岩を交わらせながら説明を試みる。うーん、まずは扱い方ですだかな?


「力は抑え込むもんじゃねーですだ。今は確かにソレはただの異物ですだが……自分のものとして受け入れろですだ。何もかも全部受け入れて、自分として馴染ませろですだ」

「うけ、いれ……」


 きっと、猫神が音無にだけこんなことをしたのには何かもっと理由があるはずですだ。じゃなきゃこんな鬼畜な手段実行しねーですだよなぁ?

 くくく、それにしても『受け入れろ』ですだか。散々出来なかったくせによくもまあ、偉そうに言えたもんですだな。もっと早くにそういう手段を知りたかったですだよ。よくよく考えてみれば、儂の場合受け入れたわけでもないですだがな。一方的に消えろと言って、大嫌いな狐に消えてもらっただけですだ。アレを受け入れていたら何か違ってたですだかなぁ?

 もう消えちまってるからどうしようもねーですだがな。


「うッ、ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「落ち着け。ソレはお前に害をなすものじゃねーですだ」


 現在進行形でばりっばりに害をなしているですだけどな。


「なんっつーか、こう、ゆっくり一体化させるですだ。そうだ、儂の真似をしろですだ!」

「……ッ、仙人さん、の……真似……です、だ、か……?」

「口調を真似ろとは言ってねーですだよ。こうやって、音無だと……鉄と氷になるですだか? 違う魔力を二つ、手のひらにちっちゃくていいから出してみろですだ」


 どうやれって言われても、この辺は感覚だから教えようがないのが困ったところですだ。考えるんじゃねぇ、感じろですだってところですだかな?

 出来るかなぁ、どうかなぁ、なんてそもそもの魔力を出せるか心配していたですだが、それは杞憂だったみたいですだな。

 音無は結構器用なやつだったらしくて、あんまり時間をかけずに儂に言われた通り鉄と氷を手の上に出したですだ。こりゃあ意外な才能ですだな。召喚、なんて言ってるですだが、実際には魔力で鉄を造り出してる可能性もあるですだよ。


 丸くて小さな鉄の塊と氷の塊が音無の手の上でくるくると回る。音無が苦しむと安定さを失い、氷の方がとげを出したりと歪な形にうねうね変形するですだが、それらが消えることはない。ふむ、根性で出してる説があるですだよ。安定しないまま暴走してまたドカーンとでっかいのを出してもおかしくないのに今のところそれがねーですだし。

 すげぇですだな、こいつ。


「音無、その二つをくっつけてみろですだ。ほら、こんな風に」


 言いながら儂は次の段階に移る。音無と同じように手のひらに出している炎と岩の塊をくっつけて混じらせていく。すると二つは溶け合って一つになっていくですだ。これをぶっぱなすのがさっきのメテオですだ。


「……こ、う、ですか……?」

「そうですだそうですだ!」


 これもまたすんなりとやってのける音無。儂、これ出来るようになるまで昔結構苦労したはずだったんですだがな!? ちょっとこの才能にじぇらしーですだ。ズルいですだよ。

 しかしまあ、これが簡単にできちまえば後は楽勝ですだな。これを体内で再現すれば暴走ぐらいは収まるですだ。

 それを音無に伝えると、苦しそうな感じは残るものの暴走を抑えることが出来たようですだ。痛みも和らいだのか、叫ぶこともなくなったですだな。


「って、音無!? ……ッ、熱ゥ!?」


 なんて思ってたのも束の間。音無は突然倒れたですだ。

 慌てて駆け寄ればとんでもなくその身体は熱くて、音無はまた意識を失っていたですだ。

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