4.月明葉折
仙人ちゃんが羨ましいと心の底から思った。
だって音無と二人きりであの状態の音無を独り占めして音無に道を指し示すことができるんだよ? 羨ましい以上の感情がわかないね。そろそろ音無ロスで死にそうだよ。音無が強化に成功したらたっぷり相手にしてもらおうっと。
そんな僕だって一応状況を正しく理解してるつもりだよ。
例えば猫神の判断。悔しいけどアレも正しいと思うよ。音無を強化するって話はいずれすべきだと思ってたし。じゃないと僕たちがどんなに頑張ったところで隙を突かれて音無を殺されかねない。守らなくともなんとかなる強さ、というのはこれから先必要だと思う。
ただ、そのために猫神がああまでした理由がよくわかんないけどね。確かに音無への負担が大きくてハイリスクハイリターンなんだけど、猫神への負担も大きいはずなんだよね。
人一人と同じだけの魔力をぶつけてるわけだから、ほぼ全部だよね。特大魔法を限界越えて打ってるようなもんだから、そりゃあ倒れるよ。だからあの様。お陰に猫神にはなんの得もないおまけ付き。
なんのためにやったのか本当に気になるね。音無への下心? 猫神がどうなろうが知ったこっちゃないけど、そればっかりは見過ごせないよね。音無と結ばれるのはこの僕だ。ふざけんな音無は僕がもらう。あんなブスに誰が渡すかっての。
あとはまあ、相手役に仙人ちゃんを選んだことも残念ながら正しいと思うよ。
まず、僕らのなかでバカ魔力なのって仙人ちゃんしかいないし。その上彼女は炎と岩の複合型だ。猫神の魔力と音無の魔力を混ぜ合わせなきゃいけないんだから、複合のコツを教わるのは当然の流れだよね。あとは人間離れした仙人ちゃんの強さか。暴走したら何が起こるか分からないしねぇ。
「あ、あの、葉折さん……」
「ん? 何かな?」
「そ、その、大丈夫……なんでしょうか?」
「ああ音無のこと? 問題ないと思うよ」
音無を殺されないようにする。そのためにとった手段で音無が死んだら本末転倒だもんね。ましてや、音無を殺すこと自体に疑問を持って“組織”から脱走した空美ちゃんからしてみれば尚更だよね。
「根拠はないんだけど、まあ大丈夫だと思うよ。音無が根気負けするとも思えないし」
よく考えてみれば、世界を滅ぼせる召喚獣を飼ってる時点で気が狂ってもおかしくないんだからね。しかも音無のお兄さんだ。
人間を召喚獣にするにはそれ相応のものが必要になると聞いたことがある。魔力しかり、根性しかり。大抵の人は召喚獣にする前に耐えきれなくて失敗するか、召喚獣側が暴れて殺されて無かったことになる。そもそもが危険すぎるから禁忌とされてるわけなんだけど。まあ、音無はそれを乗り越えちゃってるし。
そのあとも内側から来る召喚獣の魔力を抑えなきゃいけないし、恐らく罪悪感とも戦わなきゃならない。んー、気の遠くなりそうな話だねぇ。終わりが見えないんだから。
「へ、ヘタレ!」なんて思っていたら窓からそんな声が響く。「どうにかしてくれですだ!」
ダイナミック帰還。窓からでて窓から帰ってきた仙人ちゃんは音無を担いでいた。意識がないのかぐったりしている。連れて帰ってきたってことはもう暴走とかの心配はないのかな。じゃあ存分に音無を抱き締められるね!
とか言ってる雰囲気でもなさそうだ。
どうしたのかなーとか思って近寄ってみれば、音無はとんでもない高熱で苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。なにこれ熱っ。
振り替えって小坂君に目で訴える。伝わったらしく、「ベッドに寝かせてくれ」とのお達しがあった。あいあいさー。
「原因は魔力だな」
水で濡らしたタオルを音無のおでこに乗せながら小坂君はそう結論付けた。まあ、そうだよね。僕から見ても分かる。音無の身体は今、とんでもない量の魔力が渦巻いていた。それが発散しきれなくて体内にとどまっているから高熱って形で出てきちゃったんだね。
これは……魔力を音無のものにするっていうのは失敗になっちゃったのかな? 一応、さっきみたいに呻いてないから魔法大戦争は終わったんだろうけど……うーん、わからん。
とりあえず暫くは音無の看病をして、怯えてる空美ちゃんを宥めないとだね。心配しなくとも空美ちゃんにはこんなことさせないと思うけど……まあ、怖いよね。
隣で「わ、私、ちゃんと鍛練します……!」と涙目で小声で言った空美ちゃんが微笑ましくて仕方なかった。でもそんなこと言っちゃうと、そのお相手は仙人ちゃんになると思うなぁ。
どっちがいいんだろう? 僕はどっちも嫌だなぁ。




