思わぬ少数派
放課後になり、私と蛍奈は運悪く掃除当番だった藍沙を空き教室で待っていた。
蛍奈は本を読んでいる。確か題名は……
「『常敗ピンチヒッター』」
「急にどうしたの? やっぱり気になったかしら? 一巻なら今貸せるわよ?」
「いいえ結構、間に合ってるから」
待っても後ものの数分、その間に読みきれる訳ないし、なにより…
「小説嫌いなのね?」
「……アンタには関係ないでしょ」
どうも字の並びを見ていると眠気がくるんだ。
でも、頑張って数冊は読んでいる。
「いざ会話になった時に好きな本の話で盛り上がりたいから」
「な!?」
今、私口に出してた?
「あら図星? 冗談で言ってみたんだけど」
「くっ……」
「その好きな本を語り合い人って誰なのかしらね」
「……アンタには関係ないでしょ」
不覚だ。冗談に騙されて狼狽えるとは。
というかそれ以前に、ちょっと題名を言っただけであそこまで進めてくる蛍奈が珍しかった。そんなに面白いのか、『常敗ピンチヒッター』
「おまたせ〜」
藍沙が現れた、掃除は終わったみたいだ。
「じゃあ早速行きましょうか」
蛍奈が本を閉じて顔を上げる。
「はーちゃん何読んでたの?」
その本が気になった藍沙が訪ねた。
「『常敗ピンチヒッター』よ」
蛍奈が題名を言う、けど藍沙がそれを知る訳が…
「あ〜、アレ面白いよね〜」
……え?
「藍沙、知ってるの?」
「うん、読んでるよ」
知らなかった……藍沙も読んでるなんて、『常敗ピンチヒッター』
「何巻読んでるの?」
「十二巻よ」
「あ〜、あの先生のライバルが現れた時だね」
藍沙と蛍奈が本の内容で盛り上がってる……本当に読んでるのね、藍沙……
「興味が湧いたかしら?」
蛍奈と藍沙がこちらを見た。
「せっちゃん読んでないの? 面白いよ〜」
「今一巻なら持ってるわよ?」
「……け、結構よ」
ここでは私が少数だけど、きっと読んだ事の無い人の方が多い筈よきっと、うん、きっとね。
「そんな事より、発明使うんでしょ」
「あ、そうだったね」
「えぇ、昼休みに真崎さんから貰ったエネルギーを、コレに使うの」
蛍奈は鞄の中から発明を取り出した。それは、
「懐中電灯?」
懐中電灯だった。特にへんてつは無く、唯一後ろ側に妙な穴が空いている事ぐらいだ。
「あの人になれたライト。どんな物かは言わなくても分かると思うけど……」
蛍奈は二つに折られた紙を持って私を見た。
そういえば、箸の時はやってなかった。あの時はコレがあるからわざと自分から語ったのね。
つか、今回使うの私じゃないからわざわざ言う必要ないんだけど。
「別にいらないわよ、さっさと依頼人の所に行きましょ」
「つれないわね、正直言ってワタシはあの為に発明を造ってるようなものなのよ?」
おいおいぶっちゃけ過ぎだろう。
「それに……この発明が本当の本当に害が無い、とはワタシは言ってないわ」
蛍奈はニヤリと笑った。
まさか本当になにかある? ……はぁ、仕方ないわね。下手に事件は起こしたくはないから。
私は手を伸ばし、
「……取説はあるかしら?」
「ふふふ、利口な選択ね」
手の上に説明書が置かれた。
開いて読むと……
あの人になれたライト
この光を浴びると、エネルギーの元となった人のようになる。
それだけだった。
妙に短い文面だが、今回のは下に更にスペースが無いので続きは無いだろう。
「はーちゃんどうしたの?」
藍沙の声に顔を上げると、
「ふふふ……取説が、取説を読んで……ふふふ」
蛍奈が悦に入っていた。
私が説明書を読んだくらいでこれなら、他の事をしたらどうなってしまうんだ……考えたら怖いから止めておく。
「さっさと行くわよ」
説明書を藍沙に渡し、一足先に教室を出た。




