転がる箸
昼休み、普段私は友達や藍沙と共に昼食を取る。
内容は弁当だったり、購買だったりとバラバラだが、基本的には誰かと食べている。
そして今日、
「藍沙、お昼……藍沙?」
藍沙を探したが、教室内に見た当たらなかった。
購買にでも行ったのかな? と思っていると、
「取説、良いかしら」
蛍奈が音もなくと現れた。
「何か?」
怪訝な視線を向けて返す。
「お昼一緒しない?」
蛍奈がお昼を誘うとは珍しい……でも、
「とか言って、発明品の妙なもん食べさせようとか考えてんじゃないの?」
蛍奈なら普通にやりそうだ。
「考えてないわ……でも、そこまで期待されてるならいつか試そうかしら」
しまった。余計な知識を与えてしまった。
「それに、多分取説の探し人もいるわよ」
探し人?
「探し人ってどういう事よ」
「来れば分かるわ」
「……」
予想はついた。なので私は、蛍奈についていく事にした。
一階の空き教室に蛍奈の後に続いて入ると、珍しく先客がいた。普段は私か蛍奈、あるいは依頼をしに来た人以外居ない場所に。
しかもその生徒は、
「藍沙」
「あ、せっちゃん。はーちゃんも、待ちくたびれたよ〜」
「待ちくたびれたよ〜、じゃなくて、どうしてここに?」
「ほぇ? はーちゃんがお昼いっしょに食べよ〜って言うから。後からせっちゃんも連れて来るって」
私が来るのは決定事項だった訳か。
「何が目的なの?」
蛍奈に訪ねる。
「他意はあるわ」
あるんかい。
「でも第一目的は、一緒にお昼する事よ」
蛍奈は定位置に座り、持っていた巾着袋の紐を解き始めた。
「せっちゃんも食べよ〜、そう思ってい〜っぱい買って来たからさ」
藍沙は机の上に置いてあった購買の袋からパンを沢山取り出した。
「あ、ありがとう、藍沙」
本当に昼食目的、だけではないのは分かってるけど、とりあえず今は昼食をとる事に。
「はーちゃんっていつもお弁当なの?」
椅子に、蛍奈を正面、藍沙を右に見える席に座ると、藍沙は包みを解いた蛍奈の弁当箱を見て聞いた。
「そうでもないわ、でも作れる時は作るわね」
蛍奈が箱を開ける。
白いご飯、玉子焼き、唐揚げ等、和食で纏まっている。見た目がどちらかと言えば和風な蛍奈っぽかった。
「はい、せっちゃん」
藍沙に焼きそばパンを渡される。
「ありがとう、ずいぶん買ったわね」
「まぁね〜」
袋から漏れているパン、コロッケパン、あんぱん、クリームパン等。
「後で払うからね」
「は〜い」
その後しばらく、私達は会話を交えながらの昼食をとった。
「それで、本題なんだけど」
食後のお茶を飲んだ蛍奈が急に切り出した。
ついに来たか。
「今回の依頼、取説の助言を元に発明を作ったのだけど、それに真崎さんの協力が必要なの」
「わたしの?」
メロンパンを食べていた藍沙が首を傾げた。
「藍沙になにする気?」
「取説が言ったんじゃない、元気な人からエネルギーを貰えって」
確かにそんなことを言った覚えがある。
「ワタシが今日一日見て、一番元気だったのは真崎さんだったのよ」
「えへへ〜何だか照れるな〜」
「藍沙、多分これ褒められてないから」
「ワタシは褒め言葉のつもりよ?」
どうだか。
「だからって藍沙からどうやっとエネルギーを貰うっての? 変なことするようなら連れて帰るからね」
「大したことじゃないわ、真崎さんには、ただ笑ってもらいたいの」
「……は?」
藍沙に笑ってもらう?
「ただそれだけよ、真崎さん、協力してくれるかしら?」
「んぐ?」
藍沙はメロンパン最後の一口を口に入れたばかりだった。
「飲み込んでからでいいわ」
「んぐ」
少しして、飲み込んだ後、
「うん、わたしはおっけ〜だよ」
首を縦に振った。
「じゃあ取説、異論があるなら聞くわ」
「……」
ただ笑うだけなら、別に害は無い……はずだ。けど、
「まさか、ワライダケとか変なキノコは出て来ないでしょうね?」
「心配性ね、もうお弁当は食べ終わったのよ? それにワライダケなんてワタシ知らないわ。ただある方法で笑ってもらう、たったそれだけのことよ」
「ある方法って?」
一番の問題はそこだ。方法によっては止めないと……
「箸が転がってもおかしい年頃、って言葉は知ってるかしら?」
箸が転がってもおかしい年頃?
「些細なことでも笑ってしまう、具体的に言えばワタシ達のような思春期の女性をさす言葉よ……そして」
蛍奈は鞄の中からある物を取り出した。
それは、
「……箸?」
箸だった。飾り絵が多く、子供物のような箸が、一本。一膳ではなく一本が、蛍奈の手に握られていた。
「箸が転がっても笑エネルギー吸収装置。そんな名前よ」
「またダジャレ……しかも言葉少し変わってるじゃない」
「この、箸が転がっても笑エネルギー吸収装置は箸が転がっても笑エネルギーという箸が転がってもおかしい年頃の人にこの箸が転がっても笑エネルギー吸収装置を使って箸が転がっておかしいと思った時に出る箸が転がっても笑エネルギーを貯める……」
「長いわよ! 一々箸が転がってって言わなくてもいいわよ!」
「つまりはこの装置を転がして出た笑い声を貯める。ということよ」
絶対言葉が3分の1ぐらいになったわ。
「言ってしまえば、この箸が転がってるところを見て笑い声を聞かせればいいのよ。何なら取説も協力してくれない?」
「笑えたらね」
年齢的にはドンピシャなんだろうけど、箸が転がったぐらいで笑えるとはとうてい思えなかった。
「じゃあ、行くわよ」
蛍奈の手から箸が放たれる。
机の上に落ち、コロコロと転がって……
「……」
「……」
その状況を蛍奈と私は笑いもせずに見ている。
一方、藍沙は、
「あはははは〜」
笑っていた。
「こんなことで笑えるなんて……」
「え〜? だって面白いよコレ、あはははは」
転がる箸を指さして藍沙は笑い続ける。
「……ごめん、私にはちょっと理解出来ないわ」
「それは取説が思春期の乙女じゃないからね」
「アンタに言われたくないわ、てかそれ言ってて恥ずかしくない?」
「淡々と言えばどうってことないわ」
ようは恥ずかしいのね。
「とりあえず、満タンまで貯めてみるわ」
止まった箸を取り、蛍奈は再び机の上を転がした。
「あはははは〜」
最初と変わらずに藍沙は笑った。
とりあえず、害は無さそうだから良しとしとくか。
「満タンね」
蛍奈が箸を取った。最初に見た時と比べると、なにやら水色に光っている気がする。アレが箸が転がって……なんだっけ? まぁいいや。特殊なエネルギーね。
「ありがとう真崎さん」
「どういたしまして〜」
「さっそく使わせてもらうわ、良かったら放課後、見に来ない?」
「いいの?」
「真崎さんのおかげだもの」
「じゃあ行こっかな、せっちゃんもいっしょに行こうよ」
「……えぇ、一緒に行くわ」
何が起こるか予想ついたものじゃないからね。
ついに動き出した蛍奈の発明、このエネルギーは吉と出るか、凶と出るか……




