5人目登場
出海との勝負を受ける為に、蛍奈は発明を造り。
私達は、必要となった5人目を探すことになった……の、だけれど。
「ダメだ、知り合い当たってみたけど皆すでに犠牲者だったぜ」
「こっちもよ」
二手に分かれて探していた私と佳子は部屋の前で落ち合った。
運動部を制覇したという出海に挑むと聞いた途端、誘った全員が首を横へ振り。結果どちらも全滅。
「こうなると、勝ち負け以前に勝負が出来ないわよ」
偏見かもしれないけど、良く食べると言えば運動系の部活。教室内での行動が多い文化系部の生徒では戦力にはならないだろう。そう思ってそちらには声をかけていない。
「真崎と水野葉に期待するしかねぇな」
「そうね。藍沙に期待するしかないわ」
「え? 水野葉は?」
アイツに期待なんてするわけがない。そもそも私達4人の中で一番小食っぽいのに。
「情報委員の力、知らないとは言わせないわよ」
「あー、だよな」
この学校には、情報委員という学校非公認の委員会が存在している。
主な活動は名前の通り情報の収集、および提供。その情報量、信憑性の高さから活用する生徒はとても多い。……中には、とても個人的な情報もあるという。
今回はそこを利用し、この学校の大食いに向いた生徒の情報を探してもらっている。
「お~い」
そこへ、藍沙が戻ってきた。
「どうだった?」
「すっごい情報もらってきたよ!」
「なんだ? まさかこの学校にどっかの大会の大食いチャンプがいるとかか?」
「ちょっと違うんだけど。でも似た感じの情報だよ」
「じゃあそれを聞かせて」
扉を開け、同好会の部屋へと入った。
「あら、5人目は見つかったのかしら?」
「そっちこそ、もう出来上がったとか言うの?」
「えぇ、ちょうど今さっきね」
蛍奈は床に置いてあった小さめのバックを机の上に置いた。硬い音を立てて置かれたそれに、発明が入っているらしい。
「? なんで見せてくれねぇんだ?」
「使う時のお楽しみ、というやつよ」
「どうせろくな物じゃないから見なくてもいいけどね」
「つれないわね。これが無ければ出海さんに勝てる確率なんてゼロなのよ?」
「一応聞くけど、その発明を使うのは、ダレ?」
私か佳子、あるいは藍沙の誰かだ。蛍奈が自分で作った発明を、自分で使っているところなんて見たことが無い。
「ワタシよ」
……え?
「意外、という顔ね。確かに今までワタシは自分の発明を自分では使ってこなかったわ。けどこれは、そうもいかないみたいでね」
「……」
まぁ、そう言うなら、別に言うことは無いけど。
「それで? 5人目は見つかったのかしら?」
「それはな、真崎がすっごい情報をもらったんだってよ」
「そうなんだよはーちゃん! 聞いて聞いて!」
「えぇ、座って落ち着いて話しましょう」
私達はいつもの並びで席についた。
「それで藍沙、その情報っていうのは?」
「うん、あのね。この学校の大食い生徒ランキングっていうのがあるんだけど」
そんなのまであるのか。どうやって調べたんだ情報委員。
「なんとね、出水さん。第二位なんだって」
運動部を制覇した出海が、第二位?
「えっと……だからなんなんだ?」
「この学校に、出海さんより上、一位がいるということね」
「だからその人を5人目にすれば、出海さんに勝てるってことだよね!」
「なるほど、確かに発明だけでなく、こちらの基本戦力でも上回れれば勝利は確実ね」
「でしょ!」
「それで?」
「え?」
蛍奈の訊き返しに、藍沙は首を傾げた。
まさか、藍沙……
「その一位という人は、どの学年のダレかしら?」
「あ……え、えーっと……」
やっぱりか……
「藍沙、そこを聞いてこなかったなら、正直に言って?」
「ごめんなさい!」
即答だった。
「おいおい、全校生徒から探せってのか?」
「そうでもないわね」
蛍奈は顎に手を当て、思案するように言葉を続ける。
「出海さんは運動部を制覇したと言っていた。なら、その時に休んでいたという理由以外ではその人のいる部活が負けるわけないわ。そうすれば必然的に…」
「一位は文化部にいるってことか」
「えぇ、可能性は高いわ」
高い、か。確かにそうだ。
ただし、高いだけだ。私は正直、それが当たりとは思えなかった。
「あら取説、何か言いたげな顔ね」
「別に、早くその一位の人を探して予定を聞いてほうがいいんじゃない? 出海との勝負の日に合わなかったら元も子もないわよ?」
その時、
「おーす、ここ発明同好会であってるか?」
今話に出ていた出海が、扉を開けて顔を見せた。
「そうだけど。誰かに用事かしら?」
「おぉ、勝負の事なんだけどな。明日の土曜日でどうだ?」
「あ、明日ぁ!?」
「な、なんだよ井沢、そこまで驚くことなくね?」
佳子の驚きも分かる。今から大食い一位の生徒を探そうとしていたのに、そんなタイムリミットで見つかるわけがない。
「いやでもさすがに早すぎんだろ!」
「それは分かってるけどな、あまり先伸ばしにするのも悪いだろ? どうだ水野葉」
「そうね」
急すぎる提案に対し、蛍奈はもちろん断…
「いいわ。明日ね」
らなかった。
その場にいた蛍奈と出海以外が驚きの表情を蛍奈へと向ける。
室内ほぼ全員の視線を受けても特に何も変わり無く。蛍奈はゆっくりと藍沙へ視線を向けた。
「ごめんなさい真崎さん。せっかく聞いてきてくれた情報だけど、その時間では探せないわ。無駄足を取らせてしまったわね」
「う、ううん、大丈夫だよ」
「ちょっと待てよ水野葉。ならこっちの五人目はどうする気だ?」
そう、こちらは大食い一位を迎えるため、まだ五人目が決まっていない。このままでは明日勝負すら始められない。
「ひょっとしてもう、当てがあるのか?」
「いいえ。全くよ……そうね、そこで見てる生徒とかどう?」
そこで見てる生徒て……
私達が部屋の入口に目を向けると。そこにいたのは、
「あ、ああの、すみません。話し声が聞こえたので、つい」
「鏡香ちゃん?」
「あら取説、知り合い?」
おずおずと鏡香ちゃんが部屋の中へ入ってくる。偶然通りかかったのだろうか?
「こ、こんにちはです、竹鳥センパイ」
「知り合いだというなら話が早いわ。アナタ、名前は?」
「え、えと、桐沢鏡香といいます。い、一年生です」
「では、桐沢さん。今の話を聞いてたわよね? もし予定が合うのなら、お願いしたいのだけれど」
「ちょっと待ちなさい。鏡香ちゃんを巻き込むのは許さないわよ」
仲の良い後輩を、こんなことに巻き込めない。そして悪いけれど、鏡香ちゃんを見る限り食は細いと思う。
「私が他の人連れてくるから、鏡香ちゃんは…」
「せ、センパイ!」
初めて聞いた気がする鏡香ちゃんの大声に顔を向けると、
「あ、あの、わたし、わたしに、お手伝いさせてください!」
「え……で、でも」
「だ、だいじょうぶです、わたしこう見えて良く食べる方なので」
「……」
明らかに、強がってるのが分かる。でも……
「……そこまで言うのなら、分かったわ。鏡香ちゃん、私からも、いえ、私からお願いする。手伝ってくれる?」
「はい!」
こうして、出海と対戦する5人が揃った。