当たる理由
「と、トランプ?」
佳子が取り出したのは、封の切られていないトランプの箱、つまりは新品のトランプだった。
「なによ、ババ抜きで決着つけようっての?」
それなら互いに公平ではあるけど、意外だった。まさか佳子が頭脳戦を挑んでくるとは。
なるほど、頭脳で私に勝てば、それは喜べるでしょうね。
「違うぜ」
佳子はトランプの封を切った。
「マジックで勝負だ」
ま、マジック?
「ルールは簡単、この新品当然のトランプで今からアタシがマジックをする。そのタネを見破れたら竹鳥の勝ち、見破れなかったらアタシの勝ちだ」
「……」
なんていう勝負方法よ……発案者、というか悪知恵を吹き込んだ張本人の蛍奈を睨むように見る。
「ふふふ」
にやにや笑ってるだけで何も言わない。
佳子にいったいなに吹き込んだのよ。
「さぁ始めるぜ」
佳子はトランプからジョーカーを抜いた52枚を切っていく。
そうだ、よく考えればまず佳子がマジックを出来るという根拠が無い。
けどそれで挑んでくる自信、そしてあの狂った化学者が関わっている。
何かあるに決まっている。まずはそれを見極めることだ。
「さぁ一枚引いてくれ」
扇状に開かれたトランプをこちらに向ける。よく見るトランプマジックの形だ。言われた通り一枚、真ん中の方から引く。
「カードを確認して、また閉まってくれ」
佳子が首だけ後ろを向いてからカードを確認。ダイヤの7だ。
カードを束に戻す。
「いいわよ」
佳子の首が戻ってトランプを切り始めた。これでは普通どこに行ったか私にも分からない。
「今から竹鳥の引いたカードを当てるぜ」
佳子は扇状に開いたトランプを見た。こちらからは裏側が見える。
これでもしもカンならば、確率は52分の1。かなり難しい。
しかし、
「竹鳥が引いたカードは……コレだ!」
佳子が引き抜いた一枚をこちらに向けた。
それは……ダイヤの7。
「……当たりよ」
佳子は見事に当てた。
「よっしゃ!」
佳子は握りこぶしで喜びを表した。
「もう一回、いいかしら?」
私は指を一本立ててもう一度を訊ねる。
「いいぜ、元々三回やってからタネを聞けって言われてるからな」
言われてる……ね。
佳子は再び扇状にトランプを広げた。
私は一枚引いて確率。スペードの9だ。
今この時佳子は首だけ後ろに向け、トランプを持つ手はこちら側にある。つまり一枚一枚確認しているということは無い。というかそれをしてたらすぐ分かる。
「引いたカードは……コレだ!」
佳子がカードを提示、それはスペードの9。
「……当たり」
「よっし、2連勝!」
「後一回、あったわよね?」
「おぉ、次終わったら、タネを見破ってもらうぜ」
佳子がトランプを向けた。一枚引く、クラブのクイーンだ。
「いいわよ」
カードを戻すと、佳子はシャッフルしてトランプを見る。
「引いたカードは……」
空いてる左手をしばらくさ迷わせると、
「コレだ!」
一枚を引き抜いて机の上に置いた。
そのカードは……クラブのクイーン。
「どうだ? 当たってるか?」
「……えぇ、当たりよ」
「いよっしゃ! 3連勝したぜ!」
ガッツポーズで喜ぶ佳子、びしっと私を指差し。
「さぁ竹鳥、このマジックのタネ、見破れるか?」
そう、本当の勝負はそこだ。マジックで当てるのはただの見せ、タネを見破れるかどうかが本当の勝負だ。
「……」
藍沙に顔を向ける。
「せ、せっちゃん……」
心配そうにこちらを見てくれている。
「……」
蛍奈を見る。
「さぁ取説、タネを見破ってみなさい」
妖しく笑っていた。
「……」
正面の佳子を見る。
「さぁどうだ!」
再度訊ねられる。
「……そうね」
ここで私が取った選択は、
「見破れたわけじゃないけど、私が同じマジックを三回当てられたら見破れたって事でどうかしら?」
同じことの再現だった。
「!?」
その言葉に目を丸くする佳子。
「という訳で、そのトランプ貸してくれる?」
すっと手を伸ばす。
「お……おっけー、だぜ」
トランプを箱ごと渡された。
……なるほど、やっぱりコレがそうなのね。
私は佳子がしたようにジョーカーを抜いたトランプを扇状に広げた。
「一枚どうぞ」
私が首を向こうに向けている間に佳子はカードを一枚取って確認。
「いいぜ」
戻されてからトランプをシャッフル。絵を見た。
そこには、マジックを見破れるタネがあった。
「佳子が選んだのは……コレね?」
適当に一枚引いて机の上に置いた。カードはハートの5。
「う……あ、当たりだ」
マジックが成功した。
「せっちゃん凄い!」
藍沙も驚いていた。
「さぁ、後二回ね」
カードを戻してシャッフル。再び扇状で佳子の前へ。
「さぁどうぞ」
「う……」
佳子は一枚引いて確認。カードを戻すと私はシャッフル。絵を見て、
「コレかしら?」
一枚引いて佳子に見せた。カードはまたハートの、3。
「あ、当たりだ……」
二勝目、後一回だ。正直やり方がひどく思えてきたけど。タネを見破れと言ったのはあっちだ。
それに、わざと負けられなくなってしまったので、とことん負かすしかなかった。
「最後よ」
扇状のカードを出す。
佳子が引いたのを確認すると、私はシャッフルしてから絵を見た。
……やっぱり、こういう手だったのね。
違和感に気付いたのは、最初にカードを戻した時。その時すでに、私の身体は反応していた。人並み以上、病的なまでに反応してしまう身体がタネを見つけていた。
「……佳子が引いたカードは…」
ハートの1。よく三回連続ハートを引いたと思う。
そして私は、
「……コレら、でしょ?」
扇をそのまま全部机に置いた。
そこには、52枚のハートの1が描かれていた。
「うっ……」
「一応、タネを見破れたわ。私の勝ちね」
「ち……ちっくしょー!」
佳子は机の上に項垂れた。やはり、かなりショックだったみたいね。
「くそー! コレなら勝てると思ってたのに!」
「勝てるってね……佳子、コレはさすがにズルよ」
佳子が項垂れたことにより散らばったトランプを集める。
「だってよー……まさか再現するとか言うとは思わなくてよー」
「タネ分かってんだから、まずこのトランプに触らせちゃダメでしょ」
集めたトランプを絵が全部見えるように置いた。そこにはハートの1だけでなく、52種類全部の絵が揃っている。
「ねぇねぇ今のどうやったの!」
藍沙が机に寄ってきた。
「今のは、タネというか……イカサマというか……」
「というか?」
「というか……」
蛍奈の方を見る。
「分かってるでしょ?」
それはそうだ。
「……発明ね」
「発明?」
分からない藍沙は首を傾げた。
「藍沙、一枚引いて、どれでも好きなの」
「えーと……じゃあコレ!」
藍沙が引いたのはクラブの1。
「よく見て」
「じー」
声に出してよく見てくれた。
「じゃ、戻して」
「うん」
藍沙がクラブの1を戻す。その瞬間、52枚が全てクラブの1に変わった。
「えぇ!?」
「ま、こういうタネよ」
このトランプは、後から入れた一枚と全て同じ絵になる。コレなら相手がどれを選んだかなんて一瞬で分かる。いや、選択の余地も無い。
「で? コレはなんていう発明なのかしら?」
制作者に訊ねる。
「皆一緒じゃないトランプ。能力は取説が言ったのでだいたい当たりよ」
皆一緒、全部同じになるって事ね。
「そして、コレがその取り扱い説明書よ」
一枚の紙が差し出される。
「いらないわよ、能力は理解したんだから」
「つれないわね」
ただ読ませたいだけでしょうが。
……まぁとにかく、
「佳子」
まだ机で項垂れている佳子を見て、
「私の勝ちよ」
宣言した。




