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オモイノトリセツ  作者: 風紙文
第二章
10/18

笑う狂科学者

私達は3人は依頼人である野球部部長の元へ訪れた。

「やぁ、君達か」

天川先輩。野球部の部長にして、クールでカッコいい、と女子人気があるらしく、彦星様(名字が天川だから)と一部では呼ばれている。

まさかそんな人が、下級生と話す元気が欲しいとは少々以外だった。

「依頼の品をお持ちしたわ」

蛍奈はライトを先輩に見せた。

「おぉ、まさか本当に出来るとはね」

「容易い事よ、何故ならワタシはマッドサイエンティストだから」

言って蛍奈はニヤリと笑った。

「早速試してくれないかな?」

「えぇ、その為に持ってきたのだからね」

蛍奈はライトに不自然に空いている穴に、藍沙の笑い声から取ったエネルギーの入った箸を射し込んだ。

「動かないでね」

ライトを先輩に向け、スイッチを入れる。

瞬間、眩しいほどの光で先輩が照らされた。

「うっ」

正面にいた先輩は眩しさに目を瞑った。

「どうなるのかな?」

隣にいた藍沙が訊いてくる。

「さぁ、でも……マトモな事で済めばいいわね……」

正直箸の時点で不安だったが、さっきの蛍奈のニヤリ顔。アレでもう不安一杯になった。

エネルギーが切れたのか、ライトからの光が途絶えた。

「完了よ。コレで元気一杯エネルギー充填完了」

「……」

先輩が目を開ける。

その瞬間、

「おぉ〜! 何だか元気が溢れてくるようだ!」

まさに元気一杯と言った風に両手をぐるぐると回した。

「ありがとう! これでどうにかなる気がするよ!」

「どういたしまして、これからも御贔屓に」

「あぁ!」

手を振って先輩は走り去っていった。

「……」

外見に変わりは無かったが、明らかに光を浴びる前より今の方が声にも明るさを感じた。まるで藍沙のように。

成功……なのか?

「ふふふ、これでワタシの発明も捨てた物じゃないと分かってもらえるかしら?」

「……」

いや、でも今のはどこかがおかしい。どこか、と聞かれると答えられないが……

「ちょっと、天川先輩を見に行きましょ」

私が提案すると、

「いいわね、エネルギーが何時まで持つかの資料も欲しいし」

「部員の人と話せるか気になるしね」

2人は頷き、私達は先輩の後を追った。



先輩はグラウンドの奥、野球ベースの書かれた場所に居た。

私達はそこから少し離れた、何故か草むらの影にいた。

「いやなんでわざわざ隠れてるのよ」

これの提案者に訊くと、

「ワタシが言うのも何だけど、多分こうしていた方が安全よ」

安全て……

「やっぱりなにか裏があるのね」

「さぁ、断言は出来ないわ。でも、薄々取説も分かってるはずよ」

「……」

まぁ、それはそうだけど……

「あ、動いたよ!」

藍沙の声に視線をベースへと向ける。そこには体操着姿の生徒が数人集まっていた。多分、まだユニホームの無い一年生の新入部員だろう。

そこへ、天川先輩が走り寄った。

「お〜い!」

元気に手を振って。

それを見た新入部員達は、

「……え?」

「あれって……」

「ぶ、部長?」

明らかに困惑の表情をしていた。

先輩が部員達の前へ。

「さぁ! 今日も頑張って部活始めるぞ〜!」

「は、はい……」

「どうしたのみんな? 元気が無いぞ!」

「は、はい!」

「よぅし! 良い返事だ! さっそく始めるぞ!」

……多少の困惑はあるけど、一応部員達と会話出来てる。

ただし、

「お? どうしたんだ天川、妙に元気じゃないか」

そこにやって来た顧問の先生。

「いやぁ〜いろいろありまして〜」

先生に対してもその調子は変わらない。

「そ、そうか……」

先生すらも困惑させてしまった。

普段はクールと言われている天川先輩だ。この変化は異常だと思われても仕方ない。

その後も先輩は、続々と現れる部員達、にあの調子で話しかけ、困惑させていった。

「いったいどうしたんだろうね?」

「え、えぇ……不思議ね」

今の天川先輩は、元気だ。

ただし、よく言えば元気。悪く言えば、元気過ぎる。普段との差が有りすぎる程にだ。

「ふふふ、今出ていったらワタシ達もああなるわよ」

「そうね……」

「もう分かったわよね? あれの意味が」

「……」

そう、あのライトは普通に作動した。そして先輩をエネルギーを取った人のようにした。

そう、元気な藍沙のように。

普通がクールな先輩が、元気な藍沙のように振る舞ったところでおかしくなるのは当たり前だった。

「まぁ良いじゃない、元気になったんだから」

「まぁ……そうね」

そこまで困るものじゃないだろうし。むしろ野球部にプラスになるかもしれない訳だから。

それに、止め方が一切分からないし。

「さて……このライト、取説いる?」

「いらないわよ」

なぜ今のアレを見た私にそれを渡そうとする。

「今なら箸もセットよ」

「セットでもいりません」

というか箸が無いと使えないだろうに。

「つれないわね」

蛍奈はライトの光が出る部分を自身に向けた。

その瞬間、ライトが光が出た。

「あら?」

まだ少し余っていたんだろう。光は蛍奈を一瞬照らすとすぐに消えてしまった。

「……あはは」

「!?」

蛍奈がにっこりと笑った。

ライトのせいだとは分かっていたけど、その笑顔は、普段の蛍奈から想像出来ない、かわいいものだった。

「お〜、はーちゃんが笑ってる」

「……なるほど、元の意思に関係なく変えるのね」

「あ、戻ってる」

「微量だったからね。多分かかる時間も個人差があると思うわ」

「へぇ〜」

「という訳で……このセットを今なら税込価格200円で…」

「値段がついたら尚更いらないわよ」

というか安いな。いいのかその値段で。

「つれないわね。まぁいいわ、もう資料も取った事だし、巻き込まれる前に帰りましょ」

「は〜い、行こ、せっちゃん」

「えぇ」

蛍奈を先頭に、私達はその場を後にした。



他人にはなれない。

かといって無理やり他人を真似したところで、良い成果を生むとは限らないらしい。





……しかし、


蛍奈も、あんな風に笑えるのね。


第二章、完結です。ここまでの感想及びご指摘、お待ちしています。

どんなに他人になろうとしても、他人は他人。自分は自分。他人になりきることは不可能ですよね。


天川先輩、真崎という性。どこかで見覚えがあるかもしれませんね。


それでは、

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