3話 盛れてない社交会
「リリアナ。今夜の社交会には必ず出席しなさい」
朝食の席。
お父様――アルヴェイン公爵は、紅茶を置きながら静かに告げた。
「えぇ〜……」
しまった、と思った時には遅かった。
向かいに座るお父様の眉がぴくりと動く。
「……今、“えぇ〜”と言ったか?」
「い、いいえお父様♡」
にこっ。
反射的に笑顔を作る。
隣に立つ執事長が、すっと目を細めた。
怖い。
絶対なんか思ってる。
最近ずっとこんな感じだ。
たぶん、“娘が急に変になった”と思われてる。
でも仕方ない。
だって中身、平成ギャルだし。
「王都でも有名な夜会だ。各家の令嬢も多く参加する」
「はぁい……」
「粗相のないように」
「りょ――」
危ない。
「了解いたしましたわ」
ギリセーフ。
執事長の視線がさらに鋭くなった気がした。
⸻
その日の夕方。
私は大量の侍女たちに囲まれていた。
「リリアナ様、こちらのドレスはいかがでしょう!」
「髪は編み込みを中心に――」
「宝石はこちらを!」
「香油も準備しております!」
次々と準備が進んでいく。
さすが公爵令嬢。
扱いが完全に着せ替え人形である。
数十分後。
鏡の前に座った私は、完成した姿を見て思った。
……いや。
普通に。
めちゃくちゃ可愛い。
白銀の髪。
整いすぎた顔。
透き通る肌。
ドレスも高そう。
たぶんこの世界でもトップクラス。
でも。
「……盛れてない」
「「「……はい?」」」
侍女たちが固まった。
「なんか足りないんだって!」
「た、足りない……ですか?」
私は机の引き出しをごそごそ漁る。
そして。
「あった」
取り出したのは、前回試作した“つけま”。
侍女たちがざわつく。
「そ、それは……?」
「盛れる神アイテム」
「か、神……!?」
「いや気分的な?」
とりあえず鏡へ向き直る。
慎重につけまを装着。
右。
左。
角度調整。
よし。
私はゆっくり顔を上げた。
沈黙。
侍女たちの目が見開かれる。
「リリアナ様……」
「目力が……増している……!?」
「強い……!」
「吸い込まれそうです……!」
ふっ。
勝った。
「これが平成の力よ」
「へいせい……?」
⸻
夜。
王都の社交会。
巨大なシャンデリア。
豪華な音楽。
着飾った貴族たち。
私は内心めちゃくちゃ帰りたかった。
でも、公爵令嬢として参加しないわけにはいかない。
「アルヴェイン公爵家、ご令嬢リリアナ様、ご到着です」
扉が開く。
視線が集まる。
そして。
「……っ」
空気が止まった。
え、なに。
怖い。
やっぱ盛りすぎた?
男性貴族たちがざわつく。
「なんだ……あの目は」
「まるで魔法のような……」
「吸い込まれそうだ……」
一方。
令嬢たちの視線は完全に別方向だった。
「まつ毛……?」
「どうなっていますの……?」
「何か付いている……?」
その時。
一人の令嬢が、おそるおそる近づいてきた。
「リリアナ様……」
「ん?」
「その……目の上に虫が……」
「えっ!? 虫!?」
私は慌てて目元を押さえた。
「やだやだやだ! どこ!?」
焦って鏡を見る。
その拍子に。
ぽろっ。
黒い毛束が落ちた。
数秒の沈黙。
「あ」
私はそれを拾い上げる。
「……つけまじゃん」
「つ、つけま……?」
「これ?」
私は令嬢たちへ見せる。
「盛れる神アイテム」
「神……!」
「だから気分的にだって」
周囲の令嬢たちがじりじり近づいてくる。
興味津々だ。
私は近くの令嬢へ手を伸ばした。
「ちょ、目閉じて」
「は、はいっ」
「動かないでよ? ズレるから」
丁寧につけまを貼る。
そして。
「はい完成」
「え……?」
令嬢が鏡を見る。
次の瞬間。
「……っ!!」
ぱっと表情が変わった。
「め、目が……!」
「でしょ?」
私はにやっと笑う。
「かわいくなった」
その瞬間だった。
「わ、私にも!」
「その“つけま”を!」
「どこで売っていますの!?」
令嬢たちが一斉に押し寄せてくる。
ちょ、近い近い近い。
遠くで執事長が頭を抱えていた。
お父様はワイングラスを片手に、静かに呟く。
「……リリアナは、一体どこへ向かっているんだ」
(やば)
(バズった)
後書き
第3話でした!
ついに異世界へ“つけま”が上陸しました。
そして社交界が盛れました。
たぶん歴史書には残りません。
ちなみに作者はつけまの知識ほぼありません。
「盛れるらしい」という平成のイメージだけで書いてます。
なので細かい部分は、
「異世界だからちょっと違うんだな」
と思ってください。
あと今回から、
執事長がちょっと苦労人ポジになってきました。
作者的にかなり好きです。
次回は、
「つけま」が王都で変な流行り方をするかもしれません。
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それではまた次回!




