プロローグ ──マジ無理なんですけど!
「りなー! プリ撮るなら早くー!」
「待って待って! 今カラコンズレた!」
放課後の渋谷。
ネオン、雑踏、笑い声。
星宮りな、十八歳。
どこにでもいる――いや、本人曰く“そこそこ盛れてる”平成ギャルである。
「今日さ、マジだるかったんだけど」
「わかる〜。センコー説教長すぎ」
「しかも雨で前髪終わったし」
友達と笑いながら歩く帰り道。
いつも通りの、何も変わらない一日。
……のはずだった。
「――え?」
視界の端。
赤信号を無視して突っ込んでくる大型トラック。
クラクション。
悲鳴。
一瞬だけ、世界がスローモーションになる。
「ちょっ――」
誰かにぶつかられた。
身体が浮く。
アスファルトが近づく。
その瞬間、りなが最後に思ったのは――
(スマホ割れるの、マジ無理……)
だった。
◇◇◇
――ふわり。
柔らかな感触。
「……ん」
りなはゆっくり目を開けた。
天井が、白い。
「……病院?」
いや、違う。
シャンデリア。
やたら広い部屋。
意味わからんくらい豪華な家具。
「……は?」
身体を起こす。
さらり、と長い金髪が肩から流れ落ちた。
「…………は???」
慌てて鏡を見る。
そこに映っていたのは――
透き通るような白い肌。
宝石みたいな青い瞳。
ふわふわの金髪縦ロール。
どう見ても、外国のお姫様みたいな美少女だった。
「え、誰!?!?」
叫んだ瞬間。
バン! と勢いよく扉が開く。
「お嬢様!!」
メイド服の女性が飛び込んできた。
「よ、良かった……! 三日も目を覚まされなかったので……!」
「……三日?」
「はい、階段から落ちられてからずっと……」
りなの脳が停止する。
階段?
お嬢様?
縦ロール?
情報量が多すぎる。
「……いや待って」
りなは震える声で言った。
「ここどこ?」
メイドが固まった。
「どこ、とは……アルヴェイン公爵家ですが……」
「……こうしゃく?」
「お嬢様……?」
りなはもう一度鏡を見る。
完璧美少女。
豪華な部屋。
知らない世界。
そして。
脳内に、知らない記憶が流れ込んできた。
レティシア・アルヴェイン。
公爵令嬢。
社交界では“氷の令嬢”と恐れられる存在。
婚約者あり。
性格最悪。
友達ゼロ。
「…………」
数秒の沈黙。
そして、りなは心の底からこう思った。
「マジ無理なんですけど!!!」




