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42.魔王誕生

 瞬間、二人の掌に幾何学的な文様が光で浮かび上がり、やがて消えた。


「なるほど、勇者と魔王の仕組みを問題視する人間が現れた、と。


 今回はまた、随分と進化が進んだものだ」


「おかげで無用な戦いが起こりそうな気配がある。この戦いを停止する為の方法を問いたい」


「アキラ?」


 臆することも怪訝に思うこともなく男と会話を交わすアキラに、カイは声を上げた。


「カイ、すまない。俺は全部知っていたんだ」


 泣きそうな顔で振り返ると、アキラは腕輪を示して見せた。


「この腕輪だけど、実は少しずつ俺に情報を送り込むような仕掛けになっているんだ」


「そう。もとより三八四号は全てを記憶したまま生まれてきたが、その情報は一定の条件が揃わない限り封印していた。それを少しずつ解除するシステムがその腕輪だ。つまり勇者の行動一つ一つがこの腕輪で魔王にフィードバックされて、その時に応じた記憶が蘇っていく仕組み。全ての舞台が整ったら、全部の記憶が開放されるシステムなんだ」


「どういう……ことなんだ」


「最後にここまで来た勇者はこのプロジェクトが始まって以来君一人。


 本来なら部外者に出す情報ではないが、今回の発展の崩壊を止めるためにはどうやら君の助けが必要らしい」


 男の言葉に、アキラは深く頷いた。


「カイがいなければ、この世界は救えない」


「アキラ……」


「カイ、説明するよ。この世界がどうなっているのか。

 そして勇者と魔王のシステムが、どうやって作られたのか」






 この世界ができる前。


 もう一つの世界があった。


 男の言葉を借りるのなら、この上層の世界、ということになる。


 今はその世界は存在しない。度重なる戦争と技術の発展による自然破壊ですでに生きる物のない世界と化しているという。


 男はその世界で、心理学と生態学を学ぶ学士だったという。


 ある日、自然崩壊で引き起こされた災害で、男は「世界のつなぎ目」であるこの空間を見つけ出す。


 それは幾筋もの「空間」がねじれあって出来た偶然の道で、それがこの世界だった。


 まだ単細胞生物しか存在しないその世界に、男は希望の光を見出した。


 この世界を発展させれば、もう一つの人が生きる世界が創造できるかもしれない。


 天地創造。


 それは男の世界でも盛大な御伽噺として語り継がれているものだったが、全ての望みを失っていた男は、その伝説の具現化に己の全ての人生をかけた。


 そして最初の「人類」が誕生したとき、すでに男は「人」ではなくなっていた。


 いや、細胞配列や生物としての組成は間違いなく人ではあったが、彼の肉体は何度も遺伝子培養で作り直され、幾千もの「彼」が「彼」の事業を引き継ぎ、プロジェクトを遂行していたのだ。


 脳核だけ本人のものを使用している固体があり、それを「彼ら」は「オリジナル」と呼んでプロジェクトリーダーとして扱ってきた。


 今三人の目の前にいるこの男が、今回のプロジェクトリーダーであるらしい。


 小さな文明を作り上げた男は、彼から見れば箱庭の世界を見下ろして愕然とした。


 その文明には何人かの「彼」を住まわせていたが、彼らの報告から考えるに、また「人」は愚かな道を歩き出そうとしているらしい。


 近隣の集落で小競り合いが始まったと聞き、男は彼らの行動を正そうと「神」を作り出した。


「神」からの託宣や予言により、人々は争いをやめ、和合し、静かな発展を始めた。


 しかし発展が進むにつれ、その「神」が争いの引き金を引く要因となり、もはや「素晴らしい存在」「上のもの」では統制がとれない段階まできてしまった。


『人は憎悪なくしては生きていくことはできないのか』


 争いのない世界を造りたい。


 世界を造る前から彼が掲げていた研究テーマは、やはり解決していない状態であり、その問題に彼はまた直面することになった。


「憎悪こそが、人を穏やかに押しとどめる要因なのか……」


 何代も代を重ね、人々を導き、あるいは見守ってきた彼は愕然とした。


 小さな実験を繰り返してみるに、人が強い団結力を見せるのは、集中して一固体を憎悪しているときのみ、という数値がはじき出されたのだ。


 そこで幾代めかの「彼」が決断したのは「全人類が憎悪する対象を作り出すこと」であった。


 その仮説は今までもなかったわけではない。


 しかし、あまりにも残酷。あまりにも痛烈な結論であり、彼が到底認めたくないものでもあった。


『それならば……』


「彼ら」は一様に頷き合った。


『それならばせめて、その固体は我らが勤めよう』


 彼の元の名前は「藤堂彬良」。ここに「魔王・アキラ」が誕生したのだった。


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