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39.偽りの魔王、そして悪夢3

「浅い・深いの差こそあれ、疑問を持って掘り下げたことがある者たちと言うことになります」


 アキラの問いにサフィは深く頷いた。


「我々が王国が捜し求める『魔王』を探していたのは、『魔王』は殲滅すべき存在では必ずしもない、という結論におよんだことと、実際の『魔王』に会うことでその秘密を解き明かそうと考えたからです。我々の真意はお分かりいただけたでしょうか」


「なるほど……」


 サフィの長い説明に混乱し始めながらもアキラは頭の中で色々なものが組みあがっていくのを感じていた。


 普段、人とこれほど長く話すこともなく、これほど深く物事を考えたこともないので本来頭が過剰労働でパンクしてもおかしくはないのだが、アキラ自身も驚くほど緻密で迅速な思考が頭の中を駆け巡っていた。


「あなたがたの考えは、クロノ教団と同じなのか」


「いいえ」


 カイの質問に、サフィはきっぱりと言い放った。


「奴らは単に『他人による抑圧』を極端に嫌う集団であるだけで、そこまで深く魔王と勇者について検討は行っていないと思われます。……どうでも良いとおもっている節さえありますね。奴らが私を助けたように色々な組織を助け、その生成に力を貸していることも事実ですが、それは単に目的が合致したときの戦力を得ようとしている行動だと思われます」


「あなたが俺に会って、何かわかったことはありますか?」


「ええ、充分に」


 アキラの問いに、サフィは満足げに頷いた。


「やはり魔王信仰は『村八分で団結』の意識にのっとった政策であるということを確信しました。アキラ、あなたは普通の人です。魔王などではない。単なる勢力の被害者だと私は考えます」


「被害者、ですか」


「しかし王があなたに目をつけた以上、今までと同じ生活を送ることは難しいでしょう。


 どうです、アキラ。マリナーラに入りませんか?」


「え?」


 思わぬ勧誘にアキラは目を丸くした。


「どこへ行こうと、王の目から逃れることはできません。ならば、あなたを標的にした思考を打ち砕き、名実共に自由になるのはどうでしょう。あくまで一つの提案ですが」


「アキラは魔王だ」


 言葉を遮られ、サフィはカイを見つめた。


「あなたが勇者であるということも、私は懐疑的ですが」


「私が勇者であることも、アキラが魔王であることと同義だ」


 火花が散るほどに二人は睨み付け合った。


「あのさ」


 その対決を遮ったのは、アキラの静かな一言だった。


「少し、一人で考える時間が欲しいんだけど」


「……それもそうですね」


 カイから目を離すと、サフィはシオンにそれぞれの部屋を用意するように命じた。


「ゆっくり休んで、考えをまとめるといい」


「あ、それから聞きたかったんだけど」


 片手を上げるアキラにサフィは言葉を促した。


「魔物によって老化した体を元に戻す……若返りの薬があるって聞いたんですが」


 サフィは初めて自愛に満ちた瞳をアキラに向けると、きっぱりと言い放った。


「あれはただの精力剤です。あなたの期待する効用はないと思いますよ」


「そうですか……」






 暗い色合いで統一された無機質な部屋が浮かび上がる。


 今度は壁のあちこちが小さく明滅する部屋で、やはりあの白衣の男が苦悶の表情を浮かべている。


 男の前には円筒形をした金属の塊が無数に転がっており、男は熱心に手元の光る机を見つめていた。


「まただ。どの固体も拾ってくる情報は全て同じだ。


 やはり私のたてた仮説どおり、人が生き延びるには●●が不可欠ということなのか……」


 ダン、と机を叩く男にアキラは胸が痛んだ。


(……なんで?)


 胸に湧き上がってくる苦悩。


 この夢の中で味わうのは、初めてだった。


 あまりに生々しく、懐かしい。


(懐かしい?)

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