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18.偽善者

「平和って、お前が食われて二十年村が守られて、またお前の子供とか孫と兄弟とかが、あいつに食われるってことか」


「それでも今の状態よりは平和だ!」


 ばっ、とミユの腕を力任せに振り解くと、アキラはミユを怒鳴りつけた。


「この……偽善者!」


 呆然と自分を見上げるミユに、アキラは言葉を続ける。


「俺を殺すか眠らせるかして自分たちの平和を守るだと、ふざけるな!」


「みんな死ぬよりはマシだ!」


「ああ、お前は納得しているからいいだろうけど俺は納得しないね!」


 怒鳴り返すミユにアキラは珍しく本気で怒っていた。


「お前が死んだら、みんなが生きてようが死んでようが、関係ないだろ!」


「えっ……」


 ガシッ、とミユの両肩を掴むと、アキラは彼女の目を見据えた。


「俺、難しいことも他人の村の事情もぜんっぜんわかんねえけど、少なくとも、俺が死ぬことには俺は納得はできないし、お前が食われるのも何か間違っていると思う」


「ま……、アキラ……?」


 どん、とミユの肩を押し、アキラは彼女をウロの中に投げ込んだ。


「俺がほんとうに魔王なら、あいつにとって大事な存在のはずだろ」


「アキラ!」


「あいつには、大人しくするように説得してみる」


「お前、その力ないんだろ!?」


「少なくとも、俺を求めて目を覚ましたのなら俺を殺すことはしないはずだ。そうだろ」


 肩に乗っていた黒猫をミユに押し付けると、アキラは小さな呪言を唱えた。


 木のウロのフチが波立ち、その入り口を狭めていく。


「あ、そうだ」


 小さくなるウロから顔を覗かせ、アキラはミユに片目を瞑って見せた。


「俺が魔物を見えることとか、このウロを閉じることができることはカイには黙っててくれよ。『魔王、殺す!』とかあいつ叫びだしかねないから」


「アキラ!」


 ミユの延ばした手の指先で、ウロは音もなく閉じた。


「さて」


 ウロを背に立ち、アキラは腰に手を当てた。


「俺、格好よかったよな~」


 いつもの癖で肩に目線をやり、そこに黒猫がいないことに気づき頬を掻く。


「とは言え、いったい何をどうすればいいのやら……」


 額に一筋の汗が流れる。


 啖呵を切ったのは良いものの、アキラには初めて出会った魔物を従わせる術などない。


 黒い塊たちは、すでに目視が容易であるところまで近づいてきている。


 ミユの姿をアキラが隠したことで目印を見失ったのか、少々戸惑い気味のようにも見える。


「つまり、ミユの体には何かしらあいつの目印になるものがあるってことだ」


 魔物が単なる人間一人を見分けられるわけも無い。ミユには言わなかったが、アキラには村の人間が意識的に、魔物が目覚めないと言われている期間にも彼女がデコイになるように何かの『目印』を持たせていたに違いないのだ。


 アキラはミユの村がどんなところなのか知らない。


 誰が、どんな状況下で、どんな生活をしているのか。またそこでミユがどういう存在なのか、知らない。


 街に住む自分の常識で彼女らの常識を測るのは間違いであるかもしれない。


「でもな」


 アキラは自分の腕を見下ろした。ミユの指の形が、今もしっかりと残っている。


 恐怖に青ざめた顔と震える体。


 決して彼女が自分の運命に唯々諾々と従っているわけではないことが、ミユの言葉以上に雄弁に語っていた。


「助けてって、言ってたじゃん」


 ぽりぽりと頬を掻くと、アキラは苦笑した。


「俺が人に助けを求められることなんて、人生の中であるもんだなぁ」

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