13.新たなる敵
『このブレスレッドをしている同士では戦うことはできないことになっています』
それなら安心だろうとアキラに言ったカイだが、本気で切りつけてきたカイにアキラの信用は底をついた。
全力でカイの家庭教師を拒んだアキラだが、両親・兄姉に力づくで追い出され、しまいには首筋に軽く手刀を入れられ、カイに引っ張られてこの郊外の山まで引きずられてきたわけである。
ちなみに最初の課題を「パンの配達」とされたのは、山にたどり着くまでにアキラが数回ギブアップをし、最後はカイが担いで頂上までくる羽目になったからだ。
「なあ、パン屋の配達なら街中でランニングとかでもいいじゃないか」
「馬鹿め。それは第一課題にすぎんのだ。最終目標は龍王を下すことだ。そんなダイエットメニューみたいな特訓してたら時間がいくらあっても足りないわ」
魔物を認めていない世界だが、龍は存在する。魔物というよりは動物の括りである。
最近、首都近くの山に眠っていた龍が目覚め悪さをする、ということで、首都では討伐隊を組んで討伐を検討しているらしい、という話をカイが聞いたのはアキラを『拉致』する寸前だった。かもめ亭の宿泊客からその話を聞いたカイは嬉々として顔を輝かせ、いい加減カイの行動パターンが読めてきたアキラはげっそりとした顔をした。
『よし。お前の最終試験はその龍を下すことにしよう』
『ちょっと待て。龍って動物じゃないか。なんでそれを下すことが魔王最終試験?』
『今でこそ龍は動物くくりだが、英雄譚では立派なラスボス。魔物。モンスターだ。
その王として讃えられる龍を下すものが、魔王でなくてなんだというのだ』
『龍にとってもいい迷惑だろうな……。ただ冬眠から目覚めただけだろうに』
すっかり盛り上がるカイにアキラは龍を己が身に龍を重ね合わせてため息をついた。
「討伐隊が出るのはあくまで噂、だぜ。しかも本当に繰り出されるならそんなに時間はないし……無理だろ」
「そのための無茶な特訓だ」
「……無茶だとは思っとったんかーい! っていててて……」
叫んだ途端に節々が痛み、アキラは声を上げた。
「馬鹿め。そんなナリで大声を出したら痛いに決まっているではないか。ほら、脱げ」
アキラを上半身裸に剥くと、カイはすりつぶした薬草を塗りつけ始めた。
鼻をつく刺激臭に顔をしかめるアキラ。
「……うわ、すごい匂い」
「匂いの分効く。文句を言うな」
「へいへい。いてっ! もう少し優しくやってくれよ~」
「魔王が情けない声を上げるな!」
べしっ、と掌でたたかれアキラは悲鳴を上げた。
そんな感じで、カイの一方的な「押しかけ家庭教師」が続いたある日、沢に水を汲みに行ったアキラは、不穏な気配に足を止めた。
「……?」
この山は殆ど垂直に切り立った岩山で、薬草があるとは言え滅多なことでは人はおろか獣も近づくことは殆どない。もちろん、魔物などもいない。
つまり生き物の気配をあまり感じない殺伐とした山なのだが、そこに何かの気配がある。
「……誰かいるのか?」
言うなり物陰から矢が射掛けられ、アキラは思わずかがみこんだ。
「魔王! 覚悟!」
「うわっ!」
キン!
乾いた音が響き、アキラの背に背負った『岩』に弾かれて矢はあさっての方向に飛んでいった。
「おのれ、魔王! 背中に岩が生えているとは……化け物め!」
「生えるか! 背負ってるんじゃ! わからんのかボケー!」
恐怖のあまり頭を抱えてかがみこんでいたアキラは、あまりの言い分に声を上げた。
そこに立っていたのは一人の少女だった。
黒く長い髪を三つ網にして肩から垂らし、民族衣装に身を包んでいる。はっきりした顔立ちで、丸い眼鏡をかけた様子はなかなか愛らしい。年齢はアキラとそう変わらないように見えたが、手にするものは恐ろしく物騒だ。
「モーニングスター?」
背中に弓矢を背負って持ち直した武器は、短く太目の杖の先に星のようなイガイガがたくさん付いている。殴られたらかなり痛そうだ。なぜか眼鏡を懐に納めると少女はうん、と頷いた。
「いかな岩の体と言えども、これで殴れば一発で」
「一発でなんだ。どうする気だ。っていうか、お前誰だ!」
「魔王に名乗る名前などないわ! 覚悟しろ、天誅!」
「うわー!」
「何をやっとるか!」
林の奥から薪を背負って現れたカイはモーニングスターを掲げて飛び掛ろうとした少女の腕を掴んで片手で引き止めると、武器を取り上げて少女を放り投げた。
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