95話 ツバキ、キレる
尋問タイムはキリエが就寝した事で、一時中断された。
「これさー。前みたいに鬼殺じゃ治らないの?」
「絶対無理だろうね。むしろ悪化すると思うよ。」
あぁ、寝てるだけって嫌だなぁ…。動こうとは思わないけど。
「そういえばさ、ツバキ強くねぇ?一対一でも勝てない気がするんだけど…」
「まぁ伊達に黒帝龍じゃ無いからね。殴り合いなら負ける気は無いよ。」
「ツバキって、結局インファイト型だったんだね。私より脳筋じゃ無い?」
「擦っただけで致命傷な攻撃の人に言われたくないねぇ。それに、僕はゴリ押さないから。その称号はキミの物だよ。」
ううむ。嬉しくねぇ。
「で?さっきからずっと複雑な表情浮かべてる雫はどうしたの?」
「蕾ちゃんは既に、2人も殺したわけでしょ?」
頷くことで同意する。
「怖く……無かったの?」
みんなそう聞いてくるなぁ…。この話をするのは何度目だろうか。
「さっきも言ったけど、私は不完全に蘇った。その時に、罪悪感とか、そういった類いの物を一切失ってる。恐怖は微妙な感じだ。殺すのは怖くないのに、自分が誰だか分らなくなるのは怖かった。よく分かんない感じだね」
「そんな……。それじゃ、最初から壊れてるような物じゃん…!」
「その通り。だからこの先も、殺害は私の仕事だ。まだ私に協力してくれる気があるなら、みんなには教会の洗脳装置の破壊を頼みたい」
「まだ…誰かを殺す気なの?」
「この計画に関わった主要人物。詳しく言えばラネシエルとリスティの王と勇者だ。勇気あるわけでも無いのに勇者を名乗って、魔物を道具にしか思っていない外道。そしてそれを指揮する外道は私が殺す」
俯く雫。
「正直、私にはついてこない方が幸せになれるよ。これからも色々あるだろうからね」
「そうは言っても、僕とキリエは一緒に行くよ。僕だって目的は同じだし、キリエも言うまでも無いだろうしね。雫はどうする?」
「私も行く…。また蕾ちゃんが暴走したら…今度は私も一緒に助ける」
言われるこっち側はだいぶ恥ずかしいと言う事をこの子達は理解しているのだろうか。
それにしても、私のあの赤い力は何だったのだろうか。キリエ達と戦い初めて、戦闘を楽しみ始めたらどんどん弱くなっていって、最終的には消え去った。
私の殺意なんかとリンクしているのか?まぁそれも後々分っていくだろう。でも、あれはあまり発動して欲しくないなぁ…。今みたいに後遺症酷いし、自分が変わっていくようなあの感覚も嫌いだ。
まぁそうは言っても発動条件なんて分んないけど。気づいたときにはああなっていたからね。
「ほらほら。重い話はこの辺にして、ツバキの技について教えてよ。あの超格好いい奴、気になってたんだから」
「ん?『黒龍拳』かい?まぁ拳法みたいなもんさ。ってか拳法だけど。龍族はみな、ステータスに優れた龍の姿と、機動力に優れた人の姿を使い分けて戦うんだ。そして、僕達は部分的な龍化が出来る。だから、近接攻撃を当てるその一瞬だけ龍化する、と言う戦い方が出来る以上、拳法と好相性なのさ。」
「なんか色々技があったみたいだけど、どのくらいあるの?」
「結構あるよ?まず型がいくつかあってね。『壱ノ型』は一撃の破壊力を追求した技。『弐ノ型』は相手を怯ませたり、ダウンさせたりする技。『参ノ型』は連続攻撃。『肆ノ型』はカウンター技……まぁいっぱいあるんだよ。」
そんな大量の技を使い分けてるのか…。やっぱり私って脳筋なんだろうか。いや、慣れてないだけだ。そう信じよう。
そんな時、入り口の扉がノックされる。
「ツバキ、出て貰える?」
この中で一番まともそうなツバキに頼む。仕方ないなぁ、なんて言いながら立ち上がるツバキ。
客。誰だ?宿の人だろうか。他に思いつかないなぁ…。
急に入り口からツバキの声が上がる。
「どうしてここが分ったんだい?後をつけてきた者は誰もいなかったはずだけどねぇ。」
緊迫した声だった。まさに今戦闘が始まるぞ、といったような一触即発感がある声だった。
続いて聞こえてくる男の声。
「敵意は全くございません。ビジネスの話をしに来ました」
聞き覚えのある声。モーガイ商会や中央教会で聞いた声だった。
ちょっと待ってて貰えるかい?と言ってツバキが戻ってくる。
「ツボミ、魔狩り連中だ。でも害意が一切感じられないんだ。中に入れてもいいかい?」
話し声は聞こえていたし、敵意が無いのも分った。それに、昨日はあんなに殺気立っていた私だが、今はそんなに荒ぶっているわけじゃないし、昨日は感情的になりすぎたとも思う。
「いいよ。ちょっと興味あるし」
ツバキに招き入れられ、部屋に入ってくる魔狩り3人。
「失礼します。昨夜ぶりですね。お元気…では無いようですが」
コイツムカつくな…
「本題は?」
私も短く返しておく。
「ええ。そうですね。私達を雇いませんか?」
コイツ何言ってんだ?魔物を殺す連中に仕事?あるわけ無いだろう。
「まずは誤解を解いておきましょうか。私達は魔物狩りが本職ではありません。金さえ貰えれば何でもします。数年前に昨日死んだ教皇に雇われ、対魔教の魔狩り組織のトップとなったわけです」
ですが、とウァレオスは続ける。
「昨夜、貴方が殺してしまったせいで、良い金ヅルが無くなってしまったのですよ。そんな中であんな狂った連中の元に留まる理由は全くありませんので。貴方はただならぬ目的を持っているのでしょう?」
「お前達も大概狂ってるんじゃ無い?仕事とは言え、大量の魔物をゴミ処理の如く殺してきた訳だし。まさか殺すことが怖い~だなんて言わないだろうね?」
「怖いですよー。罪悪感もありますー。いやぁ、心が痛みますねぇー」
綺麗な棒読みありがとう。こういう奴とはなかなか話せる機会ないだろうなぁ…。
「ですが、狂っているのは貴方も同じでしょう?教皇殺害の瞬間、ビビっときましたよ。あぁ、我々でもこんな残酷な殺し方はしないのに、とね。そして直後に向けられた殺意は凄まじかった。自分が死ぬビジョンが数パターン同時に見えたかのようでしたよ」
「悪かったよ。昨日の私はどうもタガが外れていたらしい」
「………。本題に戻ります。どうです?私達を雇いませんか?」
なるほど、金さえ払えば何でもする訳か…。それで私に…。
そうだ。やりたいけど人手の足りないこと、あったじゃ無いか。
「継続的にはお断りだけど、依頼としてなら、1つだけ頼みたいことがある」
「ほう、聞くだけ聞きましょうか」
「この国にある全ての教会の洗脳術式、又は装置を破壊して欲しい。教会ごとでも構わない」
意外そうな顔をするウァレオス。
「貴方のような方です。きっと『死ね』などとおっしゃるのかと思っていましたが、意外でした」
ウァレオスは後ろの2人と小声で相談をする。少しして結論が纏まると、私の方を振り向いた。
「金額次第では受けても良い、と言う結論が出ました。一体いくら貰えるのでしょうか?」
「100でどう?」
「お断りします。この国に教会が幾つあると思ってらっしゃるのですか?」
「いくらなら良い?」
3本の指を立てるウァレオス。
「だいぶ譲歩はいたしました。あなた方がいつでも私達を殺せる、と言う条件を加味した結果です」
こいつ、もしかして結構命知らずなんだろうか。
「分った。今持って行くと良い」
金貨三百枚を取り出して渡す。
「ずいぶん信頼されているようですね。持ち逃げだって可能なんですよ?」
「まぁ、なんとなく私とお前は似てる気がするから。最後までやり遂げるだろうとはなんとなく分る」
「そうですか。では二日以内にこなして見せましょう。今払うと言うことは完了報告も要りませんね?」
「ああ。いらない。この後はまた新しい金ヅルを探しに行くの?」
「いえ、雇われる前と同じく、帝国に戻って再び仕事をしますよ。また何かあったら立ち寄って下さいね」
そう言ってウァレオス達は名刺を渡してきた。
大男はレオボルト、ビジネススーツの女はエルネッタと言うらしい。
「名刺を切らしていまして…は要らないか。私はツボミ。それじゃ、教会潰し頼んだよ?」
「ええ。またお会いできることを期待しております。私も貴方は私に似ている、と思ってしまったもので」
そう言い残して部屋を出ていくウァレオス達。まぁ奴らなら仕事のミスもなさそうだ。実力も十分のようだしね。
「ツボミ、良かったのかい?」
寝そべる私の肩を掴むツバキ。マジで痛いからやめてくれ。
「良いんだよ。ちょうど人手も足りてなかったし、あの計画に好きで関係していたわけじゃ無いなら、敵と見なすには早いから」
ツバキの放した肩を再び掴む雫。マジのガチでクソ痛いから本当にやめてくれ。
「蕾ちゃん、それなら私達が居るじゃん?なんであんな奴らにお金払って頼むの?」
「いや、どうも私はキリエや雫を犯罪まがいのこと、いや犯罪か。まぁそれに関与させたくないんだよね。きっと罪悪感に追われてしまうだろうし」
「……じゃあ自分は良いって事?」
「私ならそれを感じない以上、淡々とこなすには都合が良いから」
今私、最高に屑な台詞吐いてるなぁ…。自覚はあるよ。でも、手段は選んでいられない。冷酷にならなきゃね。
ツバキが真面目な顔になる。
「ツボミ。今から僕は簡単な質問をする。正直に答えて欲しい。」
「分った。良いよ」
「今やりたいことはある?」
「そうだなぁ…。スポーツとか良いかもね。体動かなくなると急に動かしたくなる」
「欲しいものは?」
「キリエの奴みたいに可愛い服かなぁ…。今までのは格好いい系だしそっちにも手を出してみたいよね」
「君の好きな事ってなんだい?」
「まったりすること、かな。あと、空を飛ぶのも新鮮で好きだ」
少し間を開けてツバキは再び質問してくる。
「君の一番嫌いな物ってなんだい?」
「虫。アレはマジで無理」
「君の苦手な事は?」
「どうも脳筋だし、頭脳戦かなぁ」
ツバキはぷるぷる震えながら再び質問をしてくる。
「君は何に喜ぶ?」
「褒められると喜びます」
「君は何に怒る?」
「嫌なことをされると怒ります」
「君は何に哀しむ?」
「酷いことをされると哀しみます」
「君は何を楽しむ?」
「毎日を楽しみます」
軽く机を叩いて立ち上がるツバキ。
「ああ!!そうかいそうかい!君がそういうつもりなら僕にだって考えがある!」
「ツバキちゃん、何に怒ってるんだい?」
ちょっとふざけすぎたかな……?
「君は今の質問で何一つ本当のことを言ってないじゃないか!そりゃ僕だって、嘘の1つや2つじゃ動じないさ!でも、全部嘘って何を考えてるんだい!人が真面目に聞いてるのに!!」
「ああ、ごめんごめん、ちょっとふざけすぎたって」
「いいや、僕だってもう堪忍袋の緒が切れた。決闘だ。3対1。僕とキリエと雫の3人対ツボミ1人だ。僕達が勝ったら、ツボミには本心で喋って貰う!」
「え、いま?私立てないよ…?」
ツボミは私の返答も聞かずにとあるスキルを発動した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
むぅ…。ここはどこだ?
「ツボミ、ステージは君が決めると良い。だいたいは希望に応えよう。」
声のする方向を見ると、堂々としたツバキと、あたふたと周りを見渡す雫。未だに爆睡中のキリエがいた。
「ツバキちゃん!!これ、何!?なんで私まで巻き込まれてるの!?蕾ちゃんになんて勝てるわけ無いよ!!」
「これは僕のスキルの『疑似空間』。その個体の最善の状態で、どんなステージでも選べ、広さは無限で物体を設置することも可能。まぁいわゆる練習ステージだ。ツボミも立っているのがその証拠だろう?」
ハッ、そういえば私の体の痛みがまるで無い。便利なスキルをお持ちのようで…。
「ただし、感覚は伝わるし、痛みも感じる。ただ死んでも、全員死ぬまで幽霊モードになって観戦できるから。この中で何をやっても現実の体には影響ないから。安心して殺されてくれたまえ。」
「これ卑怯じゃ無い?キリエちょうだいよ」
「ダ・メ・だ!これは君の本心を聞き出すための戦いなんだ。むしろキリエだって喜んで参加するさ。」
「………かくごせよ…」
いつの間にか起き上がってやる気のキリエ。ダメだこりゃ。
「なにかハンデを…お慈悲を…雫さまぁ…」
最後の希望である雫に頼んでみる。雫は聖人だし、なんとかしてくれるはず…。
「嫌だ。蕾ちゃんに対する日頃の鬱憤をお返しする良い機会だし、まだコロシアムの奴根に持ってるし。今回は勝つ!」
あぁ……。終わった……。
「じゃあ最初の通りステージは決めさせて貰うことにするよ…」
どんなステージなら有利に戦えるだろうか。ツバキの気配感知能力とキリエのレーダーがあるし、入り組んだところは不利だ。ただ平地で3対1もキツいぞ…。
ううむ、仕方ない。下手に障害物を置くのは不味いだろう。本気で3対1やってやる。
「無限に広い、ただ平坦な土の地面で良いよ」
「了解した。今のうちに棄権確認しとくけどどうする?」
よし。今からマジで行こう。ここで死んでもどうって事無いらしい。コロシアムの時と同じく、ハナから殺しに行く。
「私は勝つよ。全員殺して、ツバキは諦める。それでいい」
急に私が放った殺気に、雫はビクッと震えた。キリエとツバキは赤いときの私をみてるし、まだ大丈夫らしい。
「………始めようか。準備は良いかい?」
「勿論!」
「……ツボミ…泣いて許しを請うと良い…」
「キリエさん、どこでそんな言葉を覚えてくるの…」
私達の前に数字が現れ、カウントダウンを始める。その数字を挟むように私と三人が見つめ合った。
3…
2…
1…
カウントがゼロになると同時に大きな音が響き渡る。
ツバキが帝龍覚醒を行う。キリエが神装を呼び出す。雫が金のオーラを身に纏う。
うっそ…。マジなの?最初っからマジなの?
私はケイオスアクセルを纏い、真後ろに向かって走り出した。今は逃げよう。今は逃げるんだ。
幕間含めて通算100話です!!
これからも頑張っていきます。
ここで良い区切り目なので、更新頻度を変更します。
詳しくは活動報告に書いておくので、見てみて下さい。