これから
蝉の声が聞こえてくる。夏はもうすぐだ。僕は今、彼女を待っている。先日、文化祭での告白を成功させ晴れて彼氏彼女になった僕達は休日に待ち合わせをしているという訳だ。
「遅れてごめん〜。」
「大丈夫。全然待っていないよ。」
五分くらいの遅刻など今の僕の精神状態を持ってすれば訳なんてない。
何故なら、彼氏だからだ。可愛い彼女のため優しく振る舞う。
「じゃあ行こうか」
彼女が手を差し出してくる。僕は恐る恐るその手を取った。汗ばんではいないだろうか…。
女の子特有の柔らかい感触が脳内まで伝わってくる。やはり緊張してしまう…。始めての彼女なのだ。肩と肩が触れ合う距離。そんな近くまで寄られたらもう…正気ではいられない。
いい匂いもしてきた。シャンプーの匂いだろうか…。
僕がそんな気持ちの悪いことを考えていると倉瀬はこんなことを言ってきた。
「そう言えばさぁ、裕也くんと喧嘩でもしたの?」
「いや、そんなことないけど…。」
「なんかあまり話さなくなったよね。」
「元々、そこまで仲良くないから…。」
「そうなんだ…。」
実際、斎藤とはあれ以来まともに喋ってはいない。
斎藤はクラスでも人気のあるやつだし、大した問題でもないだろう。
でも、その原因といってもいいか分からないが、倉瀬のことが発端だとは彼女に知られたくはない。斎藤もきっとそうなんだろう。彼女を悲しませたくない…、その気持ちだけは一致していると思う。
「まぁ、人にはいろいろあるからねぇ。」
そう語る倉瀬の手はさっきよりも強く握られていた気がした。
「暗い話は置いといて、ほら、パンダを見に行こう。」
それを聞いた倉瀬は目を輝かせている。可愛い。
友達として出掛けるよりも恋人として出掛ける方が楽しい。
その日僕達はくたくたになるまで遊んだ。
「また、デートに行こうね。」
その言葉を聞くと嬉しくなる。恋人になったと実感する。倉瀬にとって僕は特別なんだと、そう思わせてくれる。
夕方になってもまだ暑い。これからもっと暑くなるのだろう。蝉も元気に鳴いている。俺だって負けていられない。これから、夏本番。夏休みになったら沢山、倉瀬と遊ぼう。まずは下の名前で呼びあってみようか…。まぁ焦らなくとも時間はいっぱいだ。一つ一ついこう。もっともっと倉瀬のことが知りたい。
僕の心は夏の太陽のように輝き、そして高揚していた。
〜帰り道〜
「〇〇くん。また今度デートしようね♥️」
その女の携帯にはそんなメッセージが打ち込まれていたのを彼は知るよしもしない……。




