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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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導かれた先に

「お父様、お母様、お兄様……。私は先に部屋に戻っていますね」


リリアーナは席を立つと、軽く頭を下げて部屋を出ようとした。


――キュルル。


突然の声に、リリアーナははっとし、足もとを見つめた。

その鳴き声の主は、小型魔獣『ラピフェル』のモルルだった。


モルルはすっかり城のマスコット的存在になっていた。

リリアーナが家族と食事をしている間も、すぐ隣で侍女に世話をされながら、ご飯を食べていたのだ。


モルルはぴょんとジャンプし、リリアーナの肩に乗った。


「あら?モルル、ご飯はもういいの?」


リリアーナの問いかけに、大きな瞳で見つめていたモルルが、小さく鳴いた。


――キュル。


まるで「食べたよ」と言わんばかりだ。


「ほんと不思議ね。まるで言葉が分かってるみたい。じゃあ部屋に戻ろっか?」


――キュルゥ。


まるでリリアーナの言葉を理解して、返事をしているかのようだった。

 

リリアーナは、肩に乗ったモルルの小さく膨らんだ鼻先を、左手の人差し指でそっと触れた。

少ししっとりとした、柔らかなモルルの小さな鼻だった。


「では、失礼致します」


「あら?モルル、ご飯はもういいの?」


リリアーナの問いかけに、大きな瞳で見つめていたモルルが、小さく鳴いた。


――キュル。


まるで「食べたよ」と言わんばかりだ。


「ほんと不思議ね。まるで言葉が分かってるみたい。じゃあ部屋に戻ろっか?」


――キュルゥ。


まるでリリアーナの言葉を理解して、返事をしているかのようだった。

 

リリアーナは、肩に乗ったモルルの小さく膨れた鼻を、左手の人差し指でそっと触れた。

少ししっとりとした、柔らかなモルルの小さな鼻だった。

 

父・アルベルトはリリアーナを見つめながら、小さく名を呼んだ。


「リリア……」


だが、その声はリリアーナには届かなかった。

リリアーナは、ゆっくりと扉を閉めた。


(さ、部屋に戻るわよ。そして準備しなきゃ)


自室へと戻る長い廊下を、リリアーナは逸る気持ちを抑えながら進んだ。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「さてと……」


自室に戻ったリリアーナは、扉を閉めると小さく息をついた。


(色々考えなきゃ……)

 

肩に乗っていたモルルはぴょんと飛び跳ね、ベッドへと飛び降りた。


リリアーナはチラリと窓を見た。

外の景色はすでに日が落ち始め、深い青みが増していた。


「完全に日が落ちる前に、セレスティーヌを探しださなきゃ。でも一応、暗くなった時のためにあれを持っていこう」


リリアーナは、棚からあるものを手に取った。


魔石ランタン。

火を使わずに、魔石の力で周囲を照らす魔道具だ。


「あと、一応これも持っていこう」


リリアーナは、自身の机の中から、あるものを取り出した。

それは――。


儀礼用の小型短剣。


アルディア王家の紋章や宝石があしらわれ、武器というよりも身分を示す装身具に近いものだった。

長さも二十センチほどだ。


「まぁ……ないよりマシよね」


リリアーナはそれを、スカートの内側にある隠し留め具へ収めた。


(実用的……とは言えないけど、念の為)


「あとはこれね……」


リリアーナは机に置かれていた、あるものを手に取った。

 

水晶のネックレス――。


相手の魔力や力量を測れる特殊な魔道具だ。

いわば、魔力鑑定ができる首飾りである。

リリアーナはそれを首にかけた。


城内でこのネックレスをつけることはほとんどない。

だが、もし怪しい人物に遭遇した時、このネックレスがあれば、相手の力量を測ることができる。


「そして、これが一番大事なのよ」


リリアーナはベッドの傍に来た。

そして――。


部屋にあるぬいぐるみをかき集め、その寝具の中に押し込んだ。

すると、こんもりと山のように膨らんだ。

 

仕上げは、顔が分からないように、頭のところまで寝具を被せる。


「私が出ていったってわかったら、みんなに心配かけちゃうからね」


こんもりと膨らんだ寝具を、リリアーナは右手でぽんぽんと叩いた。


「うん。とりあえずこれで大丈夫でしょ!」


そして――。

ベッドの端にちょこんと座るモルルを見つめた。

大きな瞳が、不思議そうにリリアーナを見ている。


「モルル……」


リリアーナは少し屈んで、モルルの頭を優しく撫でた。

モルルは気持ちよさそうに小さな声を漏らし、目を細めていた。


「少し出るから……留守番よろしくね。大人しく待っているのよ」


キュル。


愛らしい声でモルルが鳴いた。


「じゃあ、いってくるわね」


そして――。

リリアーナは静かに部屋を出て扉を閉めた。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

リリアーナは音を立てないよう注意しながら、早足で城内の長い廊下を歩いた。


(お父様たちに見つからないようにしなきゃ……)


慎重に周囲を確認しながら、誰にも見つからないように歩みを進める。

途中、侍女たちと遭遇しそうになりながらがも、まだ小柄な七歳のリリアーナは、柱の影などに身を隠し、うまくやり過ごした。


そして――。


ついに城外へと出ることができた。


「門番の話では、外に出た者はいないと言っていたから、まずはアルディアの敷地内を探さなきゃね」


もし本当に連れ去られたとしたら、身を隠し、外に出た可能性もある。

だが、まずはアルディアの広大な敷地から探すのが一番だとリリアーナは考えた。


「さて、どこから探そうかしら……」


リリアーナは辺りを見渡した。


(とりあえずこっちから探してみよう)


リリアーナが歩き出した。

そのとき――。


キュル。


後ろで聞き覚えのある声がした。


(え……?)


リリアーナは振り向く。


キュウゥ――。


地面にちょこんと座る小さな影が、大きな瞳でリリアーナを真っ直ぐに見上げていた。

猫のようなふわふわの体毛に、兎のような長い耳を持つ小さな魔獣。それは――。


「モルルっ?」


小型魔獣ラピフェルのモルルだった。


「え?なんで……。なんでモルルがここにいるの?」


リリアーナは驚き、思わず後ずさった。

リリアーナの反応とは対照的に、モルルは嬉しそうに飛び跳ね、そのままリリアーナの胸へ飛び込んだ。


「モルル……。留守番よろしくっていったじゃない……」


モルルの顔を両手で挟み、リリアーナは困惑した表情を浮かべた。


キュウ。


リリアーナの思いを知ってか知らずか、嬉しそうに目を細めるモルルを見て、リリアーナは小さくため息をついた。


「……あのね、遊びにきてるわけじゃないのよ。セレスティーヌを探さなくちゃいけないの」


小さなモルルに言い聞かせるように、リリアーナは優しく語りかけた。


(どうしよう……。城の外に出したらダメだってお父様とも約束してるし……)


しばらく躊躇っていると、リリアーナは意を決したように顔を上げた。

 

(……しかたない)


「モルル……一旦部屋に戻るわよ」


リリアーナは、モルルを抱いたまま帰ろうと、振り返った瞬間だった。

モルルはリリアーナの胸元からぴょんと飛び降り、真っ直ぐに駆け出した。


「ちょっ……モルル!」


リリアーナは、前を走るモルルを慌てて追いかけた。


「モルル!行かないで――!」


全力で追いかけるが、追いつかない。

城の敷地内に広がる森。その木々を避けながら、リリアーナはモルルを追って走り続けた。


「モルル――!!」


リリアーナの声に見向きもしないまま、モルルは軽やかに飛び跳ね進み続ける。

 

毎日の鍛錬で走ることには慣れていた。それでも、七歳のリリアーナの足では、小型魔獣ラピフェルの速さには到底追いつけなかった。


だが、リリアーナは諦めなかった。


「お願い!戻ってきて――!」


それから、どれくらい進んだだろうか――。

突然、モルルの足が止まった。


「よし、捕まえたわ」


リリアーナは息を整えながら、両手でそっとモルルを抱き上げた。


「もう……勝手に行っちゃダメでしょう」


リリアーナは少し息を乱しながら、優しく言い聞かせた。


そのとき、リリアーナは、ようやくあることに気づいた。

 

「あれ……?ここって……」


転生前のリリアーナの記憶には、この場所を訪れた記憶はない。

そして、この世界でリリアーナとして生きている今も、この場所を訪れたことは一度もなかった。

 

(でも、私はこの場所を知ってるわ……)

 

それは、莉子として生きてきた頃に夢中になっていたゲーム『レジェンド・オブ・アルディア』の記憶だった。

ゲームの中で、莉子はこの場所を訪れたことがあった。


記憶を呼び起こしながら、リリアーナは口にする。


「この先に、確か結界の歪みがあるはず……」


リリアーナは、躊躇いながらもゆっくりと足を進めた。








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