新たなる波紋
「リリアーナ様、今日も大盛況でしたね」
リリアーナの傍らに立つ侍女が、そっと耳打ちした。
子供会が終わり、家族そろっての夕食の席。
侍女はどこか嬉しそうに口元を緩ませていた。
「はは……」
リリアーナは乾いた笑みを漏らした。
(今回こそ静かに過ごすつもりだったのに……)
その様子を見た父・アルベルトが、不思議そうに問いかけた。
「どうした?子供会で何かあったのか?」
「えっと……」
リリアーナが返答に詰まると、侍女がすぐに口を開いた。
「今回もお嬢様が大活躍されたんです!」
侍女は興奮気味に語気を強めた。
大きく見開いたその目は、キラキラと輝いていた。
(なんか、嫌な予感がするんですけど……)
身を丸め、俯くリリアーナ。
対照的に、侍女の声はますます弾んでいった。
「お嬢様が、『犯人探しゲーム』というものを提案されましてね。見事に皆さんを誘導し、証言を引き出して解決に至ったのです!」
(あぁ……もう辞めて……)
「ほう!リリアーナが?」
アルベルトは身を乗り出し、目を輝かせた。
(お父様、そんなに食い気味にならないで……)
侍女もさらに身を乗り出すと、声を弾ませた。
「お嬢様は見事悪者を撃退し、子供会の平和と秩序を守ったのですよ!」
(ぎゃー!何、その子供向けの戦隊ものみたいな説明は……。私、大したことはしてないから……)
侍女が話を盛り上げれば、アルベルトも嬉しそうに乗っかる。
すると侍女もさらに熱弁し、それにアルベルトもますます身を乗り出した。
(この二人、なんなの……。大人なんだからもっと落ち着いてよ)
リリアーナは内心ため息をついた。
そして思った。
穴があったら入りたいと――。
「やはり、うちの娘は賢い!天才じゃな!」
アルベルトは胸を張り、豪快に笑った。
(我が親ながら恥ずかしい……。もうちょっと冷静になって)
アルベルトの視線が、リリアーナへと向けられた。
目が合った。その時――。
「リリア……我が娘よ。お前はわしらの希望じゃ!誇りじゃ!国の宝じゃ!!」
(あぁ……)
「父上!」
それを見ていた、兄・ヴァルターが声を上げた。
(お兄様……)
(お父様を諌めてくれるのかも……)
だが、その期待とは裏腹に、ヴァルターは言った。
「そんな当たり前のことを今更言わないでください!我が国では誰もが知ることではありませんか!」
(えっ……)
ヴァルターの真剣な眼差しは、決して冗談で言っているわけではないと物語っていた。
(そうだった……。うちの家族は皆リリアーナのことが好きすぎるんだった)
(あぁ……重い……。重すぎる愛だわ……)
リリアーナは項垂れた。
いつ終わるかも分からない娘自慢大会を、黙って聞くしかなかった。
その時――。
ガチャリ。
扉が開いた。
「お食事中に申し訳ありません。失礼致します」
執事だ。
気のせいだろうか。いつもより扉を開ける音が大きく、その声にも焦りの色が滲んでいた。
アルベルトも、執事の普段とは違う様子を感じたのだろう。先ほどまでの笑顔は消え、執事へ鋭い視線を向けた。
「何かあったのか?」
「いえ、あの……」
執事は一瞬、ちらりと横目でリリアーナを見た。
どう切り出すべきか迷っているようだった。
(何?私に関係すること?)
「大丈夫、話してみて」
リリアーナは躊躇う執事に促した。
「はい……。あの、子供会に来ていた一人のご令嬢ですが、まだ帰りの馬車に乗っていないそうなのです……」
(えっ?)
リリアーナは思わず固まった。
子供会が終わってから、すでに二時間が経とうとしていた。
「それは、どういうことだ?」
アルベルトが静かに尋ねた。
「その……今までは子供会が終わっても、ご友人たちと談笑し、なかなか出てこないことがあったそうです。ですので、最初は様子を見ていたとのことですが……」
執事の言葉に、その場にいた全員が静かに耳を傾けた。
「一時間経っても姿を見せなかったため、ご友人たちのご自宅を訪ねたところ、皆さまはとうに帰宅されていたとのことです……」
「それは本当か?」
アルベルトの表情が険しくなった。
「しかも話を伺いますと、今回の子供会では、初めはご友人たちとご一緒だったそうですが、その後はお一人で行動されていたとのことです」
「なんだと!」
アルベルトの眼光が鋭く光った。
リリアーナは、アルベルトが何を心配しているのかすぐに理解した。
この会は、ただの子供会ではない。
限られた高位貴族の子どもたちだけが参加を許される会なのだ。
悪意ある者がその子どもたちを狙い、誘拐や脅迫を企てる可能性も十分ある。
リリアーナは執事へ視線を向けた。
そして、静かに尋ねた。
「その行方が分からないという子どもは、一体誰なんですか?」
「はい……」
執事は小さく頷くと、重い口を開いた。
「――セレスティーヌ・ヴァレンシア様です」




