望まぬ主役
子どもたちの社交の場――『子供会』。
アルディア王国と繋がりのある貴族たちの子供が集い、交流を深める場である。
「はぁ……」
リリアーナは大きくため息をついた。
アグリアとの関係が悪化して以降、月に一度の子供会は延期されたままだった。
(このまま無くなってしまってもよかったんだけど……)
(アグリアとの関係悪化で唯一よかったのは、子供会に参加しなくてよかったことなのよね……)
再び、大きく息をつく。
(またあんな面倒なことになったら、疲れるわ……)
初めての子供会の記憶がよぎり、リリアーナの表情はわずかに曇った。
「お嬢様……もしかしてお身体の具合が悪いのですか?」
侍女が心配そうに顔を覗き込む。
リリアーナは少し慌てて首を振った。
「ううん、大丈夫よ。ごめんなさい、ちょっと考えごとをしていただけ」
「本当ですか?ご無理はなさらないでくださいね」
なおも気遣うような視線を向ける侍女に、リリアーナはにこりと微笑む。
「ありがとう」
(考えてもしかたないわ。面倒だけど……行かなきゃね)
リリアーナは椅子から立ち上がり、やや重い足取りで子供会の会場へと向かった。
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『子供会』会場。
「……前回より、人が増えてない?」
室内に入ったリリアーナは、ゆっくりと辺りを見渡し、思わず呟いた。
それを聞いた隣に控えていた侍女が、口を開く。
「そうですね。久しぶりの開催という事もありますが、前回の子供会での催しが大変好評だったようで。人伝に貴族の子供たちの間で広まり、参加者が増えたそうですよ」
侍女はリリアーナを見ながら、ふふっと小さく笑う。その笑みには、どこか含みがあった。
何やら秘めたような侍女の態度に不思議に思いながらも、リリアーナは前回の記憶を思い出していた。
「催し……?」
(そんな催し、あったかしら?)
「リリアーナ様が、皆様と一緒に本格的なおままごとを提案されたでしょう?皆さんとても楽しかったそうですよ」
リリアーナを見ながら目を細める侍女の笑顔の意味を、リリアーナはようやく理解した。
(いや、あれはふざけた子がいたから、仕方なくやっただけで……)
「あはは……」
乾いた笑い声しか出なかった。
(正直あの日めちゃくちゃ疲れたのに。もう二度とやりたくなかったのに、さらに人数が増えるなんて……。余計に面倒なことになってるじゃないの)
「はぁ……」
リリアーナは深くため息をつき、肩を落とした。
その様子を見ていた侍女が、心配そうに顔を覗き込んだ。
「やはり具合が悪いのではないですか?」
(これ以上、優秀な侍女に心配かけちゃいけないわね)
「……大丈夫よ。久しぶりだから、少し緊張しているの」
苦笑いを浮かべるリリアーナ。
もちろん、緊張などしていない。
ただこの状況が、とてつもなく面倒なだけだ。
侍女ははっとしたように姿勢を正し、胸元で拳を作った。
「大丈夫ですよ。リリアーナ様は大変人気者ですから。皆様、きっと快く受け入れてくださいます!」
真剣な眼差し。
(いやいや……前回もよく思っていない人がいたから、あんな面倒なことになったんだけどね)
(……なんて、言えるわけないし)
「そうね。頑張って皆と仲良くしてくるわ」
「そうです!いつものリリアーナ様で大丈夫ですからね」
にこっと笑う侍女に、リリアーナは内心で苦笑いするしかなかった。
皆思い思いに集まり、語らい、遊んでいる子どもたち。
その中へ、リリアーナは重い足取りで進んでいく。
「あ!リリアーナ様だ!」
リリアーナよりまだ幼い男児の甲高い声が、場内に響き渡った。
その声に、一瞬びくっと体が揺れ、足が止まったリリアーナ。
そして、皆の視線が一斉にリリアーナへと目を向けられた。
(うわ……めっちゃ見られてる)
リリアーナは再び歩き出す。
(そんなに見られると、歩きづらいんだけど……)
やや俯きがちに歩く。そのとき――。
「リリアーナ様!」
小さな男の子が、勢いよく駆け寄ってきた。
「今日は何をして遊びますか?」
目をキラキラと輝かせながら、リリアーナを真っ直ぐに見つめる。
「へ……?」
思わず、言葉にならない声が漏れた。
(何って……特になにも考えていないんだけど……)
一瞬の沈黙。
それでも幼い男の子は、まっすぐに瞳を輝かせながら、その返答を待っていた。
(……困ったわね)
「こ、こら!」
慌てて女の子が飛び込んできた。
「勝手に離れちゃダメでしょ!リリアーナ様、申し訳ありません。しっかり言っておきますから!」
女の子は慌てた表情を見せていたが、男の子はきょとんとしている。
なぜ女の子が謝っているのか、わかっていないようだった。
「……大丈夫だから」
宥めるように、リリアーナ声をかけた。
(それにしても……)
「あなたたち、兄弟?」
(とてもよく似てる)
「はい、私はサジーと言います。そして弟のリオです」
兄弟――。
リリアーナは、莉子だった頃の自分を思い出していた。
そして、弟だった智の顔が、ふと脳裏に浮かぶ。
(私の大切な弟――智。元気にしてるかしら……)
「……リリアーナ様?」
思わずじっと男の子を見つめていた。
困惑した表情の女の子が、リリアーナの名を呼ぶ。
その声に、はっと我に返った。
「あ、ごめんなさい。私には弟がいないから、もし弟がいたらこんな感じなのかなって思って……」
「そうなんですね」
ほっとしたように答える女の子に、リリアーナは笑顔で言った。
「仲がいいのね」
「全然、生意気なんですよ。すぐ口答えするんです。昔はずっと後ろを着いてきて可愛かったのに」
リリアーナは、くすりと小さく笑った。
「元気がよいのはいいことよ。さぁ座って。まずは皆でお茶を楽しみましょう」
「はい、リリアーナ様!」
リリアーナの言葉に従うように、兄弟はもちろん、席を離れていた子どもたちも、ゆっくりと席へ戻っていった。




