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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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背中を預けて

しばらく呆然とリリアーナを見つめていたカイリウス。


その視線に気づき、リリアーナが振り向く。


視線が重なる。


リリアーナは、ふわりと笑った。


「カイ!さすがね。あとは一人だけか……」


その視線を男へ移し、きっと睨みつける。


男もまた、リリアーナの戦いぶりに呆気にとられていた。

 

だが、リリアーナの向けられた視線にはっと我に返り、焦りを滲ませながら吐き捨てる。


「く、クソ……このままで済むと思うなよ」


男はゆっくりと腰の鞘に手をかけ、短剣を引き抜いた。


刃が露わになる。

それを見せつけるように胸の前でかざす。

 

冷たい光が走る。

背筋をなぞるような、ぞくりとした気配。


「ちょっと!子ども相手に本物の刃物を使うなんて、卑怯でしょ!」


リリアーナは男を指さし言い放つ。


「う、うるせー!そんなの知るか!こっちは仲間がやられてるんだ!」


リリアーナは大きくため息をついた。


残るは、このリーダー格の男、ただ一人。


(あとはカイだけで大丈夫よね)


だから――。


「あ、あそこにお金落ちてる!」


リリアーナが唐突に指をさした。

もちろん、そんなものはない。


「な、なにぃ?!」


男は思わずリリアーナの指の先へ視線を向けた。


その一瞬――

 

カイリウスは、迷いなく男の懐へ潜り込んだ。


そのまま――叩き込む。



パンッ!


角材が、みぞおちへと食い込む。


「ぐぁ――!」


男の体がくの字に折れた。


鈍い衝撃音と、苦悶の声が重なる。


(迷いのない踏み込み、さすがだわ!)


男はそのまま前のめりになり、地面に倒れ込んだ。


今この場に立っているのは――


カイリウス、そしてリリアーナだけだ。


戦いが終わり、目が合う。


張り詰めていた緊張がほどけ、自然と笑みがこぼれた。


(よかった……)


「カイ!」


リリアーナは、何も言わず手のひらを掲げる。


カイリウスはリリアーナを見つめたまま、にっと口角を上げた。


そして――


パンッ!


その手に、自分の手を打ち合わせた。


よくやった――と。

言葉の代わりの、勝利の合図。

 

「最後は渾身の一撃だったわね」


カイリウスを見上げながら、リリアーナは嬉しそうに言う。


「まぁな」


短い返事。だがその声には、確かな達成感が滲んでいた。


「しかし……」


カイリウスが言葉を続ける。


「魔法だけじゃなく、剣術も習ってたんだな」


少し驚いたように言った。


「あはは……まぁね」


リリアーナは少し照れたように答える。

 

「魔法もだけど、剣術もできるってそんな情報は聞いてないぞ。一体どこで習って……」


カイリウスが話をしていた、その時――

 

言い終わるより早く、リリアーナの目が一瞬にして切り替わった。


その瞳に、鋭い光が宿る。

 

空気が一瞬で張り詰めた。


「リリ……ア?」


カイリウスがリリアーナの異変に気づいた、その一瞬――

 

リリアーナが動いた。


カイリウスの横をすり抜け、前に出る。

そしてそのまま――。


ガンッ!


手にした木材を、容赦なく振り下ろした。


カイリウスがゆっくり振り向くと、そこには、先ほど地面にうつ伏せで倒れた男が、今度は背中を地面について倒れている。


「執拗い男は嫌われるわよ」


挑戦的な笑みを浮かべ、リリアーナが言った。


カイリウスは、その言葉で理解した。

倒したと思った相手が、再び目を覚ましたのだということを。


そして、背後から襲おうとした瞬間を、リリアーナが見逃さなかった。

 

「ははっ……」


カイリウスは思わず声を漏らした。

左手で頭を掻きながら、笑っている。


「……ちょっと……その笑い、なんなのよ」


(なんか引っかかるんですけどー)


目の前で笑うカイリウスを、軽く睨みつけた。


「いや……大したものだと思ってな」


笑いを堪えきれず、目にうっすら涙が滲んでいる。


「もう!せっかく助けたのに」


リリアーナは頬を膨らませた。


(どうせ、お姫様が何やってんだって思ってるんでしょ)


「もういいわよ」


リリアーナはぷいっと首を横に振った。


「リリア」


ふと、静かな声で名を呼ばれた。

 

先ほどの軽さはない。

落ちついた、真剣な声。


一瞬でその場の空気が変わった。


リリアーナは、ゆっくりと視線を戻した。

 

カイリウスと目が合う。


まっすぐな眼差し。


「ありがとう。助かったよ」


それは嘘偽りない、カイリウスの心からの言葉だとわかった。


(急にそんなかしこまって言われると、照れるんだけど……)


「……どういたしまして」


リリアーナの頬が、わずかに熱を帯びる。


ふと、静けさが戻る。

 

カイリウスは周囲を見渡し、口を開いた。


「よし。ここから出て、助けを呼ぼう。きっと今頃、俺たちがいなくなったことで騒ぎになっているはずだ」


リリアーナははっとする。


「そうね。早くみんなのところに帰りましょう」


「あぁ」


二人は力を合わせて、重い扉を押し開けた。


閉ざされた薄暗い倉庫。

扉が開くと、一筋の光が差し込む。


(眩しい……)


思わず目を細める。

その光に目を慣らしながら、ゆっくりと瞼を持ち上げていった。


ほんの数時間の出来事。

だが、リリアーナには、とても長い時間に感じられた。


締め切った使われていない倉庫。

こもった埃っぽい空気。


そこから開放された瞬間だった。


「……はぁ」


自然と息がこぼれる。

 

「空気が美味しい……」


両手を広げ、大きく息を吸い込む。

そして振り返り、カイリウスを見つめた。


「行こう、カイ」


左手を差し出す。


カイリウスもまた、リリアーナを見つめた。


そして――微笑みながら、その手を力強く握った。


「あぁ……行こう」


こうして二人は、この囚われた倉庫から脱出した。


頬を撫でる風。

降り注ぐ陽の光。

小鳥のさえずり。


まるで、二人の無事を祝福しているかのようだった。


二人で切り抜けたという実感が、胸の奥に静かに残る。

 

リリアーナの小さな胸に、確かな誇らしさが灯っていた。



 

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