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お姫様ですが、勇者になりたいんです― ヒロイン役を降りて、剣を取りました ―  作者: 亜久美 圭


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芽生える興味

翌朝――


カーテンから差し込む朝の光が、リリアーナの顔を照らす。


「う……ん」


眩しい――


まだ眠気の狭間にいるリリアーナは、うっすらと目をあけた。


手探りで、ベッドにいるはずのモルルを探す。


だが、触れられるはずのふわふわの感触がない。


「……モルル?」


目を開ける。

そこには、誰もいない。


(一緒に寝ていたのに……)


眠気と闘いながら、上半身をゆっくり起こし、改めてベッドを見る。


やはりいない――


「モルル?」


部屋の中を見渡す。

だが、そこにもモルルの姿はなかった。


「いない……」


モルルがいないことに気づき、慌ててベッドから起き上がる。


モルルがいつもいる場所、隠れていそうな場所。

お気に入りの籠、テーブルの下、クローゼットの中――見られるところはすべて見て回った。


(モルルが……いない)


焦りと不安が胸を締めつける。

リリアーナは息を乱しながら、しばし呆然と立ち尽くした。


(なんで……?私のそばから離れたことなんてなかったのに……どこに行ったの?)


ふと扉の方に目を向けると、僅かに扉が開いている。


「え……まさか……」


リリアーナは椅子にかけていたカーディガンを急いで羽織った。


(探さなきゃ!)


バン――


勢いよく扉を開けた。


右も左も……長い廊下を見渡すが、モルルの姿は見えない。

朝の静けさだけが広がる。

その静けさが、リリアーナの胸のざわめきをより大きくした。


リリアーナは、とにかく目の前の廊下を走った。

スリッパで、足音がパタパタと響く。

 

だが、その音さえ気にならないほど、モルルがいない不安が押し寄せていた。


(どうしよう……どこに行ったの?モルル……)


リリアーナは続く廊下を、とにかく前へと走り続けた。


その時――


グルルー……


低く唸る声が聞こえた。


「モルル!」


リリアーナは、声のする方へ駆け出した。


(間違いない!モルルの声だ。お願い……無事でいて)


祈るような思いで、声の方へ急ぐ。


ウヴァーッ


モルルの声が、さらに大きくなる。


(ここだ!)


リリアーナは勢いよく扉を開けた。


「モルル!」


息を乱しながら名前を叫んだ。

そこには、モルルと――カイリウス皇太子殿下がいた。


「カイリウス皇太子殿下……」


息を整える暇もなく、リリアーナはモルル、そしてカイリウスを見た。

 

カイリウスの左頬には傷。

そしてモルルの体にも、剣で切られたであろう傷がいくつもあった。


一気に血の気が引き、リリアーナの顔が青ざめる。


(どうしよう……)


「姫、危ないので下がってください……」


カイリウスの低く冷たい声に、ドクンと心臓が大きく鳴った。


(ダメ――!)


「……これで終わりだ」

 

カイリウスが剣を構える。

そして――大きく振りかぶった。


「やめてー!」


自然と身体が動いていた。

リリアーナはモルルの前に立ち、両手を広げる。


「……リリアーナ姫?」


カイリウスはその姿に、呆気にとられた。


「やめてください!この子は違うんです!」


リリアーナは傷ついたモルルを抱きしめた。

全身の毛を逆立て、鋭い目を向け、鋭い爪をむき出した小さな魔獣――モルル。


「危ない!」


カイリウスは慌てて止めようとする。

だが、リリアーナはその手を離さない。

 

腕に力を込め、さらに強くモルルを抱きしめた。


「なんで……」


カイリウスの声から、力が抜ける。


やがてモルルの逆立った毛は、ゆっくりと元に戻っていった。

 

つり上がっていた瞳も、いつもの丸い目に戻る。

鋭く伸びていた爪も、すっと引っ込んだ。


「モルル……ごめんね」


リリアーナは涙を浮かべ、モルルに謝った。


(他国の人が来ているのに、私、油断してた。モルルを危険な目に合わせてしまった……)


「本当に、ごめんなさい……」


溢れた涙は止まらず、次から次へと頬をつたっていく。


その様子を見ていたカイリウスが、ようやく剣を下ろした。


「……リリアーナ姫、ご説明願えますか?」


リリアーナは涙をこぼしながら、こくりと頷いた。


「……その前に、少し落ち着かれるまで座ってください」


促されるまま、リリアーナはモルルを抱きしめたまま腰を下ろし、膝の上にそっと乗せた。


キュウ……


心配そうに見上げるモルル。


「痛い思いさせて、ごめんね。今、傷治すからね……」


「治すって……?」


カイリウスの声は届いていない。

リリアーナはただ、目の前の傷ついたモルルを見つめていた。

 

そしてその傷を治そうと――共鳴魔法を使った。

 

モルルにそっと触れる。


モルルのぬくもり。

血の流れ。呼吸。

それらを感じ取りながら、傷をゆっくりと繋ぎ合わせていく。


カイリウスが何か言っているようだった。だが、リリアーナには届いていなかった。


やがて、リリアーナの手の周りが光り出す。

あたたかなぬくもりとともに光が静かに広がっていった。


シュウ――


やがて――

足元から身体、顔、耳へと――モルルの傷がゆっくりと消えていく。


カイリウスは食い入るように――リリアーナを見ていた。

まるで、信じられないものを見るように。


「ふう……」


リリアーナは大きく息を吐いた。


(よかった……成功したみたい)


目の前のモルルには、傷一つ見えない。


モルルは嬉しそうに、スリスリとその手に擦り寄った。


「よかった、モルル……」


リリアーナもまた、膝の上のモルルの耳を、わしゃわしゃと撫でていると、ふと視線に気づいた。


はっとする。


(そういえば、王子もいたんだった!)


顔を上げると、カイリウスが見ている。

食い入るように――リリアーナを。


カイリウスの左頬には、浅い傷があり、まだ血がにじんでいた。


(治さなきゃ!)


相手国の皇太子殿下に傷を負わせてしまった。

その不安から、リリアーナは慌てて口を開いた。


「す、すみません……すぐ皇太子殿下の傷も治しますから」


すると、皇太子殿下が声をあげて笑いだした。

 

それはいつもの表面だけの笑いではなく、心からの笑いだった。


(え……どうしたのかしら)


「皇太子殿下……?」


おそるおそる名前を呼ぶ。


「あは……すまぬ。リリアーナ姫は魔法を使えるのだな?」


笑いをこらえるように言うカイリウス。


「はい……魔法といいますか、共鳴魔法ですが、少しだけ……」


「共鳴魔法とは、珍しいな……。一つの国に、一人いるかどうかだと聞いたぞ」


今度は目を丸くし、驚きを見せるカイリウス。


(だって魔力がないから、普通の魔法がつかえないんだもん)


今まではほとんど表情を変えなかったカイリウスの変化に、リリアーナは少し戸惑っていた。


(なんだかコロコロ表情が変わるなぁ……。こっちの方が九歳の子供らしいけど……)


リリアーナは、カイリウスの傷を治そうと、モルルを隣に置き、立ち上がった。


「いや、このくらい大丈夫だ。怪我とも言えぬかすり傷だからな。だが……」


カイリウスは、モルルを見つめる。


「その魔獣……ラピフェルは、下位魔獣のはずだが、なかなか強いな」


(え……?!)


リリアーナは驚いた表情でモルルを見る。


(こんなに小さくて可愛いのに、あなた強いの?!)


キュウ?


まん丸な目で首を傾げるモルル。


(か、可愛い……)


「落ち着いたなら話をきかせてくれないか?」


リリアーナは頷き、少しずつ話し始めた。

 

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