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あの夢は強烈すぎて、ただの夢だとは思えない。
「ツクヨミ」だっけ?彼の半身を探すってどういうこと?全く手掛かりがないのに見つけることなど不可能なことのように思えた。彼が言っていた言葉を思い出す。たしか「耳飾りが導いてくれる」とか?
導いてくれるのなら無理に動いて探す必要はないという結論に達したわたしは、自ら進んで見つけることをしないことにした。そしてこの件は運に任せることにしようと。耳飾りは肌身離さずいつも身に着けているのだから。
それから幾日が経った。耳飾りは相変わらずお守り代わりにポケットに忍ばせていたけど、特になにも起こらなかった。
夢でのツクヨミとの出会いを忘れかけていたその週末、わたしはホシカとハナと町に出かけることになった。
わたしたちの住んでいる所は電車で30分も走ると風景が一変する。田舎の雰囲気の最寄りの駅とは違って、電車で30分先の町は都会的でビルが立ち並び、新興住宅地も増えていた。道行く人々はみんなおしゃれな格好をしていて綺麗だ。敷居が高く感じることもあるけど、たくさん興味深いものがそこにはあるので、とことん遊びたい日はだいたい町まで足を延ばしていた。
「ね、一緒にプリクラ撮ろう!」
町に来るのは久しぶりとテンションの上がったホシカが提案した。
「賛成!」
わたしとハナはもちろん乗り気で賛成する。三人で撮ったプリクラはなかなかいい出来だった。
もう少しゲームセンターで時間をすごすことになったので、わたしは二人と別れトイレに向かった。トイレには長い列ができていて、出てきたときにはかなり時間がたっていた。わたしは早く合流しなければと急いで二人の元に戻ろうと駆け足になった。あまりに急いでいたため、通りすがりの人とうっかりぶつかってしまう。
ドンッ!!
「痛ぁっ。」
ぶつかった反動でわたしは尻もちをついた。顔を上げ前を見ると綺麗な格好をした女子三人組がわたしのことを見下ろしている。
「ちょっとなんなの、急にぶつかってきて。」
左側のショートカットの女子がわたしに文句を言った。
「大丈夫?」
右側のポニーテールに眼鏡の女子がおそらくわたしと衝突した彼女の隣にいる女子を気遣った。
「うん、足踏まれたかも。」
そう答えた三人の真ん中にいる女子はとても綺麗だった。ゆるくカールがかかった薄茶のロングヘア。色白でバービー人形のような顔立ちとスタイル。わたしは一瞬彼女に見とれてしまったが、急いで周りをよく見ないで走ったわたしが悪かったと思い、立ちあがり謝ることにした。
「あの、ごめんなさい。急いでいて。」
わたしは三人に値踏みされるように見られる。
「気を付けてよね。」
とポニーテールの女子が言い放つ。
「行こう。」
人形のように綺麗な女子は仲間二人に声をかけ、長い髪をひるがえしてわたしに背を向け去っていた。
「トイレ、混んでた?」
帰りの遅いわたしを心配してホシカが声をかけてきた。
「うううん、大丈夫だった。」
わたしはさっき出会った女子三人組とのやり取りが衝撃すぎて少し気おくれしていた。ホシカに余計な心配をかけまいと無理に笑顔を作って答える。
「あっちのゲーセンでももう少し遊ばない?」
気分を取り直すようにハナがもちかけた。
「行こ!行こ!」
わたちとホシカも賛成する。
普段したことのないゲームセンターでのゲームはとても楽しかった。時間が経つのも忘れていろんなゲームに挑戦した。最後に、ユーフォ―キャッチャーでうまくとれるようにとわたしは無意識にポケットの耳飾りを掴む。
「!」
ポケットに入れたわたしの手はなにも触れることがなかった。大切な耳飾りはポケットの中にはなかった。途端に胸の中に暗い色を落とす。そんなわたしの様子に気付いたホシカが声をかけてきた。
「ミコト、どうしたの?」
「わたし、わたし...。大切なものを落としてしまったみたい。探さなきゃっ。」
二人の反応を確認する間もなくわたしは再び走り出した。今までいた場所に耳飾りが落ちていないか探し回る。今日の服装のポケットは浅めだった。どうしてこんな迂闊な場所に入れてしまったんだろう。大切なものだったのに。
「ツクヨミ...。」
わたしは真面目にツクヨミの半身を探そうとしなかったことを後悔した。なぜだか彼と繋がりがなくなってしまうことがとても寂しく感じた。
耳飾りを落とした場所を改めて考える。わたしはさっきぶつかったときに落としてしまったのではと思い、女子三人組とぶつかった場所に急いで戻る。でも当然そこに耳飾りはなかった。
忘れ物センターにも届いていないか確認したが、耳飾りは届けられていなかった。
「どうしよう...。」
俯ききこれからのことを考えなければと思いトボトボと歩く。フードコートの前に差し掛かった時、聞き覚えのある声に意識が行く。
「これ、本物かしら?」
声の主はさっきわたしがぶつかった綺麗な女子だった。彼女の手にはツクヨミの耳飾りがあった。
「とても綺麗ね。つけてみたら?きっと似合うわ。」
彼女の友達がそう促す。わたしの中でそれはやめてと声がする。わたしは彼女たちの元に駆け寄った。
「あの、それ...、わたしのなの。返してください。」
女子三人が敵意のある目でわたしを見る。
「さっきぶつかってきた子じゃない?」
うざいものを見るような目でポニーテールの女子が言い放つ。
「名前書いてある?なかったはずだけど。」
ショートの女子も援護をする。
「でも、さっきぶつかったときに落として。」
わたしはなんとか説明をし、わかってもらおうと懸命に話した。
「そうだとしてもこれはわたしのものよ?だってわたしの服に引っかかってたんだもん。それにあなたのものって証拠あるの?」
人形のような女子はビー玉のような大きな瞳でキッとわたしを睨みながら言う。
どうすればいいのか、もともと口下手なわたしが三人相手に敵うわけがない。
「それは...。」
このままでは返してもらうことは不可能のことのように思えた。
「ラン、用ってなに?」
とても懐かしい声。
声がする方に顔を向けると男子が一人立っていた。いかにも家柄のいい雰囲気を持つあか抜けた顔立ちの色白の男子だった。肌のせいで黒髪が映える。
「光夜、来てくれたんだ。」
人形のような女子がワントーン高い声でその男子に話しかけた。彼女の名前はランというらしかった。
「助けて。絡まれてて。」
ランは甘えた声で男子にそう言いながらわたしを見た。男子がわたしに視線をむける。わたしは彼と目があった。
この感覚、魂が共鳴し合うような、なぜだかとっても懐かしい...。
『ミコトならきっと俺だとわかる。』
ツクヨミの言葉が脳裏に響く。
そう、わたしにはわかる。彼だ!見つけた。ツクヨミ!
読んでくださりありがとうございます。