黄花1
老婆がわたしのことを知っているとはどういうことだろう?
「どうしてわたしのことを知っているの?」
「お前は捨てられていたのさ。ちょうど大川の手前にね。放っておいたらそのまま川に流されるか獣の餌になってしまう。それでお前の今の家族が連れて帰り育てたのさ。」
「嘘...。」
老婆の話は信じられなかった。そんなことは今まで聞いたことがなかった。みんな本当の家族みたいに。母さんと姉の桃花の話が頭をよぎる。
「お前の姉が泣いて頼んだんだよ。ちょうど妹をお産で亡くしたばかりでね。本人も幼かったから覚えているかは知らないけどね。」
わたしは桃花にこの命を救われたのか。
「またおいで。話相手ができてわたしも嬉しいよ。」
わたしは自分の生い立ちを始めて知った。母さんの話を聞いてしまったから、老婆の話には真実味があった。真相を確認することもできずに、わたしは家族の元に戻ってももう前のように接することができなくなっていた。それからはとてもいい子に、みんなに好かれるような子を頑張って演じた。家族といても自分だけのけもののように感じる。確かにわたしはこの家族の誰とも似ていない。
数年がたつとそんな生き方が板についていた。わたしは心から笑えなくなっていた。
わたしは結局あれから老婆の元には行かなかった。自ら赴き出自を聞いたにも関わらず、わたしは事実を語ったあの老婆のことが疎ましかった。そんな老婆が最近亡くなったと噂が流れた。わたしは老婆との話を思い出していた。
「あの月の神様は清廉だ。欲がない。姿をみたら癒されるよ。」本当なんだろうか?みんなあの社には昼間にお供え物を届けるだけ。月の神様の姿を見た者はいない。老婆は何度か姿を見たようだけど長生きしていた。わたしも見てみようかと好奇心が涌いてきた。
その夜、わたしはみんなが寝静まった後にこっそりと家を抜け出した。月の社まではそんなに遠くない。しかも今夜は満月だから月明りのせいで足元もよく見える。神様はいったいどこにいるのだろうか。どんな姿をしているのだろうと辺りを見回し、月を見上げた。
大きな満月を背に一人の少年が木の上で舞っている姿が視界に飛び込んだ。手には月の光を受けキラキラと輝く剣を持っている。まるでこの世のものとは思えない神々しさ。見ているだけで心が清らかになるような感じがする。老婆が言ったことは本当だった。
それからわたしは天気が良い日にはほぼ月の神様の舞を見に出かけた。神様は月が出ている間は舞いっぱなしだ。さすがにそれにはつき合えないから、一時ほど見て帰るようにしていた。
ある日、もう少しそばで神様の姿を見てみようとそっと音を立てないように近づいてみた。時間が早かったのか月の神様はまだ舞っておらず、木の上で腰を下ろしていた。こうして見ていると神様の後ろ姿は普通の少年に見えた。わたしは神様の顔を見てみたくなった。この距離なら見えるはずだ。
彼の横顔はとても綺麗でやはり神様は違うんだと妙に納得してしまった。ただ黙って月を見上げる彼の眼差しに惹きつけられた。そしてなんだかとても哀しそうに見えた。
その日からわたしは彼の顔が見える場所でこっそりと舞を見るようになった。神様なのに彼にはなぜが親近感を抱いた。一人ぼっちなのが自分と似ていると思ったからかもしれない。
「ちょっと、待ちなさぁいっ!」
最近家で飼い始めたウサギが籠の中から逃げだした。全く懐かなくてとうとう逃げ出す始末。わたしは小さいウサギを見失わないように必死に追いかける。ようやく捕まえたと思ったらすんでのところで逃げられる。気付くとウサギは月の社のそばまで来ていた。
早く捕まえないとという私の願いもむなしく、ウサギは社の中に入って行ってしまった。社の中はいったいどんな所なんだろう?わたしは中に入ってみたくなった。もし見つかってもウサギを理由にすればいいと言い訳も準備してわたしは足音を消し社の中に忍び込んだ。
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