ツクヨミ4
このエピソードからの登場人物
★蛟龍
ツクヨミの時代に存在した神獣。龍の姿。やがて澄龍と成長し、水の恵みをもたらすとされる。しかし、邪な人の影響をうけると濁龍となり、世に災いをもたらす。
この土地は太古より水の恩恵を受けていた。数百年に一度、龍の姿をした神獣、蛟龍が誕生し、澄龍となって天に上ると言い伝えられている。澄龍は水の恵みをもたらす。
そうしてますますこの地は栄える。そのため川が多い地域であったが水害は一度もなく、澄んだ水の恵みを受け、作物がよく育ち人の集まりも増えていった。
この年、まさにその神獣が誕生した。程なくして、澄龍となるまで神獣を見守り世話をする一族から伝達が届いた。
『誕生したばかりの神獣は何ものかに奪われた。濁龍となれば災いが起こる。至急捜索を要請する』
「恐ろしいことです。しかし、何を心配することがありましょうか。」
「そうですとも。我らカナウ様配下の花鳥風月の神々が毎夜祈りを捧げているのです。」
「こういう不測の事態のための祈りです。」
「濁龍が誕生することはございません。」
「祈りの力が良い方向に導いてくださるでしょう。」
しかし、右月、左月の読みは外れた。
長雨が続き、川が氾濫したのだ。俺の祈りは月には届いていない。暮らしが苦しくなった人々の心は病んでいき、濁龍の好む餌となる。
この地域を皮切りに災害、争いが各地に広まる。花鳥風月の強固な守りのバランスが崩れたのだ。俺が人と関わったから。
「何かの間違いでございます。」
「ツクヨミ様、祈りを続けるのです。」
もうここの近くの大川までもが氾濫しようとしていた。そうなったらここは終わりだ。
「右月、左月、すまなかった。俺が悪い。」
「え?」
神使達がそろって声をあげる。
「俺は一人の女を愛した。でも今でも後悔していない。」
自分の全てを掛けて今夜月に祈りを届ける。この土地を守らなければ。黄花がいるここを。
「ツクヨミ!」
「黄花、まだ逃げていなかったのか?」
「一緒にいるって約束したでしょ。」
「ここは危ない。みんなと一緒に逃げるんだ。」
「いやっ。」
黄花が強く抱きついた。愛しいぬくもり。彼女のためにも祈らなければいけない。
「黄花、誓ったろ。もう離れないと。」
黄花の目をしっかりと見て話す。
「うん。離れない。わたしが絶対に一人にしない。」
「そうだ。」
黄花とは今生ではこれが最後になるだろう。まだわずかに残っている神の力がそう囁いていた。
でも、必ず見つける。何度でも転生して黄花と添い遂げる。数百年間自己を捨て、人のために祈ってきた。これくらいは願いを聞いてくれ。そう自分の中の神の力に祈る。
「これを。」
左耳から耳飾りを外す。現人神となってから肌身離さずつけていたものだ。今後の黄花の力になってくれるはず。
「これ...。」
「黄花、俺もお前を探すから。黄花も...。」
「うん、絶対に見つける。それでこの耳飾りをツクヨミに返すから。」
涙を流しながら約束をした。
「さぁ、行って。」
何度も振り返りながら黄花は去って行った。
瞼を閉じ、精神を統一する。社の裏の大木に上り村を見下ろすと大川が荒れ狂っていた。全てを掛けて祈りの舞を舞う。こんなに人を守りたいと思ったことはない、救いたいと願ったことはない、今ほど神の力がほしいと思ったこともない。
力の限り舞い続ける。大川の水が溢れ龍の姿となり俺に襲ってくる。
濁龍!
俺の意識はそこで途絶えた。
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