第一節 ◇ 鋏
『明日へ続く道。』
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お前たちの旅が、
つねに輝かしいものであることを祈っている。
あの虹のようにな。
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ボクたちは、巨大階段の中の階段を通って、トロッコのところに戻ってきた。
ヒマワリは、出入り口にカギをかけると、全体をツタで覆った。
「これで、もう、大丈夫。やり残したことはないわ。さあ、この世界の出口を探すわよ。」
ボクたちは、いよいよ世界の出口を目指すために、再びトロッコに乗って線路を戻った。ただ、あの光あふれる世界もブラックホールも、まるで最初から存在していなかったかのように跡形もなく消えていた。
それ以外の『象徴』はそのまま残っていた。鍵の『象徴』のそばを通ると、ヒマワリは流れるお茶を飲んでみたいと言い出し、フキの葉っぱで作った器をトキワにおしつけて困らせていた。
宇宙の『象徴』で、トキワはヒマワリを月に連れて行った。ヒマワリは、月で飛び跳ねたり、餅つきの恰好をしたりと、楽しそうに遊んでいた。
寄り添う形の『象徴』では、ヒマワリが作ったハシゴを使ってサクランボに登ってみた。これまで見てきた『象徴』が遠くに見えた。
ボクたちは、残された時間を惜しむように楽しんだ。
トロッコは、マグカップの時計に到着して停止した。トロッコを降りて木の道に移動すると、ヒマワリは、トロッコを小さくして、線路といっしょにマグカップの時計の文字盤にしまった。
「トロッコにつけたまま小さくしちゃったから、イチョウの絵も小さくなっちゃった。」
ヒマワリは、ボクの手のひらに収まるくらいに小さくなったイチョウの絵を、申し訳なさそうに見せると、
「でもね、ペンダントを作ったの。」
と、にっこり笑ってボクに手渡した。ボクは、ヒマワリからペンダントを受け取って首に下げた。
「ありがとう、大切にするね。」
首に下げる紐は綿でできていて、肌触りがいい。なるほど、たしかに木綿も植物だ。
少し歩くと、木の道に食いこんだハサミが見えてきた。あのハサミは、まだ動けないでいるらしい。
「あのハサミのあたりから降りれば、ちょうど、コンクリートの道よ。」
ハサミに近づくと、トキワは、目をキラキラさせてハサミの周りを飛び回って観察した。
「少し、エネルギーが回復してきたのかな。あのときよりツヤツヤしている気がする。」
そうね、と、ヒマワリは微笑んだ。
「自分のことを、自分の心を、考えたのかしら。」
ハサミは、まるでヒマワリの声に応えるように、ギギギ……と音を立てて木の道から離れた。そして、刃先をそろえて下に向けると、勢いよくコンクリートの道に突進して突き刺さった。指を入れる穴と持ち手の部分は木の道に寄りかかっている。その状態で、ハサミは、再び動かなくなった。
「わずかに回復したエネルギーで、コンクリートの道に下りるための坂を作ってくれた、ということか。」
トキワは、ハサミをまっすぐ見つめた。
「これが、ハサミの見つけ出した自分だけの答え、なのだろう。」
安全に下りられるように、ヒマワリは木の道にトケイソウを植えて、ハサミにそのツルを巻きつけた。ボクたちは、トケイソウのツルを足場にしてコンクリートの道へ下りた。
ヒマワリは、振り返ってハサミを見上げた。
「この世界では、自分が立っているところが、いつでも世界の中心なの。それは、場所のことだけではないわ。自分の心も、なのよ。」
そう言うとヒマワリは、ハサミにそっと触れた。すると、トケイソウが輝き出し、一気に花を咲かせた。
「坂道を、ありがとう。」
ボクたちは、まっすぐのびるコンクリートの道の先を見た。そして、花で彩られたハサミに別れを告げた。




