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034話 嗜欲の血眷(アマルティア)

 ピタっ、と旋回を停止したミュウは端整な指先を顎に「さて」と前置きをすると、本日最重要目的の話を斬り込み始めた。



「妾の力は薄々わかっておると申しておった故、変な隠し立ては無用じゃろう。妾の場合は糸を応用し様々な戦術を駆使しておるのじゃが、お主は妾と同じく固有の武器を有しておらんかったな。何かの能力を基に得物を作り出し、伸長し、結界、更には特殊電磁砲(エネルギアオヴィス)まで……一体どういう理屈なのじゃ?」



 交渉材料を持ちかけてくる当たり、腹の探り合いは無益だと判断するミュウは己の能力を微塵も秘匿しようとしない。どうしてそこまでして己の能力を知りたいのかは判然としなかったが、ルカは目に見えるミュウの誠実さを信用して曝け出していく。



「俺が把握している自分の能力を分類すると大きく分けて二つ、その内の一つが創造だ。俺の意思によってありとあらゆるものを実体化することができる。想像に応じて武器の規模も自由に変化させることが可能なんだ」

「想像に応じて創造か……なんっじゃその能力は! 反則級(チート)ではないか!」



 諸手を広げ反則級(チート)と過大評価するミュウだったが、当の本人からすれば不都合が際立つ場合も往々にしてある。単一創造の縛りであったり、魔力消費が嵩むなどの難点は把握しているが、ルカは求められない限り伏せておくことにした。

 ミュウ直々に『今は敵対する気がない』と宣告されているが、逆説を読めば今後何かの拍子に再度争うことになる蓋然性を考慮するべきだ。弱点を突かれ首を絞めることになっては本末転倒だろう。



「ふむ、じゃがしかし、疑う余地はなさそうじゃの。となればもう一つは身体強化かの?」

「あぁ、君との戦いで偶然目覚めたって感じだったけどな」

「くふふ、まるで主人公じゃの。仲間の窮地に新たなる力の開花! ってやつはどうじゃ、さぞかし快感じゃったろう? んん?」

「死にかけてたんだ、それどころじゃなかったよ。まぁ結果的に君に一泡吹かせることが出来たみたいだし、終わりよければ全てよしだな」

「ふぁ!? ふ、吹いてなどおらんわ! 一度追い払ったからとはいえマウントを取るのは卑怯じゃぞ!」



 ルカ・ローハートにはこうかがないようだ……

 ミュウの唐突な皮肉の籠った口撃は、鈍感なルカは皮肉に受け取らない。自身も率直な心境を述べたつもりが、ミュウにとっては辛辣な言葉となって心を殴打した。

 唸り悔しがるミュウに、意思が関与しない場所で卑怯扱いされたルカは首を傾げる。



「ふんっ! 次こそは泡どころか糸すら吐けんほどに妾がズタズタにしてやるから覚えておくのじゃ!」

「意気込んでるところ悪いが、健康状態でも糸は吐かないぞ?」

「それもそうじゃな……って、妾とて糸など吐かんぞ!? 妾を虫ケラ扱いする気かの!?」

「言ってねえよ! 何一人で盛り上がってんの!?」



 夜更けの光源地帯で近所の迷惑を顧みずギャーギャー騒ぎ立てる二人を見下ろすのは、静かに佇む幸樹だけ。一度敵対した二人が和気藹々と絡み合う姿にくすくすとそよ風が枝葉を揺らす。



「くっ……なんじゃか腑に落ちんがまぁよい……話が脱線しすぎじゃ。お主のせいでな!」

「え、俺のせいか今の!?」

「そーじゃ! ぜーんぶお主のせいじゃ! お主がこの世に生まれてきたこと自体が悪いのじゃ!」

「何子供みたいな言いがかりつけてんだ!? 早く話元に戻せよ!?」



 話を元に戻す気があるのかないのか、意趣返しのように何かと因縁を吹っかけてくるミュウは何故か勝ち誇って胸を張り、得意げな顔で見下していた。

 ルカは思った。思ってしまった。

 この憎たらしさが【嫌悪】なのではないだろうか、と。



「いいじゃろう、お主の要望通り話を戻してやろう。感謝するがよいぞ?」



 半ば反論を諦めて半眼で見据えるルカは確信したのだった。

 ルカに陰が差していることも眼中にないミュウは、一段と上機嫌で続ける。



「創造、身体強化。多種の能力を有しておること自体が信じられんが、何らかの能力の応用ではなく、お主は変化する能力を有しておる、と言ったところか。では最後に使うた光の剣はなんじゃ? あれは双方どちらにも当てはまらんじゃろ。被撃してない故わからぬが、あれだけは受けてはならぬと警鐘をあげたぞ?」



 一度息を大きく吐き、心情を仕切り直すルカ。

 ミュウの当初の目的へと舞い戻った質問は、一度は黙秘権の行使だとはぐらかしたものの、交換条件を提示されての承諾では蔑ろにできないだろう。

 とはいえ、やはりルカにも答えようがないことも事実だった。



「ん……悪いが、あれだけは俺にもわからないんだ。君に攻撃が当たらなかったわけだし、そもそもの戦闘経験が少なすぎて……あ」



 と、言いかけたルカに一つの記憶の断片が舞い降りた。

 初戦。対戦相手は鶏頭蛇尾バジリスク。

 二度の使用、一度だけ直撃を完遂させたバジリスクの蛇尾のなれの果てが唯一の情報である。



「ん? 何か思い至ったか?」

「いや、なんでもない」

「……何を隠しておる? お主と妾の間柄じゃ、秘密など無用じゃ」

「殺されかけたのに間柄も何もないだろ。親密度なんてゼロどころかマイナスだぞ?」



 胡乱げな双眸でじりじりと詰め寄ってくるミュウに、ルカは結果を口に出すことを躊躇う。

 その理由としては、蛇尾の結末が凄惨であったこと。恐らく想像の範疇を超えるであろうこと。



「過去のことなどよいではないか。捨て置け捨て置け。もとより交渉は成立しておるのじゃぞ? ほれほれ。それともお主は約束も守れぬ男子(おのこ)かの?」



「いいわけないだろ」と心の中でツッコミを入れるも、ミュウの言い分は至極真っ当だ。交渉は成立しているが故に守らないわけにはいけない。よしんば思い起こしたとしても、隠しきれなかった己の落ち度だとルカは意を決する。



「……わかったよ。以前幻獣相手に直撃させたことがあるが、その時は相手が『消滅』したんだ。人間相手にはわからん」



 これで満足か、とルカは待望の答えを待ち受けるミュウへ視線で訴える――が、その先には時を凍らせたミュウの姿が。口を軽く開けたまま放心状態、間抜けという言葉がぴったりであっても妖艶さは欠片も失っていない。



「………………え?」

「だから消滅。跡形もなく」

「どこに?」

「それは知らん」

「そ、そんなものを妾に当てようとしてた、のか……?」

「殺意剥き出しで襲いかかってきた君が言うか?」



 ミュウは自身を棚に上げ、負滅救剣(エフティヒア)衝撃の事実にルカへの恐怖を覚えて距離を取る。

 勝機を手繰り寄せるため無我夢中で解放した切り札だったとはいえ、人間相手にも消滅の公算が見込めるのであれば凶悪過ぎる能力だと認知されてもおかしくはない。ミュウの反応から使いどころは場所と時を慎重に選択しなければならないと心に誓うルカだった。



「俺の能力はこれで全部だ。次は君について教えてくれ」



 一頻り己の情報を吐き出したルカは少しの()()()を覚えながらも、聞き手交代だと話の手綱を手放した。

 動揺から頬を引き攣らせ硬直していたミュウはルカの声に体をびくつかせるも、女優の演技のように自然体を身に纏いルカの周囲をゆっくりと歩き出す。



「あ、あぁ。そうじゃな……手始めに単刀直入に聞こう。ルカ・ローハート、お主、妾に魅力を感じるか?」

「いや、別に」



 背後へと回った麗人ミュウ・クリスタリアへルカは即答した。

 下界の住人が揃いも揃って夢中になるほどの美貌を携えた少女に放たれた無慈悲の否定は、大薙ぎの鎌となりて精神を斬首する。

 首を回し反応を待つルカは、地面にめり込むほどに首をもたげ落ち込むミュウの姿に体の向きを変えた。



「どうした?」

「い、いや……一切の翳りもなく否定されると、それはそれで傷付くの……」



 何故このようなことを聞くのかを訝しげに感じたルカだったが、ミュウとの死闘、そして口論を思い返せば自ずと見えてくるものがあった。



「もしかして君の正体と関係があるのか? 魅了(エピカリス)? を行使した時も『忌々しい力』とか言ってたよな」



 能力(エピカリス)行使直後のサキノの豹変、不発により自暴自棄になったミュウの行動は、ミュウ自身の魅力に起因するのではないかとルカは推測した。

 見れば見ただけ虜になりそうなほどに宝石じみたミュウの紅玉(ルビー)の眼をルカは熟視し、ミュウはその視線に対しぽつぽつと過去を語り始めた。



「よう覚えておったの、その通りじゃ。……妾は幼少期から『異常体質』というやつでの、常軌を逸するほどに好意を持たれながら生きてきた。比喩ではなく言葉通りに、の。中にはモテに羨望を説く者もおったが、妾はそれが嫌で嫌で仕方がない。(おのこ)の下心のある目、(おなご)の羨望好色の目、四六時中監視されているかのような視線過多――吐き気がする。そんな老若男女問わず虜にする体質でありながら『色欲』に従順であることを拒んだ妾は呪われたのじゃ」

「呪われた……? 誰に?」

「『悪魔』に、じゃよ。『色欲』の悪魔にな」



 神に祝福され、天に恵まれ、生に持て囃された。

 故に呪われたのだと。



「だから妾は世界を憎むのじゃよ。天恵であろうが、天資であろうが、不条理極まりのない性質を付与し、妾を産み落としたこの世界を滅ぼしたいくらいにの」



 望む者が受け与えられれば、百利あっても一害なしだったのだろう。いや、生物の本能からすれば情愛を享受し、己の魅力に酔い溺れる者も少なくはないだろう。酩酊までせずとも良識ある程度で人生を謳歌する者が大半を占める筈だ。


 しかし少女は一切それらを望まなかった。

 大いなる(プラス)を受益しないことが、自身を苦しめる(マイナス)に転換される理不尽を呪っているのだ。



「そういうこともあり、妾に一切の魅力を感じんお主に関心を持った、という話じゃよ」



 運命を恨み、世界を憎むも、靡かぬ者はいなかった。

 救いのないと思われたこの世界に現れた異彩の少年。

 はたまた運命の悪戯か、神様の遊戯か、敵方として関係を持ったが関心を抱かずにはいられなかった。

 ミュウ・クリスタリアからしてみれば四面楚歌の世界に落とされた一滴の波乱のようなものだったのかもしれない。



「それはそうとし、ここからが本題じゃ。妾のように悪魔に魅入られた奴等……『嗜欲の血眷(アマルティア)』と呼ばれる者が妾の他に六人おる筈じゃ」

「嗜欲の血眷……筈って事は確定じゃないのか?」

「うむ。悪魔とは世に七体おるが、自身が司る欲に従順な者にしか寄り付かん。未だ宿主を探して居る悪魔もおるかもしれんというだけの話じゃ。妾が確認出来ておる嗜欲の血眷は少なくとも三人。はっきり申しておくが、そやつらと戦闘になりかけたら迷わず逃げろ。中には悪魔の力を使いこなす者もおる。妾のように甘っちょろく悪魔と欲に従順でない奴などおらんからの。ま、お主がどうなろうと妾は別に構わんがの。滅亡が早まるだけじゃ」

「心配してくれてるのか?」



 警告を発し、逃亡を示唆するミュウの姿は、ルカにとって敵の助言とは思えなかった。憂慮を抱く慈母のような、気遣いを捧げる親友のような存在に見え、思わず本音が口から漏れ出ていた。

 強がりのようにミュウは悪態をついたものの、ルカの本音が耳朶を叩くと、ハッと息を落とし、見る見る内に赭面していく。



「は――――はぁあああああああああああああああ!? そそそそそんなわけないですー!? 私とキミは敵同士なんだから馴れ馴れしく心配なんてありえないんだから!! かっ、勘違いも甚だしいですねえ!?」

「いやだって、逃げろって――」

「違うもん! なんでそんなイヂワル言うの!? キミは好きな女の子にちょっかいかけたくなるタイプなのか!? そうでしょ! そうなんでしょう!? いやでもそうなると私の事を好き……うぎゃあああああ! ないない! だって魅力ないって……はっ!? そうか、実は気になってるのに認めるのが恥ずかしいんでしょ!?」

「テンパるとキャラブレすぎだろ」

「キャラじゃないもん!! 女の子が古風口調だったら周りが敬遠するとか、恋愛対象から除外されるだろうとか軽率な考えで作ってるわけじゃないもん!!」

「それ余計に目立ってない?」

「があああああ! それ以上言わないでええええええええええ!? 逆効果だってこと実は気付いてるけど後に引けないんだよおおおおおおおお笑うなあああああああ!?」

「笑ってねえよ……わかったわかった、俺が悪かったよ……」



 実はこんなに打たれ弱かったかと、これが死闘を交えたミュウ・クリスタリアとは別人だと疑いたくなるルカ。

 ふーっ、ふーっ! と涙目で肩を震わせ威嚇するミュウの圧を噛み殺し、ルカは情報を一度整理する。


嗜欲の血眷(アマルティア)』『悪魔の力』。


 悪魔に魅入られるほどの欲を身に宿した相手がミュウの他に少なくとも三人。

 その全員が敵であるかは定かではないが、二人がかりでようやっと撤退にまで持ち込んだミュウとの激戦を顧みれば一筋縄ではいかない相手であることだけは間違いない。


 たまたま上手く事が運んだだけで、力、経験全てにおいてミュウが幾段も格上であったことは否めず、一歩間違えれば両者(サキノ)共々命を落としていたかもしれないのだ。

 そんな命懸けの戦闘を回避できるのならするに越したことはないが、ミュウの口振りからして嗜欲の血眷と敵対する未来が込められているような気がしていた。


 得体の知れない強敵が確かに存在しているという不穏さが心中を渦巻いていたが、今ばかりは身構えても仕方がない。今日の所は情報を仕入れることができただけでよしとするしかなかった。


 話に一度区切りがついたルカは己の中に巣篭っていた幾つかの疑義を究明すべく、ミュウへと魔界の精通を尋ねる。


「なぁ、君は魔界に詳しいか?」






「……先程から思っておったが、その『君』という呼び名はなんじゃか好かん。名で呼べ」

「ミュウは魔界に詳しいか?」



 他人行儀のような距離間――本来であれば至極当然の距離――が気に召さなかったミュウは呼び名について訂正を挟むも、ルカは機械のように受け入れ再度同じ質問を飛ばす。



「順応早過ぎじゃないかの……? 少しくらい……まぁよい。――どちらとも言えんのう。魔力回復のため魔界に訪れたりはするが、妾の本拠は下界じゃ。しかしこの寛容な妾が話だけなら聞いてやろう、なんじゃ?」

小熊猫(レスパンディア)ってどんな種族なんだ?」



 軽装の上からでも十分な膨らみを魅せる胸を張ったミュウへ質疑を談じたのは、シロの種族について。

 そして拳を交えた男小熊猫(ヒーレスパンディア)の異様なる種族尊崇。まるで小熊猫(レスパンディア)以外を見下すかのような、種族優位の知識を乞う。



「ふむ、短簡に申せば夜に強化する能力『夜昇(やしょう)』を持った種族じゃな。団員の大半が小熊猫(レスパンディア)で構成された【夜光(やこう)騎士団】という騎士団があるが、中堅派閥ステラⅢの割に危険視されておるくらい秀でた種族じゃ」

「夜に強化するだけで危険視?」

「だけと侮ってはならんぞ。考えてもみい、通常の人間ならば夜間は視野が狭くなり空間把握能力が低下する。それを奴等は身体能力、視野、思考能力までをも上昇させるのじゃぞ。夜に奴等が暴徒と化せば、恐らくは甚大な被害が出ることじゃろうな。上位派閥とやり合えるほどだと危惧する声もある」



 一理あると得心を抱くルカだったが、そうなるとシロが自己の事を貶めていた理由に説明がつかないことに違和を唱える。



「昼間は力を十全に発揮できない負要素(デメリット)があったりは?」

「ないの。個々の能力が高ければ連動し夜間の能力も上昇する、種族ならではの恩恵じゃ。そういった恩恵のある種族は稀有であるが故に、どうにも種族格差が高位だと勘違いした驕慢さが滲み出ておる。最近では何やら都市で暗殺も横行されておるようで、魔界の夜間はこのように寂びた有様じゃ。だーれも出歩かん」

(ああ、なるほど。彼女が一晩相手出来ない事に謝罪を口にしていたのはこういうことか)



 ほぼ無に近い魔界の夜都市、少女の謝罪の合点がいった。

 つまりは暗殺が横行している危険な夜――事実ルカが遭遇した男小熊猫(ヒーレスパンディア)のような輩が蔓延る状況――に非礼の代償として夜間は匿うつもりでいたが、事情も事情により帰去させる羽目になってしまったことを心苦しく思っていたのだ。

 腕を組み整理と理解を繰り返すルカへ、ミュウは何かを思い出したかのように唐突に手をパンッと叩き音を散らす。



「おお、そういえば半年ほど前……小熊猫(レスパンディア)の希少種の女子(おなご)が騎士団長の首を斬り付けるといった殺傷事件があっての、暗殺が横行し始めたのはその頃からじゃ。犯人は未だに捕らわれておらぬらしいの」



 手刀で己の首を斬る仕草を取るミュウの不穏な単語に、ピクリとルカの眉が跳ねる。


 ――小熊猫(レスパンディア)希少種の少女が騎士団長を殺傷?


 人違いであれば不可解な点など一つもないのだが、都市から追われ身を隠匿している者を知っている。

 偶さかにも合致する種族と特異性、付き人(ゼノン)が話を制止する『秘め事』、少女達が置かれている身の上。

 統合的に判断してもシロを差すことは、魔界の狭い部分しか見ていないルカにも容易に見て取れた。

 しかし気掛かりがあるとすれば、少女の言葉とミュウの話に矛盾している箇所があること。


 ――弱いと自己卑下していた少女が、騎士団長を殺害できるほどの実力を?

 ――大切なものも守れないと謳っていた少女が、意思に相反する行動を?

 ――ポンコツで疎い少女が、半年も都市の目を掻い潜りながら暗殺を?

 ――己の身を案じ、子供達の未来を憂う少女が蛮行を犯すだろうか?


『世の中には可愛い顔して平気で悪逆を働く者もいる。女だから、か弱いからといって誰でも庇ってたら、いつか痛い目に遭うのは自分だぜ?』


 ついでに歯牙にもかけていなかった男小熊猫(ヒーレスパンディア)の声も。



「何かが決定的に食い違っている……?」



 頭にこびり付いて離れない、()()()()()()少女の悄然とした顔と大事件を対比させていく。

 自分の世界に浸っていくルカを怪訝な顔つきで見守るミュウの姿だけがその場に居合わせ、魔界の夜が更けていくのだった。




 ちなみに下界帰還予定時刻を大幅に超過したルカが薬を届けに行くと、夢現で待っていたココによって朝日が昇るまで説教を受け続ける羽目になったという。


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